関ヶ原合戦図や源平合戦図には武将たちの家紋が描かれた旗や陣幕がはためき、その家紋はいまでも冠婚葬祭で着用する羽織や着物などに描かれています。家紋がわからない人も、名字の由来からその家のルーツや歴史を知ることができます。
『ルーツがわかる家紋と名字』(宝島社)では、日本の氏姓制度の導入から現代に至るまでの変遷など、家紋と名字のいわれと歴史をひもといています。いつか自分史を綴りたいと考えている人におすすめの一冊です。今回は、誰もが持っている「名字の驚くべき真実」について紹介します。
監修/高澤等、森岡浩
日本人の名字の種類が多いのは微妙な違いのせい
日本人の名字の数は「おおよそ十万種類」で、アメリカ、イタリアに次いで世界第3位の多さだといわれている。「おおよそ」とつくのは、種類が多いうえ、「松田」と表記する名字に対して「まつだ」「まつた」「まった」と、複数の読み方が存在するからだ。さらに、新字体の「渡辺」と旧字体の「渡邊」、さらにその異字体の「渡邉」というように、表記にもちょっとした差異がある。しかし、戸籍上は「齋藤」だが漢字が難しいため普段は「斎藤」を使っている人がいるように、微妙に違う名字を同じ名字と考えるか否かによって、名字の数が異なってくる。そのため、正確な数字を出せないのである。
地形の変化が豊かな日本ならではの名字
日本人の名字には地形や地名が由来のものが多く、現在の都道府県名にも、少なからずその土地の名前が採用されている。日本は地理的に山と河川が多いため、都道府県名と同じ名字を持つ人の数で多いランキングを作成した場合、1位が「山地への入り口」に由来する山口姓で、2位が「石(砂利)の多い川」に由来する石川姓となる。この2つの合計で、なんと105万人を超える。3位は「神社(お宮)の近くの山」を意味する地名に由来している宮崎姓、4位は現在の千葉県千葉市をルーツとする千葉姓、5位が各地の福島地名をルーツとする福島姓となる。
なお、東海道や南海道にちなんで明治になってから新たに命名された「北海道」、首都を意味する漢語にちなんだ「京都」、『古事記』などに記されている古名(愛比売)に由来する「愛媛」、近世の地名の俗称に由来する「沖縄」と同じ名字は存在しない。
まるでトンチ話のような由来を持つ難読名字
おおよそ十万種類ある日本人の名字には、全国でたった一軒しか名乗っていない希少な名字や、漢字が難しいだけでなく、漢字から予想できない読み方をする難読名字が存在する。例えば「一口」という名字は、そのまま「いっこう」と読む場合もあるが、「中に大勢の人がいる建物に出入口が一つしかないと、みんなが一斉に外に出ようとしたら出入口に人が殺到して芋を洗うような状態になる」という連想から、「いもあらい」と読むケースもあるのだ。
このほかにも、栗の花が散る頃に梅雨入りすることから「栗花落=つゆいり」という読みが変化して「つゆり」と読む名字や、鴨の脚と銀杏の葉の形が似ているため「鴨脚」を「いちょう」と読む名字がある。また、寝ている龍(臥龍)は長い岡のようだから「臥龍岡」を「ながおか」と読む名字など、トンチ話のような由来の難読名字が存在。さらに、「京(かなどめ)」「鶏冠井(かえで)」「薬袋(みない)」など、難読名字は数えるとキリがない。
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