第1回目では、「良い肥満」、「悪い肥満」の違いを解説しました。残念ながら太っていても「良い肥満」の方はほんのひと握りで、多くは改善が急がれる「悪い肥満」です。問題は悪い肥満と自覚し、糖質制限をしているのに改善が一向に見られないケース。そこに潜む罠を、人間ドックに長年携わってきた医師・岡田定先生に伺いました。
誤解だらけの糖質制限が減量を阻む
肥満の状態から脱出するためには、1に食事、2に運動が大切です。 けれど「糖質制限中なのにジュースを常飲する」「急激な糖質制限をする」「1日3食を1食に減らす」「3食すべて糖質制限する」など、間違ったやり方をしてしまう人がいます。誤った糖質制限の実例を挙げながら、正しい方法を紹介します。
「糖質制限を、ごはんや麺類、芋を減らせばいいと考えている方は、とても多いですね。私の経験から一例を挙げると、80代の糖尿病の女性がいらして、かなり強力な薬を服用しているにもかかわらず、数値がよくならないのです。食生活をうかがったら、毎日、果汁100%のフルーツジュースを水代わりに、1リットル飲んでいることがわかりました。フルーツジュースを水かお茶に変えていただいたら、みるみる数値が改善し、薬もどんどん減っていきました。楽しむ程度に飲むのは構いませんが、糖質制限中の飲料は水かお茶にするといいですね」
フルーツジュースに限らず、スポーツドリンク、清涼飲料水、缶コーヒーなど、液体になった糖質を水代わりに飲んでいる方も要注意。あれほど危険なものはないといいます。
「ごはんや芋は糖質を含みますが、適量をしっかり噛んで食べるとゆっくりと体に吸収されます。しかし、液体は一気に吸収されるので、即座に血糖が上がる。食べ物でも急激に血糖が上がるものは危険です。果物は健康にいいから大量に食べても大丈夫という説も信じられています。果物は糖分が多いので、おやつとして食べるならナッツ類がいいですね。『甘いものをとらないと我慢できない』という方は、糖質中毒になっている可能性があります。改善していただきたいですね。外食ではファストフードもたまにはいいですけど、栄養バランスを考えるのであれば、魚が主菜の定食が安心です」
サプリメントに頼らず健康な食事を
この他にも、日常の食習慣で誤解があると、岡田先生は指摘します。
「朝食を抜いて、夕食をたくさん食べている方や、仕事が忙しく、夜中にまとめて食べるという方も多く見受けられます。こうした食習慣はすぐに改善していただきたいですね。“脂肪は夜作られる”という言葉があるように、夕食をいっぱい食べると確実に太りますし、体のバランスを崩しやすくなります。夜は少なめに、朝食や昼食をしっかり食べた方がいいですね。会食後に食べる締めのラーメンやごはんもやめておきましょう。逆に食物繊維が豊富な野菜はいくら食べても害はありませんので、どんどん食べていただいて結構です。こうした事例はまだあります。『食事が十分にとれないのでサプリをいっぱい飲んでいます』というのも誤りです。サプリは食事の代用にはならないので、あくまでしっかり食事をとることを考えてください。サプリに頼りきることで、肝心な食生活がなおざりになる方も多いですね」
「肥満はうつる」といわれる理由
一般的に信じられている肥満の遺伝も誤解だといいます。
「肥満は遺伝しませんが、身近な人にうつる傾向はあります。ウイルスのように感染するのではなく、肥満の方の食生活に影響され、一緒に食事をするご家族も太ってしまうわけです。患者さんにも、本人はもとよりご家族の方も、みなさん太っていることが少なくありません。食事を食べ過ぎても注意する方がいませんし、例えば誰かがお菓子をやめようと決心しても、家族の誰かがお菓子を買ってくるので結果としては食べてしまいます。これでは痩せられませんね。身近に肥満な人がいると本人も肥満になることは研究でも明らかになっていますので、気をつけてください。3世代家族などの場合、メニューは変えず、家族によって配分量を変えるだけでいいですね。例えば若い方はカロリーの高いがっつりしたおかず1に対し、野菜も1食べるとしたら、高齢者はがっつり系を半分にする。量を変えるだけですので、一般のご家庭でも手間をかけず簡単にできると思います」
お話を伺ったのは……
岡田 定 先生
現・医療法人社団 平静の会 西崎クリニック院長
前・聖路加国際病院血液内科・人間ドック科部長
1981年大阪医科大学卒業。聖路加国際病院内科レジデント、1984年昭和大学藤が丘病院血液内科、1993年からは聖路加国際病院で血液内科、血液内科部長、人間ドック科部長を歴任。2020 年より現職。血液診療に関する著書も多く、現在までに30冊以上を上梓している。
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘