【家族の貧困】「高学歴の長女は子連れの出戻り…」窃盗癖がある娘と孫の生活をみる60歳女性の憂うつ～その２～

取材・文／沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代（1970～80年代前半生まれ）のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

＊　＊　＊

コロナ禍以降、非接触ニーズに応えるかのように、スーパーマーケットのセルフレジや餃子や肉の無人販売店が目立ち始めた。それと同時に増えているのは、万引きの防犯ポスターだ。小売店に行くと、「STOP！　万引き」や「防犯カメラ監視中」などという張り紙が、あちこちに貼られていることに気付く。『犯罪白書』（2022年・警察庁）によると、非侵入窃盗のうち万引きが占める割合は、73.6％だった。

今回、お話を伺った久美子さん（60歳・無職）は4年前に夫を亡くした（享年66歳）。会社経営をしていた夫は「老後は安泰だ」と言っていたにも関わらず、蓋を開けると満足な蓄えはなかった。お金の不安がある中、窃盗癖がある長女（35歳）が、息子（5歳）を連れて離婚してきたのだ。

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娘はストレスが溜まると、万引きをする

（商品を）間引くが語源と言われる万引き。刑法に万引きという言葉はなく、窃盗罪にあたる。娘は小学校時代から、万引きを繰り返していたという。

「主人が成績のことできつく当たると、娘の部屋の机に見たことがない消しゴムや鉛筆キャップがあった。娘に聞くと、友達にもらったとか、塾の景品だと言う。私も気にしていなかったら、あるとき警察から電話がかかってきたんです。あれは中学生の頃だったかな。髪の毛の脱色剤を万引きしていて、泣いて土下座して謝ったことを覚えています」

夫に伝えれば、娘が殴られると思った久美子さんは、娘にいかにモノを盗むことが恥ずかしい行為であり、罪深いかを話した。その間、娘はうなだれて聞いていたという。

「私も気になっていろいろ調べると、窃盗の依存症があると知りました。娘は語りませんが、たぶん、モノを盗って、お店を出ると達成感にスッとするみたいですね。だから、高校時代は娘のストレスがかからないように、娘を励まし、受け入れる態度を貫いたのです」

でも夫は成績が下がると「オマエに生きている価値はない」「俺と同じ大学に行かなければ、人生は終わる」などと繰り返した。

「たぶん、高校時代も万引きはしていたと思うんです。ただ、周到に隠していたんじゃないかな……でもそんなことを憶測で語ってはいけませんね。娘はやっていないかもしれないのに」

大学に入ってからは、特に異変を感じなかったという。ただ、ボーイフレンドが多く、泊まり歩いていたのだと聞くと、性への依存症のことを考えてしまう。

「それはあったかもしれない。変なストーカーみたいな男が、ウチの周りをうろうろしていたこともありましたから。それに、子供を堕ろしたような気配があったこともありました。私は黙っていましたが、ずっと気持ちがふさぎ込んでいて、近所のお寺にお参りに行っているのも見かけましたし」

久美子さんの自宅は江戸期から続く東京の寺町の近くにある。娘がお参りしていたお寺の名前を検索すると、水子供養で知られる古刹だった。

「長女に比べて、次女（32歳）はあまりデキがよくなかったんです。落ち着きがなくて忘れ物が多くてボーッとしていると言われ、主人も早々に諦めたんですよね。中学受験はしたんですが、それも友達に誘われたから。それほど有名ではない私立の中高一貫女子校に友達と行き、天文部の活動に没頭。指定校推薦で有名ではない理系の大学に進んで、4年で卒業したんです。そして、新卒から10年間、宇宙開発の会社で仕事をしています。結婚もしておらず、女性の友達とルームシェアして楽しそうに生活してますよ。結局、親が構わないほうが、子供はまっすぐ育つんですかね」

【娘への暴力を、見て見ぬふりしたことに対する非難……次のページに続きます】