南禅寺三門を彩る紅葉。紅葉の見ごろは例年11月中旬~12月初旬。

「そうだ 京都、南禅寺に行こう――」。そうつぶやくのはアクティブシニアに向けたウェブメディア『サライ.jp』編集長の稲葉成昭だ。折しも本年はJR東海の『そうだ 京都、行こう。』のキャンペーンが開始されてから30年目の秋である。

京都・東山の巨刹南禅寺は、鎌倉時代の1291年(正応4)に亀山法皇が離宮を寺に改めたのが始まり。天皇や法皇の命で創建された禅寺としては最古の寺院とされる。禅寺として高い位を持ち、京都五山(天龍寺、相国寺、建仁寺、東福寺、万寿寺)では別格の寺院として位置づけられている。

南禅寺の見どころは、まず重要文化財の「三門」、国宝の「方丈」、境内を通る水道橋の「水路閣」などがあげられる。そして、11月中旬から12月初旬にかけて境内は見事な紅葉で彩られる。今年の秋は、古都の庭園美が集約されたような南禅寺で「紅葉浴」ともいうべき、秋の空気を全身に浴びていただきたい。

境内の案内をお願いしたのは、南禅寺信徒部長の水野直樹さん。庭園鑑賞のコツなどを伺いながら、見どころを巡っていこう。

南禅寺信徒部長・水野直樹さん。

行程

三門-方丈-南禅院-水路閣-天授庵-金地院

立ち寄り

京型絵 伊砂(型絵染体験)-南禅寺 料庭八千代(湯豆腐)

「三門」:日本三大門に上り境内の紅葉を一望する

禅宗の建築様式で建てられた三門。東福寺(京都市)、久遠寺(山梨県身延町)と並ぶ「日本三大門」のひとつ。

三門をくぐり抜けてそのまま方丈方面に向かう参拝者も多いが、ここはぜひ楼上から東山一帯の見事な紅葉を眼下におさめていただきたい。三門は、歌舞伎の『楼門五三桐』で石川五右衛門が楼上より「絶景かな絶景かな」と感嘆する場面でも知られる。

「南禅寺の中でも一番のおすすめは三門からの眺望。晩秋には境内ばかりか京都市内の紅葉を大パノラマで愉しむことができます。天守閣のようなこの場所で、門を建立した藤堂高虎が、家康が作った日本の未来を思案していたかと思うと感慨深いものがあります」(稲葉編集長)

三門楼上から眼下に紅葉を望む稲葉編集長。

稲葉編集長(以下、稲葉)「南禅寺は山門ではなく三門と表しますが、どのような意味が込められているのでしょうか」

水野信徒部長(以下、水野)「南禅寺の門は山のようにそびえ立つものではなく、悟りの境地に至るには3つの関門がありますよ、という意味での三門なのです」

稲葉「3つの関門とは何ですか?」

水野「空、無相、無作のことで、正式には三解脱門といいます」

稲葉「楼上からの眺めにひたすら感心しただけで関門を突破したとは言い難いですが、三門の教え、しかと受け止めました」

三門楼上から南東方向を望む。紅く染まった境内に塔頭(たっちゅう)寺院が望める。

「方丈」:『虎の子渡しの庭』の鑑賞法を会得する

大方丈前の小堀遠州作と伝えられる通称「虎の子渡しの庭」を見学しながら禅院の庭の解説を受ける。

国宝に指定される方丈は、大方丈と小方丈からなる。大方丈は御所の殿舎の下賜を受けて、1611年(慶長16)に移築された。小方丈は寛永年間(1624~1644年)の建築で伏見城の遺構とされている。

江戸時代初期を代表する枯山水の名園。砂と松と石などで構成される。「庭の右側が現世の岸、左が悟りの岸を表しています」(水野さん)

稲葉「砂の文様は何を表しているのですか?」

水野「これは人の営みのことです。曲線は動、直線は静を表しています。日常で働き仕事をするのが動であれば、坐禅や写経は静になります。現世(写真右側)から悟りの岸(同左側)までの間には人の営みがあるのです。悟りの岸までは抜け道も近道もなく、真正面から向かっていきましょうと語りかけているようです。庭は芸術的な美しさだけでなく、必ず禅宗のメッセージが込められています」

稲葉「そういうことを分かって見ると、庭の景色がまったく違って見えてきます。ところでこの庭はなぜ『虎の子渡しの庭』と呼ばれるのでしょうか」

水野「石は虎を表しています。大きな石は親虎で小さな石は子虎を表し全部で6匹います。大事に子育てをする親虎が子虎を連れて、悟りの岸まで川を渡る様子を表現しています」

稲葉「ただ美しいだけではなく、そこに、人の一生と家族との関わりについても禅の考えが反映されているのですね」

「南禅院」池泉回遊式庭園で真っ盛りの紅葉に浸る

鎌倉時代末期を代表する、南禅院の池泉回遊式庭園。亀山法皇が作庭したと伝わる。

亀山天皇(1249~1305年)が出家し法皇となると、母が住んでいた離宮を寄進し禅寺として開創、南禅寺の発祥の地とされるのが南禅院だ。

水野「南禅院はどうして南禅寺ができたのか、それを感じ取れる場所です。方丈の奥にはお坊さんの格好をした亀山法皇のお像が安置されています」

稲葉「亀山法皇はどのような思いで禅寺を開山したのでしょうか」

水野「『利生の悲願』という法皇の願いがあります。利生とは利益衆生のことで、人間や他の生き物、そして全てのものの生命を尊び大切にしていくことです。亀山法皇はその願いをさらに広く実践するためにここを禅寺にしたのです」

稲葉「亀山法皇は南禅院の作庭まで手がけたと聞きます。この見事な庭には亀山法皇の深い思いが込められているのですね」

「水路閣」古刹を横切る赤レンガのアーチ橋

1888年(明治21)に完成した水路閣。上を琵琶湖疏水の支線水路が流れるレンガ作りのアーチ橋。写真撮影スポットとして人気がある。

境内のなかで異彩を放つのが水路閣。それもそのはず、水路閣は寺の建造物ではなく、明治になり京都が近代化を果たすにあたり建造された水道橋なのである。琵琶湖から引かれた水は上水、発電、かんがいなどの用水として使われてきた。

水野「水路閣は写真映えがするので多くの人が訪れます。境内に水道橋が建設されたのは南禅寺の寛容さを表しているのかもしれません」

稲葉「水路閣はドラマの舞台にもよく登場します。歴史ある寺院の中に突如あらわれる西洋風の建築は、ここでしか味わえない絶景ともいえます。遺構ではなく、現役の水路ということにも驚かせられました」

水野さんの案内はここまで。ここからは、南禅寺の塔頭(たっちゅう)寺院の天授庵と金地院を訪ねる。「塔頭」とは禅宗寺院の高僧の引退や死後に大寺院の敷地に建てられた小寺院や別坊のことである。南禅寺の広大な境内には12もの塔頭寺院がある。

水路閣は全長93.17m、幅4.06m、水路幅2.42m。13の橋脚により支えられている。見学自由。

南禅寺拝観案内

京都市左京区南禅寺福地町
電話:075-771-0365
https://nanzenji.or.jp/
拝観時間:8:40~17:00(12月1日~2月末まで16:30閉門)
拝観志納金:三門600円、方丈庭園600円、南禅院400円

「天授庵」:枯山水の東庭と池泉回遊式の南庭を巡る

南北朝時代の1339年(暦応2)に創建。南禅寺開山の無関普門禅師を祀るために建立された。その後、応仁の乱などで焼失。安土桃山時代の1602年(慶長7)に戦国大名、細川幽斎の援助を受け再興を果たした。見どころは枯山水の本堂東庭と池泉回遊式の書院南庭である。

「それぞれ砂と水からなる対照的な造りながら、どちらの庭も晩秋になれば紅葉に覆われ視界いっぱいに迫って来ます。ぼんやりと庭を眺めているだけで日頃の悩みが霧消していくような心持ちになります」(稲葉)

本堂前庭(東庭)。白砂が敷かれた枯山水庭園の奥を紅葉が彩る。
書院南庭。鎌倉末期から南北朝時代の特徴を備える池泉回遊式庭園。

天授庵拝観案内

京都市左京区南禅寺福地町86-8
電話:075-771-0744
拝観時間:9:00~16:45(11月1日~冬季は16:30閉門)
※拝観休止日:11月11日午後~11月12日午前
※本年の夜間ライトアップはなし。
拝観料:500円

「金地院」:寺宝の襖絵『猿猴捉月図』に見入る

金地院は応永年間(1394~1428年)に開創した古刹。1605年(慶長10)に南禅寺塔頭として現在の地に再建した。

天授庵そばの中門の手前を左に折れ、道なりに進むと、金地院が姿を現す。境内には重要文化財の方丈を始め、徳川家康を祀る東照宮、開山堂などが佇む。小堀遠州が作庭した枯山水の「鶴亀の庭」など見どころ満載の名刹だ。

方丈から眺める枯山水の「鶴亀の庭」(特別名勝)。

特別拝観では方丈の襖絵を間近に鑑賞できる。稲葉編集長は教科書にも載るある襖絵を見るために、南禅寺巡りの最後に金地院を訪ねた。

「長谷川等伯による『猿猴捉月図』の襖絵に感動しました。畳に座して、特別な空間で直に見る名画は、美術館では味わうことができない荘厳な雰囲気があります。ネットで手軽に知識が手に入る時代ですが、やはりリアルで拝するホンモノはわが身に迫るような迫力があります。わざわざ新幹線に乗ってやって来る意味はここにあります」(稲葉)

金地院方丈の小書院の襖絵『猿猴捉月図』(えんこうそくげつず)に見入る。安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した絵師、長谷川等伯(1539~1610年)の筆による。

金地院拝観案内

京都市左京区南禅寺福地町86-12
電話:075-771-3511
拝観時間:8:30~17:00(12月1日~2月末まで16:30閉門)
拝観料:500円、方丈の特別拝観料700円(事前予約制)

【立ち寄り】「京型絵 伊砂」:町家の工房で型絵染を体験

参拝者で賑わう門前の通りから一歩入れば、古都の町家が並ぶ静かな住宅街だ。その一画にある「京型絵 伊砂」では、伊砂正幸さんが主宰する型絵染教室が開催されている。型絵染とは、柿渋により丈夫に加工された型紙と防染糊を用い、柄や文様を布や和紙に染める技法のこと。伊砂さんは、型絵染作家の叔父、伊砂利彦さんのアトリエを引き継ぎ体験教室を開き、型絵染の第一人者として創作を続けている。

絵柄は小刀によりシャープに彫られ型紙となる。「型紙を彫るのがいちばんたいへんな作業です」と伊砂さん。風景の細かなディテールまで小刀で彫っていくのは、卓越した技量に加え相当の根気を必要とする。もちろん、初心者用の教室ではそんな苦労は必要なく、あらかじめ用意された型紙で染めの体験ができる。近年は海外から型絵染を学びに来るツーリストが増えているという。

「日本の伝統芸術である型絵染。米を原料とする糊を使って、染色できない箇所を作る技法は、自然にやさしい染色です。この技術を学びに海外から多くの人がやってくるというのも頷けます」(稲葉)

型絵染作家・伊砂正幸さん(左)の指導を受けながら、初心者でも用意された型絵を使い絵付け体験ができる。
柿渋加工した型紙で「型絵」を彫る。丈夫なので何度も使える。切り抜いた部分を糊で防染しながら染色をし、その後糊を洗い流すと作品の全容が浮かび上がる。モチーフは南禅寺境内の水路閣。
「南禅寺の秋」(伊砂正幸作)。三門の秋の情景を型絵染で描いた。

京型絵 伊砂(伊砂文様)

京型絵 伊砂(アトリエ)
京都市左京区南禅寺草川町77
※体験教室はアトリエで開催。ホームページの住所とは異なります。
型絵染体験は随時受け付け、内容の相談は電話かメールで。
電話:090-8368-0479
isa1212@icloud.com
https://www.isaart-kyoto.com/index.html

【立ち寄り】「南禅寺 料庭八千代」:門前名物の湯豆腐をいただく

南禅寺「紅葉浴」の締めくくりは、名物の湯豆腐をいただきたい。おいしい豆腐はおいしい水から生まれる。良質な地下水に恵まれる京都では、多くの豆腐店が自慢の風味を競い合う。豆腐は禅寺の精進料理にも欠かせない食材であることから、南禅寺の門前には湯豆腐店が並ぶことになった。「南禅寺 料庭八千代」は「料亭」ではなく「料庭」を名乗る、庭園が自慢の老舗店のひとつだ。

湯豆腐は、琵琶湖疏水の水が引かれた池泉山水式庭園が望めるレストランで供される。店の自慢は「たれ」。豆腐と同じく地下水を使い、毎朝、利尻昆布で丁寧に出汁を取り豆腐に一番合ったたれに仕上げる。料亭に代々伝わる滋味深いたれにより、素朴な豆腐はごちそうの領域に一気に押し上げられるのである。

「湯豆腐御膳」(松、4000円)の一部。手前から南禅寺湯豆腐、カンパチとマグロの造り、八寸(南京真蒸、笹巻麩、紅こんにゃく土佐煮、うろり、いちぢく)、小鉢(生湯葉、わさびあんかけ)、野菜天ぷら。料理は季節や仕入れにより変更あり。

南禅寺 料庭八千代

京都市左京区南禅寺福地町34
営業時間:昼の部11:00~15:00(ラストオーダー14:00、紅葉期・年末年始・桜の時期は~16:00、ラストオーダー15:00)夜の部17:00~21:00(ラストオーダー19:30)80席 年中無休
電話:075-771-4148
https://kyoto-nanzenji-yachiyo.jp/

【編集長後記】

京都を美しく彩る紅葉のシーズンが間もなく訪れようとしている。今回、最高の紅葉情報をお届けするために南禅寺を一足先に訪れた。

紅葉の名所として有名な南禅寺は、三門、方丈、水路閣、そして塔頭の天授庵など、一日では足りないくらい見どころが多い場所でもある。それぞれの建物から見られる、赤、黄色、橙、茶色とさまざまな色が生み出す紅葉の美しさは言葉では表せないほど。紅葉に染まり違う顔を見せてくれる秋の京都。視覚の美しさはもちろんだが、まだ観光客の少ない朝の静謐な禅寺での「紅葉浴」は、自分の人生を見つめ直す時間となるだろう。

コロナ禍で自粛していた旅行もやっと解禁になった。今年は京都で歴史を感じ、非日常の特別感に包まれる名刹の秋を愉しみたい。

撮影:中田昭、小林禎弘

※紅葉の写真は過年度撮影のものを掲載しました。

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限定【切り絵御朱印】授与 南禅寺拝観と地下鉄1日券

京都を快適にご旅行いただけるよう、京都市営地下鉄1日券、南禅寺の「国宝」方丈の拝観券と「そうだ 京都、行こう。」限定オリジナル切り絵御朱印をセットでご用意しました。

商品内容:オリジナル切り絵御朱印授与、南禅寺方丈庭園拝観、京都市営地下鉄1日券
​旅行代金:2000円 (※EX旅先予約での価格)
実施期間:10月1日~12月24日
※開催社寺へのお問い合わせはご遠慮ください。

画像はイメージです

 

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