体重を落としたい。でも、食べる量を減らすダイエットはつらく、なかなか長続きしませんよね。そこで、池上敏郎医師の著書『お腹いっぱい食べて内臓脂肪を落とす 大豆ミートダイエット』から、植物性タンパク質である「大豆ミート」を食事に取り入れて、無理なくダイエットする方法をご紹介します。
文・池谷敏郎
古くから食べられている大豆ですが、そのダイエット効果・健康効果は、食生活の乱れた現代人のお悩み解消に役立つものばかりです。
食物繊維と大豆オリゴ糖
あなたの便の状態はどうですか? 毎日、かたくもゆるくもない、ちょうどいい便が出ていれば、あなたの腸の状態はおおむね良好と考えることができます。下痢しがち、便秘がちな人、便が出てもかたかったり水っぽい場合には、残念ながら腸内環境が悪化している可能性があります。
腸内には100兆個を超える腸内細菌が存在していて、大きく、健康に役立つ善玉菌(乳酸菌・ビフィズス菌など)、毒素などを出す悪玉菌(病原性大腸菌・ウエルシュ菌など)、日和見菌という3つのグループに分けられます。善玉菌と悪玉菌はバランスが大事で、善玉菌が優勢であれば日和見菌がその味方について腸内がいい環境に保たれます。逆に悪玉菌が優勢になると日和見菌がそちらの味方をすることになり、悪玉菌が出す毒素が体にダメージを与えます。
善玉菌を活性化して腸内環境の改善に役立つのが、食物繊維と大豆オリゴ糖です。どちらも善玉菌のエサとなり、腸内環境の改善に役立ちます。
とくに、水溶性食物繊維は善玉菌のエサとなって、内臓脂肪の蓄積を防いで燃焼を促す働きをする短鎖脂肪酸の材料となります。
意外に知られていませんが、大豆にはオリゴ糖が含まれています。オリゴ糖には何種類かあるのですが、大豆オリゴ糖は胃などで吸収されることなく大腸まで届くのが利点です。食物繊維やオリゴ糖で腸内の善玉菌が活性化すると、免疫力が高まるだけでなく、腸の炎症も抑えることができます。
●大豆サポニン
大豆サポニンには、生活習慣病などの要因となる活性酸素を消去する作用があるものと、体内の抗酸化物質を安定させるものがあり、相乗効果で強力な抗酸化作用を発します。動脈硬化予防はもちろん、全身の老化予防に役立ちます。脂質の代謝を促進し、体脂肪の蓄積を抑制したり、血液中の悪玉コレステロールを低下させたりする働きもあります。
●大豆レシチン
レシチンは脂質の一種で、細胞膜の主成分です。細胞の新陳代謝に欠かせない物質で、自然界の植物のすべての細胞に存在しています。大豆レシチンは、皮膚細胞の機能を正常に保つ働きがあり、シミやくすみをできにくくして肌の老化予防に役立ちます。
●ポリアミン
アミノ酸のひとつであるアルギニンから合成される成分で、すべての細胞内でつくられています。細胞の増殖に関わっていて、多くの生理機能を備えており、「細胞の元気さを維持する物質」とも呼ばれます。健康寿命を延ばしたり、老化に伴って起こる動脈硬化、認知症、がんなどの予防が期待できるといった研究報告があり、注目を集めています。
大豆イソフラボンには動脈硬化予防やがんの予防効果も
大豆には、食物繊維をはじめとしてさまざまな有効成分があることをご紹介しましたが、もっともよく知られている成分は大豆イソフラボンでしょう。ポリフェノールの一種で、化学構造が女性ホルモンのエストロゲンに似ていることから、女性の健康維持に役立つと言われています。
しかも、大豆イソフラボンの恩恵は、女性だけでなく男性にももたらされます。その代表的な効果を紹介しましょう。
動脈硬化予防
動脈硬化の進行に関わっているのが悪玉(LDL)コレステロールです。血液中のLDLコレステロール値が高いと、動脈硬化が進行して、心筋梗塞や脳卒中のリスク高くなることがわかっています。LDLコレステロールは数値が下がりにくいのですが、大豆イソフラボンにはLDLコレステロールを低下させる働きがあります。
はっきりしたエビデンスもあります。国立健康・栄養研究所の調査では、大豆イソフラボンを1日100mg、1〜3か月間摂取すると、血液中の総コレステロールが平均3.9mg /dl、LDLコレステロールが平均5.0mg/dlも低下することが確認されています。
更年期対策
大豆イソフラボンでもっともよく知られているのが、更年期症状の予防や改善でしょう。エストロゲンが不足する更年期前後の女性にとって、大豆イソフラボンを摂取することは、ホルモンバランスの乱れから起こるめまい、ほてり、といった更年期症状の改善に役立ちます。
骨粗しょう症予防
大豆が骨粗しょう症予防にいいと言われるのも、大豆イソフラボンの働きです。女性は更年期を過ぎると骨粗しょう症に陥るリスクが非常に高くなります。それまでと同じような食事をしていたのに、気がつかないうちに骨がもろくスカスカになっていた、ということはよくあります。
これは、エストロゲンの分泌が関係しています。エストロゲンには骨からカルシウムが溶け出すのを抑える働きがあり、女性の骨が弱くならないように守ってくれています。しかし、更年期を迎えると、エストロゲンが減ってしまうので、骨からのカルシウム流出が抑えられなくなり、骨がもろくなってしまうのです。
大豆イソフラボンは、エストロゲンの代わりにカルシウムの流出を抑えます。そのうえ、大豆には骨の原料となるカルシウムも豊富。その含有量は牛乳と比べても遜色ありません。骨が壊れるのを防ぎ、骨の合成を促すわけですから、骨粗しょう症対策にピッタリの食材です。
美肌効果
エストロゲンには肌の新陳代謝を促し、若々しくてハリのある肌を保つのを助ける働きがあり、「美肌ホルモン」とも呼ばれています。ここでも、大豆イソフラボンエストロゲンと同じように働き、美肌づくりをサポートします。さらに、大豆イソフラボンそのものに抗酸化作用があります。抗酸化とはわかりやすく言えば、肌や髪の毛、血管などが老けるのを抑制する働きのことです。抗酸化作用による美肌効果も期待できます。
がん予防(乳がん・前立腺がん)
国立がん研究センターの調査で、大豆を毎日食べると乳がんの発症率が減ることが明らかになり、大豆の抗がん効果が注目されています。この調査では、約2万人の女性を対象としていて、大豆、豆腐、油揚げ、納豆を毎日食べている女性は、乳がんの発症率が2割減っていました。
特に、閉経後の女性は大豆イソフラボンをたくさん摂るほど、乳がんになりにくいという結果が出ています。大豆イソフラボンの血中濃度が高い閉経後の女性では、乳がんの発症が半数以下に減っていて、大豆イソフラボンの影響がとても大きいことがわかります。
大豆には大豆イソフラボン以外にも、抗酸化作用が強い大豆サポニンや大豆レシチンなどが含まれていて、これらもがん予防に役立っていると言われています。
エストロゲンは女性だけでなく、男性の前立腺がんの予防にも役立ちます。国立がん研究センターが約4万3千人の男性(61歳以上)を対象として行った調査によると、大豆の摂取量がもっとも多いグループの前立腺がんの発症率は、もっとも少ないグループに比べて半分であることがわかっています。
近年、日本人男性の前立腺がんの増加が指摘されています。その理由として、血液検査による簡便な検診の普及もありますが、治療を要するような進行した前立腺がんは欧米に比べると少ないです。前立腺がんは、男性ホルモンが過剰に働くことが影響するのですが、大豆イソフラボンを摂ることで男性ホルモンの働きが抑えられ、微少ながんができたとしても進行しにくくなると考えられています。すなわち、大豆を日常的に食べる日本人の習慣が、男性を前立腺がんから守ってくれる可能性があるのです。
池谷式「大豆ミートダイエット」の4つのポイント
ポイント1:肉を大豆ミートで代用し、カロリーを大幅にダウン
牛肉や鶏肉、豚肉の代用として大豆ミートを使えば、おいしさはそのままにカロリーは大幅に減らせます。脂質もコレステロールも減らせるので健康効果もアップ。
ポイント2 大豆ミートファーストで血糖値に急上昇を抑制
食べる順番を変えるだけで、ダイエット効果がアップ。最初に大豆ミートのおかず、最後に糖質(米・めん・パン)を食べることで、血糖値の上昇がゆるやかに。
ポイント3 ゆる糖質制限を組み合わせる
ゆるやかな糖質制限(糖質の量をこれまでの2分の1〜3分の1の量に減らす)を組み合わせることで、ダイエット効果がさらにアップ。短期間で体重が減ります。
ポイント4 “やせる大豆ミート”にしてダイエット効果をアップ
そのままでも肉より格段にヘルシーな大豆ミートですが、さらにダイエット&健康効果をプラス。「かつお粉」と「しょうが」でパワーアップさせて使います。
“やせる大豆ミート”の作り方
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『お腹いっぱい食べて内臓脂肪を落とす 大豆ミートダイエット』 池谷敏郎 著
(アスコム)
池谷敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長、医学博士。1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。専門は内科、循環器科。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。血管、心臓などの循環器系のエキスパートとして、現在も臨床現場に立つ。30代のころ15kgの減量に成功した経験を基に、健康的に無理なく痩せるダイエット理論を確立。50歳を超えてからも体脂肪率10.6%をキープする「ダイエットの名医」として、数多くのテレビ出演、新聞・雑誌への寄稿、講演会などでのわかりやすい医学解説が好評を博している。著書に『「血管を鍛える」と超健康になる!』(三笠書房)、『血管・骨・筋肉を強くする!ゾンビ体操』(アスコム)など、数々のベストセラーがある。