日本人女性が閉経する年齢は平均で50.4歳といわれ、閉経の前後5年間ずつの合計10年間が「更年期」にあたります。女性の体は「エストロゲン」という女性ホルモンに守られていますが、年齢とともにその分泌量が減ることで、体が変化し、不眠、イライラ、ホットフラッシュなど、さまざまな症状があらわれます。
そこで、「すべての女性によりよい未来を」をモットーに、女性の体の仕組みをわかりやすく伝えている産婦人科専門医・高尾美穂先生の著書『いちばん親切な更年期の教科書』から、更年期症状の治療のひとつである「ホルモン補充療法(HRT) 」について学んでいきましょう。
ホルモン補充治療法(HRT)とは?
ホルモン補充治療法(HRT)とは、減少した女性ホルモン(エストロゲン)を補うことで、ほてり、のぼせ、発汗などといった更年期の代表的な症状に即効性のある改善が見込めるもの治療法です。HTRを2か月継続すると、約9割程度改善するといわれています。病院で医師の診断を受け、治療を受けることができます。
ほてりを抑え、潤いを取り戻し、全身が若返る
HRTは減少したエストロゲンを補って、心身の不調を改善する治療法です。ですから、エストロゲン値の低下で引き起こされる症状には、特に効果を発揮します。特徴的な3つの効果は次のとおりです。
1.ホットフラッシュの改善
のぼせやほてり、異常発汗などといった、いわゆるホットフラッシュは、約2か月でほとんどが改善します。
2.腟萎縮、性交痛の改善
腟粘膜の萎縮を改善し、腟粘膜に潤いを出すことで性交痛が軽減されます。
3.骨粗しょう症予防
破骨(はこつ)細胞の働きを抑え、骨量を維持します。関節の軟骨がすりへったり、骨の変形、手指の痛みや腫れ、動かしにくいなどの症状のある変形性関節症の改善にも役立ちます。
そのほか、HRTを行うことでさまざまな不調改善効果が期待できます。
美肌効果
お肌の状態についても、HRTのメリットを示す研究データがあります。HRTを受けている人といない人の肌をくらべると、前者のほうがコラーゲンの含有量がよい状態でキ ープできていることがわかりました。
コラーゲンには肌の細胞どうしを接合する働きがありますが、年齢とともに少なくなり、 肌のハリが失われていきます。 そのコラーゲンの量をふやすのが、エストロゲンです。HRTでエストロゲンを足すと、 肌表面にあるコラーゲン量が戻り、肌のハリが回復します。
不眠改善効果
HRTによる不眠改善効果はそこまで期待できません。しかし、夜間就寝中の発汗による中途覚醒であれば、HRTにより発汗がへり、中途覚醒も改善する可能性が高いです。
ホットフラッシュが改善したことにより、寝つきがよくなったり、中途覚醒がへったりしたことなどが理由として考えられます。
メンタルの不調を改善・集中力の回復
更年期特有のイライラや落ち込みも、HRTで改善されます。 エストロゲンには抗うつ作用がありますが、更年期になると、エストロゲンの分泌が急減するので精神的に不安定になり、些細なことでイライラしたり憂うつになったりするの です。
HRTでエストロゲンを補充すると、感情が安定し、イライラや落ち込みが治まります。 そのほか、心身をリラックスさせる副交感神経の働きとエストロゲンには関係があり、 HRTでエストロゲンを補うと気持ちが安定し、集中力も回復します。
エストロゲンの恩恵を受けられなくなった年月をより健康的に過ごすために、HRTを上手に利用するのも一つの方法です。
* * *
更年期症状は人それぞれですが、日常生活に支障が出るほどのつらい症状に悩まされているのであれば、我慢せずに、医師に相談し、HRTを使用するなど積極的な治療をしていくのもひとつの方法ですね。毎日を健やかに過ごせるよう、更年期症状に積極的なアプローチをしていきましょう。
『いちばん親切な更年期の教科書』
世界文化社
定価1760円
高尾美穂(たかお・みほ)
産婦人科医。女性のための総合ヘルスクリニック イーク表参道副委員。医学博士。スポーツドクター。ヨガドクター。東京慈恵会医科大学大学院修了。同大学付属病院産婦人科助教をへて2013年より現職。「すべての女性によりよい未来を」をモットーに、医療・ヨガ・スポーツの3つの活動を通じ、専門的な知識をわかりやすく啓発活動に精力的に取り組む。高いプロ意識とソフトで親しみやすいキャラクターが評判となり、テレビや雑誌、イベントなどで幅広く活躍中。著書に『超かんたんヨガで若返りが止まらない』(世界文化社)がある。 YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」を毎日更新し、女性の健康のみならず、よりよく生きるためのヒントを届けている。