防波堤を猫が飛ぶ
瀬戸内の海を背景に、防波堤の切れ目を軽々と飛び越す島猫。次から次へと猫たちが飛び越えていく。島で暮らす猫たちの日常だ。

『佐柳島』香川県多度津町

瀬戸内海の塩飽諸島は、かつて水軍の拠点だった。そのひとつ佐柳島は、現在は人口50人ほどに対して100頭以上の猫が暮らすといわれ、猫たちが自由気ままに暮らす「猫の島」として知られる。

多度津港から50分ほどフェリーに揺られて佐柳島に上陸すると、すぐに猫たちから歓待を受ける。尻尾をぴんと上げて小走りに来島者のもとへ駆けてくる猫たちの様子に、思わず顔がほころぶ。かと思えば、人が近づいても物おじせずでんと横たわっている猫もいれば、人には用はないといわんばかりに遠巻きに見ているだけの猫もいる。それぞれの猫が、人との距離感を各々決めているようだ。

瀬戸内海の強い日差しを避けて、木箱の中でくつろぐ仲良しの2頭。ごはんの時間まではここでゆっくり過ごすようだ。
海岸の岩場に何か見つけたのか、急に下りていって岩場を偵察し始めた猫。海水に多少濡れてもへっちゃらの様子だが、波に気を付けてもらいたい。
お地蔵さんの祠の柱で爪を研ぐ猫。お地蔵さんも温かく見守っているようだ。それにしても、柱はずいぶん削られているようで。

猫と触れ合うための心得

佐柳島では集落ごとに猫に会えるスポットがあり、3時間もあればだいたいの場所を巡ることができる。ゆっくり散策しながら猫たちとの触れ合いを楽しみたい。

掲示板には「食べ物のゴミなどは持ち帰る」「私有地に立ち入らない」「猫にごはんを与える場合は道路など危険な場所は避ける、一度に食べられる量にする」といった注意書きが貼られている。島に暮らす猫にも住人にも配慮したい。

多度津港と佐柳島の本浦港・長崎港を結ぶたどつ汽船のフェリー。本浦港へは1日4便、長崎港へは1日2便が往復運航している。
島内の長崎地区にある「両墓制」の墓地。佐柳島には「埋め墓」と「参り墓」の風習が残る。長崎地区の墓地は両墓制の在り方がわかりやすく表れている。
佐柳島の本浦港へは多度津港からフェリーで約50分、長崎港へは同約70分。

『真鍋島』岡山県笠岡市

旧家が並ぶ細い路地は猫たちの憩いの場
使われなくなった廃船を根城にする猫の軍団。喧嘩することなく、仲良く乗船している様子が微笑ましい。

『獄門島』『瀬戸内少年野球団』といった映画のロケ地として知られる真鍋島は、佐柳島とは指呼の距離。フェリーで20分ほどで渡ることができる。どちらの島も徒歩でも2〜3時間ほどで見て回ることができるので、両島間のフェリーが運航する土曜日であれば、佐柳島と併せて訪れたい。

真鍋島は瀬戸内海の「猫島」として平成の頃から注目を集めていた。今も、人の集まる場所には猫たちが互いに寄り添いあうように暮らしている。今回訪ねてみると、若い猫が多く、持参した羽根付きのおもちゃに夢中になって遊んでくれた。外で暮らす野良猫も、家の中で暮らす飼い猫も、楽しい、面白い、好き、という感覚は同じなのだなと改めて気づかされる。

島に点在する小さな神社の周りにも、猫たちがいる。神様の祠は雨除け、日除けにもなり、猫たちの恰好の集会所だ。

猫たちの毛艶は良く、島の内外の人たちから大事にされている様子が窺える。島の中を自由に闊歩しているとはいえ、中には飼い猫もいる。野良猫であっても、それぞれの地域に管理者がおり、ごはんを与えたり排泄物の世話をしてくれたりしている。人に慣れていたり、かわいいからといって、勝手に島内から猫を連れ出すことはご法度だ。島猫たちは、この島で、守られて生きている。

岡山県の住吉港から運航する三洋汽船の旅客船が到着する真鍋島本浦港の船着き場。1日3便の高速船であれば45分ほどで到着する。
真鍋島本浦港へは住吉港から高速船で約45分、旅客船で約1時間10分。佐柳島・真鍋島間のフェリーは土曜日のみ運航。

真鍋島本浦港の船着き場の目の前に店を構える『漁師料理 漁火』は、御年94歳の元漁師の大将・山下増石さんが営む食事処だ。

「新鮮なものしか出さない」という山下さん。だから、日によって魚の種類も異なる。運が良ければ活白エビや活車海老などが供される。「これ以上の新鮮さを求めるなら海に潜るしかない」と常連客が太鼓判を押す。すべてが新鮮かつ豪快で、真鯛も刺身や塩焼きは尾頭付き。そのうえ、おきまりといえど、品数は10〜15品ほどにも及ぶ。「毎日、力いっぱいやっている」という大将の、旨いものだけ食べてもらいたいという思いが込められた瀬戸内のご馳走だ。

アコウ(左)と真鯛(右)の豪快な刺盛り。この他、揚げ物、焼き物など全10品以上(日による)で5500円のコースのみ提供。
濃厚な旨味の大きな車海老の塩焼き(奥)と、しめたばかりで、しこしことした歯ごたえのみずみずしい真蛸(手前)。
漁師町の佇まいをよく残す真鍋島。写真は明治から大正にかけて建てられた島の旧家真鍋家の趣のある土蔵造りの海鼠壁だ。
その日水揚げされた魚介を豪快に味わう
漁師料理 漁火

元漁師の名物大将が営む『漁師料理 漁火』の店舗。●住所:岡山県笠岡市真鍋島4476-1 電話:0865・68・3519 営業時間:12時〜15時(予約に合わせて営業) 定休日:不定 交通アクセス:本浦港桟橋より徒歩約1分

取材・文/平松温子 撮影/奥田高文

※『サライ』2026年7月号より

7月号特集は『日本の原風景に出会う「離島」へ』

 

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