国内産ぶどうを100%使用し国内醸造された「日本ワイン」の生産量で、岩手県は全国5位。花巻ワイナリー・エリアは寒暖差が大きく、早池峰山の南西向き緩斜面と石灰質土壌などぶどう作りに向く風土。宮沢賢治が「イーハトーブ」(理想郷)を夢見た、陸奥の大地が生む銘酒を味わいたい。

早池峰山の麓に広がるエーデルワインのぶどう畑。白ワイン用ぶどうリースリング・リオンなどが多いが、近年は赤ワイン用ロースラーなども増えている。

岩手県は、ワイン生産が盛んだ――というと、意外に思う人がいるかもしれないが、じつは老舗から新進気鋭まで、ユニークなワイナリーが少なくない。冷涼な気候に加え、比較的小規模なぶどう農家による丁寧な手作業が個性的なワインを生み出し、いまや世界的に注目されているのだ。

JR盛岡駅から黄金色に染まり始めた田園地帯を抜け、最初に訪ねたのは、早池峰山の麓、花巻市大迫町のエーデルワイン。町役場と農協が中心となり、昭和37年にワイン醸造をスタートした老舗かつ地域最大規模のワイナリーだ。現在、34人の地元ぶどう生産者を抱え、ぶどうの選定から醸造までを一貫して行ない、高い品質を保っている。数々のコンクールの受賞歴を持つ。

「この周辺は“ぶどうの丘”と呼ばれており、ワイン生産には、すべて岩手県産のぶどうを使用しています」と、エーデルワイン販売部部長代理の佐藤哲夫さん。代表作の「五月長根(さつきながね)リースリング・リオン(白)」は、すっきりした酸味があり、上品な飲み心地だ。

エーデルワイン

町と農協が出資して創業 岩手県最大のワイナリー

岩手を代表するワイナリー。国内外のコンクールで受賞多数。

テイスティングルームでは、風味、味わいなど様々な個性を持ったワインを有料で試飲できる(100円〜。無料試飲コーナーもあり)。ビン詰場も見学可能(10時〜15時、無料)。

エーデルワイン
住所:岩手県花巻市大迫町大迫10-18-3
電話:0198・48・3200
営業時間:9時〜16時30分
定休日:年末年始
料金:入館無料

次に訪れたのは、2019年設立のアールペイザンワイナリーだ。「アール」はフランス語で「芸術」、「ペイザン」は「農民」の意、花巻市幸田地区の棚田が広がる丘の上の「ワインは農民が醸す芸術」を標榜するワイナリーだ。運営母体は、社会福祉法人「悠和会」で、免許条件緩和の「構造改革特区」認定第1号ワイナリー。障害を持つ人とともに地域を盛り上げている。

「ワインづくりはまったくのシロウトでした」と、栽培醸造責任者の高橋和也さん。就農人材不足に悩む地域固有の課題を、障害を持つ人たちの労働力で解決できないか。専門家の技術指導を受けながら、イチからワイナリーを立ち上げた。現在、8人の障害を持つ人たちが働いている。農家と福祉との連携を図り、50年先100年先のワイン名産地を目指す姿勢が、全国的に注目されている。

「ぶどう栽培の作業を細分化していくと、ぶどうの木の枝を切り、焼き捨てる作業など、誰にでも必ずできる仕事があるんですね」

コンクール受賞歴を持つシードル(りんご酒)「ポム・シュクレ」は、やわらかな酸味とエレガントな余韻を持ち、和食に合う印象だ。

※花巻市は、2016年11月に内閣府による構造改革特別区域「花巻クラフトワイン・シードル特区」の認定を受けたことから、市内の小規模な事業者でも酒類製造免許を取得できることになった。この制度を利用し、さまざまな醸造所が誕生している。老舗の「エーデルワイン」などワイナリーは6か所。

アールペイザンワイナリー

「花巻クラフトワイン・シードル特区」の認定を得て2019年に設立

美しい棚田風景の広がる丘にぶどう畑が開かれ、「テロワール」(自然風土)を生かしたワインとシードルを生産。働いている障害のある人々にとっては、製品が受賞をしたり、遠方からわざわざ購入に来る人たちもいることは、仕事に誇りを持つモチベーションにもなっているという。

スタイリッシュな醸造所兼販売所。ワイン、シードルとも、既に様々な賞を受賞している。白はゲヴュルツトラミネール、シャルドネなど、赤はメルロー、マスカット・ベーリーAなど。
海外のシードル用りんごを自家栽培してつくる、上質なシードルも人気。見学・販売とも要予約。

アールペイザンワイナリー
住所:岩手県花巻市幸田4-35-1
電話:0198・41・8566
営業時間:10時〜16時
定休日:土・日・祝

3軒目に訪れたのは、紫波町や栽培農家などが出資する第三セクターの自園自醸ワイン紫波だ。

「紫波町で栽培した良質なぶどうでワインをつくりたいという農家の長年の思いから、2005年に“自園自醸”ワインの製造を始めました」と、自園自醸ワイン紫波取締役専務兼製造部長の半田秀さん。自分たちの畑で育てたぶどうを使った、畑の個性をそのまま反映したワインづくりが特徴だ。

自園自醸ワイン紫波(しわ)

栽培農家自身が株主となり第三セクターとして創業

入館、ワイン工場見学は無料。ぶどう畑見学や試飲付きの「ワインツーリズム」は税別1000円(火・土・日の10時〜11時、要予約)。

「スパークリングワインロゼ」(右)と「ぶどうジュース」は、JR東日本の列車「TRAIN SUITE 四季島(しきしま)」で、岩手県の逸品として提供されている。赤はメルロー、マスカット・ベーリーAなど、白はリースリング・リオンなど、紫波町産のワイン専用品種を使用したワインづくり。

自園自醸ワイン紫波
住所:岩手県紫波郡紫波町遠山字松原1-11
電話:0196・76・5301
営業時間:9時~ 17時
定休日:年末年始

岩手県のワイナリーは、独自のスタイルとチャレンジを貫き、「酸味」「ミネラル」「余韻」「個性」「力強さ」などが評価される。秋色を深める岩手の自然を楽しみながらのワイナリーめぐりは、心が癒される。

ヌッフ デュ パプ

ワインとともに、岩手産の選び抜いた食材を使ったイタリアンを味わえる。

岩手県名産の「短角牛のステーキ」4500円〜(100g〜)。岩手産ワインも揃えている。

ヌッフ デュ パプ
住所:岩手県盛岡市大通1-7-15 パーセル大通101
電話:0196・51・5050
営業時間:18時〜23時
定休日:火曜

花巻ワイナリー・エリアへは東北新幹線新花巻駅あるいは盛岡駅からタクシーか車が便利。

観光列車「ひなび(陽旅)」も楽しい

「ひなび(陽旅)」は、主にJR釜石線(花巻駅〜新花巻駅~釜石駅間)を運行する観光列車(盛岡駅発着)。開放感のある車窓から、季節によって異なる表情を見せる沿線風景をゆったり楽しめる。モバイルオーダー型の「うけとりっぷ」を使って地元食材を使ったグルメも堪能できる。

提供/JR東日本 文/片山 修

 

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