新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、外出自粛を意識する生活が始まってから、4か月。感染は拡大し続けており、外出自粛が解除されていてもためらう人は多い。基本的に家で過ごすことが主になる「新しい生活様式」下において、シニア層が身体機能を維持するために何に気をつければよいか、「フレイル・サルコペニア予防」の専門家である、東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生に伺った。今回は、家庭でできるフレイル予防を、食生活を中心に紹介していく。
※フレイル……2014年に日本老年医学会が提唱した「Frailty(虚弱)」の日本語訳。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指す。
※サルコペニア……筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態を指す。
知り合いに会うことから始めよう
新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、外出することや、人と会うことが極端に制限されるようになった。これにより、社会的フレイルが問題になっていると、若林先生は指摘する。
「フレイルは、身体・精神心理・社会と大きく3つの観点があるのですが、これらは深く連動しています。これから解説する“社会的フレイル”は、自分一人の力ではどうにもならない。二極化が大きいフレイルだと考えています」(若林先生)
実際に、シニア層の声を聞いていても、二極化が進んでいることがわかる。
「定年以降、妻とはほとんど会話をしないし、子供たちや孫も私が一緒だと表情が暗い。それまでは、好きな写真を撮りに行って、作品展なども応募していたけれど、コロナで中止になってしまい、家にこもりがち」(64歳・男性)
「公立学校の栄養士を定年まで勤め、すぐに介護施設に再就職。栄養指導のスタッフになって14年間、コロナ禍中も週3で通勤しています。人手が足りなくなり、介護の現場の手伝いをすることも。ここ数年、年下の利用者さんの介護をしています」(74歳・女性)
取材していて感じたことは、男性の方が社会的フレイルのリスクが高いことだ。
「人に会わない、仕事を辞めてから仕事以外に楽しむことがない定年後の男性は多いです。人と会うことは、頭も体も使います。サライ世代から、ボランティア、趣味など、仕事以外での人間関係の構築と維持に努めてください」(若林先生)
とはいえ、プライドもあり、話し相手もいないという人も少なからずいる。社会的フレイルを脱出したある男性の話を紹介しよう。
「定年後、誰とも話さぬ日が1週間あった。このままではまずいと思い、女房に頼み込んで、家事と孫の世話方法を教えてもらった。妻はすぐに怒り、ダメ出しを繰り返す。最初はムカッと来たけれど、”女房は上司”だと思って学んだ。それから半年、女房にも娘にも必要とされるようになった。孫の子守りを1日すると、婿さんから小遣いをもらえるように(笑)。あのとき、頭を下げて本当によかった」(65歳・男性)
「近所に住む子供たち、その孫と、3か月に1回、バーベキューをしています。密も避けられるし、買い物や準備、後片づけなどで体を動かせる。一石二鳥だと思っています」(67歳・女性)
家族は最も小さな“社会”だ。ここで必要とされるスキルを身に着けたことで、変わった人は多くいる。
若林先生は、外出することや人に会うことに対して、恐れすぎるのもよくないと指摘する。
「感染初期とは異なり、マスク、手洗い、手の消毒をして、三密を避けていれば、感染する可能性は低いとわかってきました。図書館など、以前より出かけられるスポットも増えています。知り合いに声をかけて、そういう場に出かけることから始めてみるとよいですよ」
若林先生自身も、仕事以外の人生を充実させることが、社会的フレイル予防にもつながると考え、日本酒好きの仲間を集めて、お酒の会を始めたという。
「外出自粛生活になってから、実際に会うことは難しいので、『ZOOM』(ビデオ会議システム)で開催しています。今の技術やサービスを上手に生活に取り入れると、世界は広がりますよ」
このように、仕事以外のコミュニティを作り、維持することが大切なのだ。
「地域のボランティアなどの情報も見てみるといいでしょう。歴史の知識、スポーツ、体験談、若い世代のサポートなど、シニア層が積み上げてきた経験や知識を必要としている人は無数にいます。私が考えるキーワードは、好奇心です。今まで食べたことのなかったものを食べてみる。今まで出かけたことのなかった場所に出かけてみる。この好奇心こそが、フレイル予防の大きな要素を占めることかもしれません」
社会的フレイルを予防は、自分自身の心がけと、家族との関係性から始まる。「新しい生活様式」で最も大切なのは、今、目の前にいる人と良好な関係を築くために、エネルギーと手間を注ぐことかもしれない。
お話を伺ったのは……
若林先生のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/wakabayashihidetaka-sensei/