写真提供/(公財)武者小路千家 官休庵

感じのいい人に憧れる人は多いのではないでしょうか? 話しやすい、仕事がスムーズに運ぶ、いつも和やかな空気感を持つなど、一緒にいて心地が良く、誰からも信頼されている、そんな感じのいい人なら人間関係に悩むことも少なそうです。

では感じのいい人になるには、どうすれば良いのしょうか? 千利休を祖とする茶の湯の家に生まれ、仏寺で修行した茶人の千 宗屋さんによると、いつも感じのいい人が実践しているのはたった6つの習慣。
「思いやる」「敬う」「感謝する」「きれい好きになる」「ご縁を大切にする」「我が身に置き換える」。
この6つの思考習慣を身につけることで物事がうまく動き出し、人間関係も良くなると言います。

そこで今回は、千さんの最新著書『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)から、感じのいい人が心がけている小さな習慣をご紹介します。6つの思考習慣を意識することで、日常のふるまいも自ずと変化してくるはずです。

文/千 宗屋

物を大切にあつかう

食事を共にすると、相手の性格や本質が見えてくることがあります。

落ち着いていて、何ごとにも丁寧だなという印象を抱かせる人に共通しているのは、物を粗雑にあつかわないということです。

茶席では、亭主がその日のために時間をかけて準備した道具の数々を、客はしっかりと拝見します。その時、大事な道具を傷つけたり落としたりしないよう、慎重に丁寧にあつかいます。そこには亭主への敬意も込められています。客のこうしたふるまいは、逆に亭主側にも「自分の大切な器を預けるに値する相手だ」という信頼と安心感をもたらすことになるのです。

他人の所有物も丁寧に

食器を丁寧にあつかうという習慣は、飲食店など外で食事をする際にも同様です。他人の所有物であるからこそ、敬意をもって、さらに慎重にあつかう心を持ちたいものです。

もちろん食器だけではありません。たとえば椅子をひく際に大きな音を立てたり床をひきずったりするのは、まわりにも迷惑になり、見ていて無作法なふるまいです。特に大人数で入店した場合などは、周囲に対する配慮が怠りがちになることも多いのではないでしょうか。

物を大切にあつかうというのは、貴重品だけではなく、すべての対象に対して丁寧にという気持ちから始まると考えます。

図書館で借りた本、会社の備品、公園の遊具、駅のベンチ、鞄や服などの身につけるもの、などなど。日常生活で手に触れ利用する物に対して、自分の大事な物と同じような配慮をもって接する人の姿は、とても美しいと映ります。

おさらい:物のあつかい方で生まれる信頼感

相手に恥をかかせない

茶道に限らず、「道」と名のつく日本の伝統文化や芸術に対して、堅苦しい印象を抱いている人がいるかもしれません。作法や決まりごとにうるさいと敬遠されることもあるでしょう。

それはたぶん、その道独自の決まりごとや型があり、それを知らなかったり間違えたりして、厳しく指摘された経験、あるいは𠮟られるにちがいないという思い込みがあるからではないでしょうか。

そのような経験はどうか忘れ去り、思い込みは捨ててください。少なくとも私自身は、茶の湯とは、お互いが相手を尊重し、敬意を持って接する究極のコミュニケーションの場であり、相手に恥ずかしい思いをさせる場ではないと考えています。

居心地の悪い思いをさせないこと

仕事やプライベートで、意識的に、あるいは無意識のうちに相手に居心地の悪い思いをさせたり、恥をかかせたりする人を見かけることがあります。

たとえば、人前で不必要に𠮟責する、小さなミスをしつこく追及する、よく知らない人が混じっているのに仲間内の話を続ける、相手のコンプレックスをわざわざ指摘する、などなど。

こうしたふるまいは、相手に対する基本的な敬意が欠けているということです。

相手に恥ずかしい思いをさせないための配慮は、人と人が円満なコミュニケーションを育む上で、最も基本となる心がけです。

また、自分や自分の属している社会の正義をふりかざし、相手を追い詰める行為も避けなければなりません。自分の正義が相手の正義とは限らないのです。

相手に恥をかかせない、居心地の悪い思いをさせない、自分の正義を押しつけない、というのは、人としていつも心がけておくべき配慮ではないでしょうか。

おさらい:敬意を持って人と接する

話し上手より聞き上手

聞き上手な人が本当の会話上手、とはよく言われる言葉です。たしかに、自分のことばかり話し続ける人とは、あまり一緒にいたいとは思わないでしょう。

互いにかみ合わないまま会話を続けたり、知識や自慢をひけらかしたりするのも、結果的に不毛な時間となってしまいます。

やはり、会話とはキャッチボール。

互いに相手の話に耳を傾け、感想を言ったり内容についてさらに深く問い直したりし合うことで、円滑なコミュニケーションが形成されるのだと思います。

茶席では、客の中でメインの人(正客(しょうきゃく)と呼ぶ)が、代表して質問を行います。その時、的確で本質に迫る質問をタイミングよく繰り出し、それに対する答えが得られれば、同席者はそれだけで亭主の心を知り、理解を深めていけるのです。

聞き上手の話で、よく思い出す人がいます。すでに80歳を超えた方でしたが、「人の話というのは、その人が長い年月をかけ、お金もたくさん使い、ようやく得た知見が詰まったもの。こちらは数分それを聞くだけで、まるまるタダで自分のものにできるのですから、これほどのお得なことはありません」とおっしゃったのです。その方の話しぶりも含め、なんとも愉快で説得力のある話でした。

相手の話をさえぎらない

要点をうまく話せない人や、話が横道にそれがちな人との会話もしばしばあること。気の短い人は早合点して「それはつまりこういうこと?」と途中で引き取りたがりますが、それは無作法であり、もったいないことです。まずは敬意を持って、相手の話をさえぎらずに最後まで聞き、その話の骨子をつかんで話題をつなげてみましょう。「あの人が交じっていると、なぜかいつも会話が楽しくはずみ、みなが満足できる」と周囲に思われるような、そんな質問力を身につけたいものです。

おさらい:相手の話に興味を持ち、広げていく

いつも感じのいい人のたった6つの習慣
著/千 宗屋
小学館 1,760円(税込)

千 宗屋(せん・そうおく)
茶人。千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975年、京都市生まれ。2003年、武者小路千家15代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度。2008年、文化庁文化交流使として一年間ニューヨークに滞在。2013年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014年から京都国際観光大使。2015年、京都市芸術新人賞受賞。日本文化への深い知識と類い希な感性が国内外で評価される、茶の湯界の若手リーダー。今秋、「人づきあい」と「ふるまい方」を説いた書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。Instagram @sooku_sen

 

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