糸島で環境再生型の森林農業のモデルづくりに取り組むNPO法人いとなみ代表の藤井芳広さん。先人から受け継いだ糸島の森を守るため、皮むき間伐という方法で森をととのえ、100年先の人たちへ引き継ぐ活動を行っている。日本の森の現状や、子孫に豊かな森を継承するうえで、私たちがやらなければいけないことをうかがった。

「皮むき間伐」をすることで生き物たちがあらわれ森がよみがえる

糸島を拠点に、「皮むき間伐」という方法で、森の再生活動を行う藤井芳広さんを訪ね、福岡市内にある広大な森林地帯へ向かった。当日は小雨がぱらつくあいにくの空模様。市街地を抜け、森林とつながる急勾配の道を登っていくと、森の木々に触れながら、梢を見上げる藤井さんの姿があった。

この森林は福岡市が所有する。藤井さんは市にプレゼンを行い、代表をつとめる「NPO法人いとなみ」がボランティアとして市から管理を委任され、皮むき間伐を実施している。

木を切るには間伐と皆伐の2つの方法がある。間伐とは森から木を間引くことで、皆伐はすべて切り倒すこと。藤井さんが行う皮むき間伐とは、木を切り倒すことなく、木の表皮を剥くことで、立ち枯れさせる方法である。

森に入るとピンクのリボンが巻かれた樹木が目に飛び込んでくる。これは間引きをせずに残しておく木のマーキングだ。森のところどころに皮むきを終えた、木肌の美しい木も見える。

ピンクのリボンが巻かれているのは切らずに残す木。間引く木の皮むきも進んでいた。

藤井さんは、もともと東京で映像関連の仕事に携わっていた。映画の撮影で環境問題に関心を持ち、森林再生に本腰を入れるため、糸島に移り住んだ。

糸島を選んだのは、日韓交流の活動で韓国に出かけたとき、釜山から海峡越しに見た対馬の光景がきっかけだった。

「初めて糸島を訪れた際、海岸から対馬がハッキリ見えたんです。あのとき釜山から見た対馬の向こう側に糸島があったことがわかり、釜山と糸島は真っ直ぐつながっているんだと運命的なものを感じて、糸島へ越してきました」

パワースポットのように神秘的な糸島の森ではヨガの現地体験も。皮むき間伐によって森がととのえられていく。

そして、糸島に皮むき間伐に適した森林が数多くあることも居住後に知ることになる。

再生を手掛ける福岡市内の森で、林業がおかれている現状を聞いた。

「森を守ると聞くと多くの方が過剰伐採を思い浮かべると思います。確かに海外では過剰伐採によって広大な原生林が消滅しています。しかし、森林保護の活動をする中で、日本の森は過剰伐採よりも、戦後、木材生産の拡大を目的に、高密度で植林された杉やヒノキ、針葉樹などが、手入れがされないまま、長年放置されたことに問題があることを知りました。それ以前は植林活動に励んでいましたが、この事実を知って、多様性のある森を目指すなら、間伐だと気がつきました」

放置された杉やヒノキは災害などを引き起こす原因にもなるという。

「杉、ヒノキは同じ時期に植えると、同じように高くなります。さらに枝の高さが同じ位置になると枝同士がぶつかり合い、幹が太くなることができず、根すらも充分に張れません。細木のまま空に向けて伸びるしかないので、倒れやすく、これが土砂崩れにつながるおそれがあります」

本来は、適正に間伐することが林業経営の基本。しかし、高度経済成長期になると林業を取り巻く情勢が変化し、間伐もままならなくなった。

「林業従事者の減少、円高によって国産よりかなり安価で手に入る輸入木材の台頭があり、切り出して業者に持ち込んでも赤字になり、林業が成り立たない産業になってしまいました。結果として、日本中の森林で、木が間伐されず、そのまま放置されるという状況を生み出しました」

環境活動だけではカバーできない、採算を採れる林業の形を模索する中で、藤井さんが辿り着いた答えが、小さなのこぎりと竹べらを使い、文字通り、樹木の皮をむいで行う「皮剥き間伐」という間伐方法だった。

定期的に皮むき間伐のワークショップを開催。皮剥き時間には個人差があり、子どもの場合は2~3時間かかる。

皮むき間伐には3つのメリットがあると藤井さんは語る。その一つが教育的体験プログラムとして、間伐を体験してもらうことだった。

「森の現状を知り、皮むき間伐を体験してもらうプログラムです。残す木と皮をむく木をみんなの話し合いで決め、実際に皮をむきます。森がくれるものは多様で、森の中でしかできない出会いや体験を得られます」

皮むき間伐自体がコストダウンにつながることが2つ目のメリットだ。

「生木の間伐材は重量があり、運び出すために人件費、重機、大型トラック、林道の整備が必要でコストが高くなってしまいます。木は樹皮を剥ぐと水分や養分を吸い上げられなくなり、枝が枯れ落ち、樹木は立ち枯れていきます。皮むき間伐材は水分が抜けて乾燥し、2、3年後に切り出すときには、2mの丸太1本なら小学生3人で運べるほどの軽さになります。大型トラックを使わず、軽トラで加工場へ持ち込むことができるのです」

そしてもう一つ、最も重要なポイントが、間伐材の販路が広がることである。

「家を建てるときやリフォームをするときに、自分が皮をむいた木を使いたいという人が増えています。木を買いたいという人と一緒に森に入り、皮むきをした木の中から好きな木を選んでいただき、それを切り出してお渡しすることもできます。唯一無二の一点ものという価値もあり、現在の市場価格より高くても買いたいという人が多くなれば、林業の経営は成り立っていきます」

間伐によって木を間引くことで、残った木は枝を伸ばし、地に根を張ることができ、太く成長していく。

葉や枝で覆われていた地面にしっかりと日の光がさすことで、さまざまな植物が育ち、虫や菌類などさまざまな生き物たちが戻ってくる。

「長い歳月をかけて、森がよみがえります」

皮むき間伐材を使って自宅でコースターをつくるオンライン体験

「青空たすき」のオンライン体験の一幕。隣はナビゲーターをつとめる秋山さん。二人が着用しているのはスタッフ用のオーガニックコットンのTシャツ。藤井さんのTシャツは杉の皮で染めた薄い茶色を帯びている。

ただ一番根底にあるのは、皮むき間伐を通じて木に愛着を感じ、森を守り、再生することに関心を持ってもらうことだという。藤井さんがアクティブに活動を行うことで、糸島周辺では皮むき間伐が根づきはじめている。

「森の中にあるフリースクールでは、裏山で皮むき間伐した木で校舎をつくるという計画も進んでいます」

「青空たすき」で、藤井さんが語り部をつとめるオンライン体験「豊かな森ってどんな森?皮むき間伐材コースター作りと森のお話会」でも、参加者に森を守ることの大切さを伝える。2時間のコミュニケーションで、多くの人に皮むき間伐を知ってもらい、豊かな森の再生につながる入口に立ってもらうことを心がけていると話す。

オンライン配信を行うスペース。森を愛するさまざまな人との出会いが藤井さんの活動の支えになっている。

「これまで、間伐を伝える手段は、森の現地体験しかなかったので、オンラインで伝えることができる機会を作っていただけたのはうれしかった。参加された方が今後木を使うときに、国産材や間伐材を選択してもらうだけで、日本の林業はまったく変わってきます。興味を持つ入口としてはとても貴重なプログラムですね」

参加者からの質問に答える藤井さん。森に関することにすべて回答できるように、情報は常にアップデートしている。

今回オンライン体験を発信する現場に同席。参加者の自然に対する関心は高く、糸島の自然をリアルに感じられる間伐材と紙やすりを使ったコースターづくりにも真剣に取り組んでいた。この体験で皮むき間伐に関心を持った参加者から質問が寄せられるたびに、これまでのおもしろいエピソードを織り交ぜながら、真摯に回答していった。

参加者と同じように、間伐材にやすりをかけて平坦にととのえる。
完成したコースターからは木の香りがただよってくる。

「戦後、木材自給率が高まることを予測して天然林を伐採した人たちも、子どもや孫の代に役立てばという想いで杉やヒノキを植林したと思います。森をととのえ元の姿に戻すには100年かかります。100年後に暮らす人々のために、日本の森を継承していきたいですね」

オンライン体験

「豊かな森ってどんな森?皮むき間伐材コースター作りと森のお話会」
自宅に届くキット内容はコースター作成用木材(2個)、紙やすり3種+やすり用木材(1個)、オーガニックドリップコーヒー(2個)
4,400円+送料。キットなしの視聴のみの参加コースもある 1,500円(送料不要)

 

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