取材・文/小坂眞吾(サライ編集長)
海外にはめったに行かない私だが、南の島タヒチでひと足早い夏休みを体験してきた。成田空港から直行便でひとっ飛び。赤道と日付変更線を越えた先では、限りなく透き通った海と空、緑豊かな山々が出迎えてくれた。
120年前にゴーギャンが描いた、海の彼方の理想郷をめざして
「タヒチ」という言葉に特別な響きがあるのは、ポール・ゴーギャン(1848~1903)の影響だろう。19世紀末、近代化の進むフランスを嫌ってタヒチに移り住み、数々の傑作を生んだ。その作品は、穏やかな自然、素朴で無垢な人々という、文明社会が失った理想郷を喚起させる。
南国への憧れに胸をふくらませ、エア タヒチヌイの直行便に乗り込んだ。タヒチとは、南太平洋のフランス領の島々の総称で、正式には「フレンチ・ポリネシア」という。ポリは「多い」、ネシアは「島」で、島の総数は118。その中で一番大きな島がタヒチ島だ。
ゴーギャンのタヒチへの旅は数か月を要したが、現在は成田空港から約11時間。南国の夢にまどろんでいるうちに、赤道も日付変更線も越えて、タヒチ島のファアア国際空港に降り立った。タヒチの月間平均気温は四季を通じて25~27度ほど。安定した貿易風のおかげで日本の夏よりはるかに快適だ。
空港から車で10分足らず、ゴーギャンが暮らした港町パペーテから楽園の旅が始まった。
タヒチ(ファアア国際空港)へは、成田空港からエア タヒチ ヌイの直行便で約11時間。4月~11 月は月曜出発、土曜帰着が基本となる。今回の目的地・モーレア島へは、タヒチ島のパペーテ港から高速船で約30分。
ゴーギャンが「古城」に喩えたモーレア島へ
神々しいまでに切り立った山々。
4WDで絶景ポイントへ駆け上がる
今回の旅の目的地は、タヒチ島の北西に浮かぶモーレア島だ。パペーテの港から高速船で約30分。近づくにつれ、島影は大きな山塊となって視界を圧倒する。山の稜線は猛獣の歯のごとく鋭く険しい。ゴーギャンはこの島をフランスの古城に喩えたというが、むべなるかな。太古の火山活動で生まれたモーレア島は、海と山、両方の魅力をあわせもつ。
まずは山を巡る半日のサファリ・ツアーから。日本では見かけない、マツダのピックアップトラックの荷台に乗り込む。運転するのはゴーギャンの絵に出てきそうなたくましい女性。「ギアが壊れちゃったのよ」とジョークを飛ばしながら、険しい未舗装路を突き進む。急カーブでもためらう様子はない。
途中、小川を渡ったりしながら、眺めのいい展望台へと案内してくれた。展望台からは正面にロツイ山(標高899m)、左にモウアロア山(同880m)が見渡せる。火山活動と長年の風雨が造り出したパノラマに、思わず息を呑む。
日本では富士山や白山など、山そのものがご神体であり、信仰の対象となってきた。ポリネシアの人々もまた、これらの山を神として崇めた可能性はないだろうか。
タヒチでは「ボラボラ」(島の名前)、「ノアノア」(芳香)など、同じ語を重ねた言葉が多い。日本語にも「ぼちぼち」「まあまあ」など同様の言葉がある。西欧には見られない特徴だ。遠く離れていても、日本とタヒチは太平洋を通じてつながっている。信仰にも共通のものがあるのではないか。そう思うと、急に親近感が湧わいてきた。
道中、ポリネシアの人々が儀式を執り行なった遺跡「マラエ」や、パイナップル畑にも立ち寄る。パイナップルは島の名産で、18世紀にポルトガルの宣教師が伝えたそうだ。小ぶりだが甘くて濃厚な「クイーン・タヒチ」を搾ったジュースは香り高く、忘れられない思い出の味となった。
世界屈指の魚影と透明度!
珊瑚礁の海で、エイと戯れる
モーレア島は珊瑚礁に囲まれ、その内側は広大なラグーン(礁湖)となっている。波は穏やかで透明度が高く、シュノーケリング初心者でも安心だ。
島で評判の「ラグナリウム・シュノーケルツアー」に参加してみた。浜辺から小型ボートに乗り込み、ラグーンの小島へ上陸。たくましい現地ガイドと一緒に海に入ると、多彩なチョウチョウウオや大型のカスミアジに交じって、大きなエイやサメが泳いでいる。沖縄から東南アジアまで、あちこちでシュノーケリングをしたが、サメやエイと泳ぐのは初めてだ。
魚が集まるのは餌付けされているからだが、面白いのはその餌で、フランス領だけにバゲット(フランスパン)を用いる。エイは人によく慣れていて、じゃれつくように近づいてくる。その体にじかにふれると、羽二重餅のように柔らかな感触だった。
ほかの魚も体にぶつかるほど数が多く、水族館の水槽の中にいるようだ。ラグーンとアクアリウムを掛けた「ラグナリウム」という名前の由来を実感できた。
海を眺めつつ、洗練の技に舌鼓
タヒチ島で味わう極上フレンチ
南洋の島とはいえ、タヒチはフランス領。地元のスーパーマーケットを覗くと、大半を輸入に頼っているため生鮮野菜などは物価が高めだが、チーズやワインなどは本場フランスのものが充実していて、しかも日本より安価で売られている。
フレンチ・レストランも当然、レベルが高い。パペーテ市内から約8㎞、タヒチ島のホテル『インターコンチネンタル タヒチ リゾート&スパ』にある水上レストラン『ル・ロータス』は、本国アルザスのミシュラン獲得レストランと提携。ラグーンに張り出した客席で、フォアグラや各種ハーブをふんだんに用いた、タヒチでも指折りの本格フレンチが味わえる。
タヒチの年間平均気温は25度前後。4月から11月のベストシーズンは湿度も低めで過ごしやすい。青い海を眺め、爽さわやかな潮風に吹かれつつ、美しく盛り付けされたフレンチをいただくのは、人生で最上の贅沢といえるだろう。
【モーレア島に泊まる】
水上バンガローの下は魚たちの楽園。
島で唯一の五つ星ホテル
ヒルトン モーレア ラグーン リゾート&スパ
今回の旅の宿泊先は、モーレア島の『ヒルトン モーレア ラグーン リゾート&スパ』。島で唯一の五つ星ホテルで、ラグーンに並ぶ水上バンガローが印象的だ。 島の北岸に突き出しているため、朝日も夕日も水平線に沈むという絶好のロケーション。バンガローから直接海へ入ることができ、透明度抜群の海にはチョウチョウウオやスズメダイが群れ泳ぐ。
水上バンガローは新婚旅行で泊まるところというイメージが強いが、実際に泊まってみると、サライ世代の夫婦を多く見かける。とくに本国フランスや、直行便のある米国西海岸からの渡航客は、大半がシニア層。車椅子の人、杖が必要な人も、パートナーとともに南国の休暇を楽しんでいた。
ホテル内にはレストランやバー、プールはもちろん、スパ、フィットネスジム、テニスコートまで揃う。そして何より、白、緑、青、黄、赤と日の出から日没までドラマチックに移ろう海の色は、日がな一日眺めていても飽きることはない。
日がとっぷり暮れれば、降るような星空に長大な天の川が横たわる。施設と自然、双方の充実ぶりが、シニアに支持されるゆえんなのだろう。
日本人スタッフが勤務しているので、どんな些細なことでも気軽に相談できる。あれもこれもと欲張った若い頃の旅とは違う、サライ世代ならではの「いのちの洗濯」をするのに、うってつけのホテルである。
ヒルトンホテルズ
https://hiltonhotels.jp/
成田空港から週2便
タヒチへはエア タヒチ ヌイ直行便で
タヒチへは、エア タヒチ ヌイが成田からの直行便を週2便、運航している。月曜と土曜、いずれも夕方に成田を発ち、日付変更線を越えて同日の朝にタヒチに着く。その日のうちに離島へ乗り継げる、嬉うれしいスケジュールだ。帰国便は日曜・金曜の朝出発で、翌日の午後早めに成田着(2019年夏期)。往復の組み合わせにより、4泊6日、6泊8日の旅程が選べる。
9月6日からは、キャビンが広く快適なB787 -9型機「タヒチアン・ドリームライナー」が就航。フライト時間が短縮されるほか、新設の「モアナ・プレミアムエコノミークラス」は座席幅、足元のスペースとも広く、快適な空の旅を約束してくれる。
日本線には日本人乗務員が乗り込み、和食の用意もある。フランス領だけにワインも充実。心尽くしのおもてなしに身を委ゆだねたい。
エア タヒチ ヌイ
https://www.airtahitinui.com/jp-ja
タヒチ情報サイト「ノアノアタヒチ」
https://www.airtahitinui.jp/
取材・文/小坂眞吾(本誌)
撮影/小倉雄一郎(本誌)
協力/タヒチ観光局
提供/エア タヒチ ヌイ