前回はうつ病の予防に効果が期待できる栄養素に関するお話を伺いました。現代人は野菜や魚の摂取が不足しがちで栄養不足となり、巡り巡ってうつ病などにつながることもわかりました。

今回は栄養素をバランスよく摂ることで、うつ病や認知症のリスクを下げる食事スタイルについて帝京大学医学部精神神経科学講座教授の功刀くぬぎひろし医師に伺いました。

地中海式食事でうつの発症率が低下

うつ病に効果のある栄養素は多岐にわたりますが、これらを効率よく摂取するにはどんな食事が有効なのでしょうか。栄養が多い自然由来の食材がふんだんに使われ、欧米では健康食の代名詞にもなっている食事法のひとつに「地中海式食事」があります。

「地中海式食事は、地中海沿岸の伝統的な食事で、野菜や果物、種実類、糖類、魚介類、オリーブ油、穀類が豊富で、さらに適量の赤ワインを使い、肉類や乳製品の摂取量が少ない食事のことです。スペインの健康な大学卒業生を対象にうつ病発症の追跡調査を行ったところ、地中海式食事に準じた食生活を送っている人は、そうでない人に比べて、うつ病の発症率が低いという報告もされています。ただし、この食事がそのまま日本人の食生活に適応するわけではありません。日本人はもともと魚介類を多く摂っていますし、乳製品の摂取の少ない日本の食生活から、さらに乳製品の摂取を減らすと、栄養バランスが悪くなる可能性もあります。しかし、たくさんの栄養素が摂れるいうメリットもありますので、内容を調整しながら試してみるといいですね」

栄養バランスに優れた昔ながらの和食

地中海式食事ほどの研究データはありませんが、昔から日本人が食べてきた和食にも、うつ病のリスクを下げる効果が期待できます。

「国立国際医療研究センターが、健康日本食型、動物性食品型、洋風朝食型の3つの食事スタイルを比較した研究を行っています。健康日本食型は、野菜や果物、大豆製品、きのこ、緑茶の摂取が多く、動物性食品型は魚介類、肉類、加工肉、マヨネーズ、卵などの摂取が高く、洋風朝食型はパンや菓子類、牛乳・ヨーグルト、マヨネーズ、卵の高摂取とご飯、アルコール、魚の低摂取が特徴です。その結果、健康日本型の食事を摂る傾向の高い人ほど、うつ症状のリスクが低下し、うつ症状のある人は56%も少なかったと報告されています。健康な生活に欠かせない栄養素がバランスよく含まれた和食は、脳の健康維持にも役立つことがわかりました」

今では和風旅館でしか、なかなかお目にかかれなくなった伝統的な和食ですが、うつの予防効果が期待できる食事スタイルであることがわかりました。しかし、この和食にも欠点があると功刀医師は指摘します。

「伝統的な和食は、しょうゆや味噌などを調味料として使い、味噌汁や漬物をよく摂るので、塩分が多めになってしまうこと、また、乳製品が非常に少ないことが欠点です。健康のためには塩分量を控え、出汁で味付けをし、牛乳やヨーグルトなど乳製品も一緒に摂るようにしてください。また、ご飯は食物繊維やビタミン、ミネラルの成分が失われてしまう精白米より、玄米や麦、雑穀がおすすめです。玄米や雑穀は噛み応えがあり、咀嚼する回数が増えることで、脳の活性化にもつながります」

西洋式食事は健康な成分が少ない

シニア世代を除き、多くの日本人は西洋式食事を摂っていますが、このスタイルの食生活では、栄養が偏りがちになるといいます。

「西洋式食事はハム、ソーセージなどの加工肉やピザ、ポテトチップス、ハンバーガー、精製した小麦粉でつくる白パン、砂糖などの摂取量が増えてしまい、栄養バランスが崩れがちです。体や脳の働きに有効で、健康に必要な成分が失われているため、うつ病を予防したり改善したりする栄養素が不十分になりがちです。心身の健康を考えるなら自然の食材がふんだんに用いられる和食、もしくは地中海食がいいですね。いうまでもなく、栄養がしっかりとれる食事を続けることで、肥満やメタボリック症候群、生活習慣病の予防や改善にもつながり、病気の回復を早めるとともに、うつ病を再発しにくくします」

食事習慣を見直したら、なるべく家族と一緒に食事を楽しめる場をつくることも大事なことです。

「家族で食べることにストレスを感じるようであれば孤食でも構いませんが、その日にあった出来事などを聞いてもらえる家族と食卓を囲むことは、日常生活を送る上でのパワーの源となります。会話をしながら食べると食事のスピードがゆっくりになり、血糖値が急に上がりにくいので、肥満や糖尿病を予防する効果も期待できます。自粛生活で家族と過ごす時間が増えていますから、共食の時間に当ててみてください」

お話を伺ったのは……



功刀(くぬぎ) (ひろし)先生
帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授


1986年東京大学医学部を卒業後、帝京大学精神科学教室を経て、1994年、ロンドン大学精神医学研究所にてRobin Murray教授の指導下に疫学、分子遺伝学的研究を行う。以後、精神疾患の生物学的研究を継続的に行っている。専門は統合失調症やうつ病の脳科学、新たな診断・治療法の開発。最近は、脳脊髄液を用いたバイオマーカーや創薬標的分子に関する研究に精力的に取り組む。また、食生活・栄養に着目した研究も積極的に行っている。「心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方 ココロの健康シリーズ」(翔泳社) 、「こころに効く精神栄養学」(女子栄養大学出版)など多くの著書がある。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘  写真提供/功刀 浩医師

 

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