古くは琵琶湖に対比し「遠淡海(とおつあわうみ、現在では「とおとうみ」とも呼ばれる)」と称された浜名湖。今は遠州灘と繋がる汽水湖で、4つの内湖や長い湖岸線が独特な水辺の風景を作り出している。湖の東岸、浜松市にある舘山寺温泉は浜名湖観光の拠点となる温泉地。全室から湖の眺望を楽しめる温泉旅館が『界 遠州』である。

JR浜松駅から路線バスで宿へ向かった山脇りこさん。あいにくの空模様だが、人の営みが垣間見える路線バスからの車窓を楽しみながら、到着。館内に足を踏み入れると茶香炉からの良い香りが出迎えてくれた。お茶処・静岡の宿らしく、至るところでお茶のもてなしがあるのが『界 遠州』の大きな特徴だ。

『界 遠州』に到着。エントランスから期待が高まる。

美茶楽でお茶の魅力を発見

「界」では、その土地の文化に触れるご当地楽という催しを開催している。この『界 遠州』のご当地楽は毎日、チェックインの時間に合わせて「美茶楽(びちゃらく)」(当日予約、無料)と題し、季節ごとの煎茶の楽しみを教えてくれる。開催場所はフロントロビー階にある美茶楽ラウンジ。浜名湖を望む絶景空間に、小上がりスタイルのラウンジとコの字型のカウンター席、冷茶が並ぶティースタンド、13種類の茶葉を用意するティーセラーがある。一日に煎茶、玉露、ほうじ茶など最低でも3杯は飲むというお茶好きの山脇さん、このラウンジがすっかり気に入ったようだ。

ティーセラーの茶葉にはそれぞれティーカードが付き、特徴や淹れ方が一目でわかる。

訪れた日はちょうど新茶の季節。「美茶楽」ではまず、日本茶アドバイザーの資格を持つスタッフの指導のもと、摘み立ての新茶を丁寧に淹れる。茶器を温めながらお湯を70℃ほどに冷まし、急須で待つこと1分。2つの湯のみに均等にお茶を注ぎ、味わってみる。

「あまみがありまろやかですね。私は長崎出身なので、嬉野茶や彼杵茶、知覧茶など九州の力強いお茶に馴染みがあるのですが、静岡のお茶は洗練されていて上品ですね」(山脇さん)

新茶を丁寧に淹れる。時間の目安となる砂時計も用意されている。

次にお茶当てゲームに挑戦。水出しした3種類のお茶から、さきほどの新茶を当てる。ほか2種類は二番茶と秋冬番茶だ。注水の温度が違うと味も異なり、ちょっと苦戦し外してしまったが、利き茶体験は旅気分を盛り上げてくれたようだ。スタッフの説明はお茶の知識を求めている人にも、そうではない人にも易しく、わかりやすい。

お茶当てゲームに挑戦。3種、それぞれ風味や苦み、味わいが異なる。

最後は氷出しの煎茶も体験。

「美味しい! 旨みのかたまりですね。同じ茶葉でも注水の温度でこれほど違うとは、驚きでした。煎茶は旨み成分のグルタミン酸がとても多いことで知られています。薄く淹れた煎茶でお吸い物をつくるととても美味しいですよ。新茶はとても合いそう」と山脇さん。料理のヒントも得られたようだ。

日本茶アドバイザーの資格を持つスタッフとお茶談義に花が咲く。

客室でもお茶三昧し、温泉でまったり

全室レイクビューの客室には、地元の伝統工芸である「遠州綿紬」のクッションや障子がやわらかな色彩を加えている。また、お茶を淹れる設備・茶処リビングカウンターがあり、滞在シーン(到着・休み前・目覚め)に合わせた茶葉と茶器が用意されている。山脇さんもさっそく、部屋での一服を味わう。

「普段お茶を急須で楽しまない人にもよき体験になりますね」

茶処リビング付き和洋室。窓から浜名湖の景色が楽しめる。

夕食まで、山脇さんは部屋でのひとり時間を愉しむ。

「一瞬雨が上がって、霞が流れて遠ざかり、姿を現した深碧の浜名湖に織部色の山は息をのむほど美しかったです。湖面には絹織物のようなさざ波、裏葉色の空、何時間でも見ていられる、と思いました。恨めしいはずの雨がくれたギフトで、ああ、なんというぜいたくな時間と、ひとりでずっと眺めていました。部屋の中央に立つと、額縁のように窓から浜名湖が見えるのですよね」

客室に落ち着いて、リラックスタイム。

もちろん、温泉ものんびり入りたい。入浴の前に、湯上がり処で開催される「温泉いろは」に参加。スタッフが舘山寺温泉の歴史や泉質、入浴法を伝授してくれる。舘山寺温泉は兵庫の有馬温泉、青森の黄金崎不老ふ死温泉に次ぐ塩分濃度が高い温泉であること、そのため湯あたりを起こさないように長湯は避けることなどを知る。普段、長湯してしまうという山脇さん、入浴前に知識を得て納得の様子である。

お茶玉が浮かぶ露天風呂。通常の温泉とはまた違った滑らかなお湯を楽しめる。

大浴場は男女入れ替え制で、「華の湯」には大きな桶型のヒバの露天風呂があり、お茶玉と呼ぶ、茶葉を入れた小さな籠が浮かび、芳香が漂う。「お茶玉、家でも実践してみたいですね」と、山脇さん。大浴場にも水分補給のためのお茶が用意されている。

大浴場に備え付けのお茶。蛇口をひねるとお茶が出てくる。

鰻と河豚に舌鼓を打ち、おちゃけ体験

夕食の特別会席は遠州の名産をいただく「ふぐうな会席」。

鰻の名産地といえば、浜名湖。鰻を使った白焼きや土鍋ご飯、虎河豚(とらふぐ)の好漁場として知られる遠州灘にちなみ、薄造りや唐揚げなどが並ぶ。

「界」名物の宝楽盛り。『界 遠州』では八寸や河豚の薄造りなどがこのように供される。
コースのメインといってもいい、特製の鰻共だれ焼の土鍋ご飯。

なかでも河豚の薄造りは、定番のぽん酢のほか、オリーブオイルと塩でカルパッチョ風にいただくのが気が利いていると、山脇さん。静岡の地酒との相性も良く、酒処であることも実感でき、地元食材を贅沢に使ったバランスの良い内容に大満足の様子。

また、食事処の浜名湖を望む窓際の席では、ひとりでいることの気まずさを感じることなく、時間とともに移り変わる湖を眺めながら食事が愉しめる。

食後は美茶楽ラウンジで、予約不要・無料の「おちゃけ」を。「おちゃけ」とはお茶と酒(ジン)でつくるカクテルで、界 遠州スタッフの造語。スタッフとお茶やお酒にまつわる会話を深めながら、夜のひとときを過ごせる。

お茶とジンのカクテル「おちゃけ」。作っているところから目を奪われる。
「おちゃけ」の味わいを気に入った様子の山脇さん。

朝茶の寛ぎと中庭で深呼吸

翌朝、やはり雨が降ったりやんだり。旅先では旅ランを常とする山脇さんも、今回は断念。その代わり、施設の中庭で爽やかな風を感じられた。中庭には茶の木とドウダンツヅジが交互に植えられていて、スタッフが日々手入れをしているという。もともと茶の木があった場所ではないので大きく育つまでは時間がかかるとのことだったが、スタッフのお茶への強い愛情が感じられる。

まだまだ若い茶の木の葉に触れる。
手入れされた中庭を、ロビー階からお茶を飲みながら眺められる。

ティーセラーに並ぶ煎茶から好みのものを味わったり、朝のおすすめのフレーバーティーも愉しめるなど、まさにお茶三昧。

ティースタンドのお茶は初日と翌朝では種類が入れ替わる。それぞれ制覇。

朝食は、茶葉の保管用として使われていた茶箱をアレンジした器に料理を詰めた茶箱朝食。ちょっとした演出が旅心をくすぐり、嬉しい。浅蜊やあおさがたっぷりの味噌汁もご当地らしく、味わい深い。

茶箱を模して作られた箱も使われ、目にも楽しい朝食。

「ひとり旅は自分と対話できる時間を持つことが魅力です。今回はお茶を介して、贅沢なひとり時間を愉しみ、お茶の知識も増えました。また温泉も気に入って5回も入ってしまいました!

部屋も浴場も清潔で気持ちよかったですが、あまり知らなかった遠州綿紬も随所に使われていて、いいもんだなと実感しました」と山脇さん。

『界 遠州』を満喫した山脇さん。館内のショップで好みの茶葉を購入し、帰路に就いた。

『界 遠州』

静岡県浜松市中央区舘山寺町399-1
電話:050-3134-8092(界予約センター)
料金:1泊3万1000円~(2名1室利用時1名あたり、税・サービス料込み、夕朝食付き)

「界」には、ぞれぞれのスタンプが用意され、「お湯印帳」に感想とともに記録できる。

山脇りこさん
長崎生まれ。料理家・エッセイスト。「きょうの料理」(NHK)をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍中。『明日から料理上手』(小学館)のほか、台湾料理の本など台湾関連の著書も多い。旅のエッセイ『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)が12万部を越えるベストセラーに。

【今回のひとり旅ワンポイント】
私は普段はかなりカジュアルな格好で旅をします。でも今回はせっかくなので、おしゃれも愉しもう! と。新緑に新茶の季節ということで、グリーンを勝手にキーカラーにして、久しぶりにジャケットも。ひとりだけど大人だし、おしゃれもして(自分なりに)、リラックスもする。その両方が楽しめるのが、よき宿でのひとり旅の醍醐味の一つかも、なんて思いました。

●「界」について

「界」は星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランドです。「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、季節の移ろいや和の趣、伝統を生かしながら現代のニーズに合わせたおもてなしを追求しています。また、地域の伝統文化や工芸を体験する「ご当地楽(ごとうちがく)」、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」が特徴です。

 

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