【友人という病】「たった一人の家族に先立たれた」最愛の夫が死去、子供がいない未亡人同士の友情が向かう先～その１～

23年8月、厚生労働省は『毎月勤労統計調査／6月分』を発表。これによると、物価変動の影響を加味した「実質賃金」は前年同月に比べて1.6％減。15か月連続で前年以下が続いている。「額面」といわれる「名目賃金」が増えても、生活が苦しくなる状況が続いている。

しかし、旅行は花盛りだ。観光地は人にあふれ、渋滞や混雑で交通事情は悪化し、トイレ不足やごみが問題になることも。大手旅行代理店JTBは、2023年の夏休み期間の国内旅行で1人あたりの旅行平均費用が4万円になると発表。これは‘19年コロナ禍以前より約10%も高いという。

美保子さん（58歳・パート）は、「主人が生きていたころは、1泊2日で4万円は“高い”と思っていたけれど、今は“安い”と思うようになってしまった。浪費は加速するんです。老後費用を使ってしまっているのはわかっているのに、いいホテルを選ぶようになってしまった」と語る。美保子さんはかつて、夫とともに青春18きっぷで国内を巡り、格安の民宿を泊まり歩いていた。彼女に贅沢の味を教えたのは、女友達の淑恵さん（60歳・無職）だった。

子供がいない夫婦の伴侶が先立つということ

美保子さんと淑恵さんの出会いは、がん遺族のための家族会だった。家族に先立たれた悲しみを同じ境遇の人々が話し合う会だ。

「2021年8月に主人をがんで亡くしました。コロナ禍の影響もあり、見舞いができずあっという間に進行して亡くなってしまったんです。先日、入院中の母の見舞いに行ったのですが、看護師さんから“あなたが来ると、お母様は元気になるんですよ”とおっしゃっていて、“見舞いは薬”なんだな……と。あのとき、なぜコロナであそこまで厳しい隔離がされたのか、お見舞いに行って、主人の手を握って励ますことができたら、主人は生きていたんじゃないかと、帰りのバスで嗚咽してしまった。今も主人のことをときどき思い出しては涙が出ます」

美保子さんには子供がいない。夫と支え合い、愛し合っていた。お互いがたった一人の家族なのだ。お互いが27歳の時に職場結婚し、結婚28年目に夫は天国に旅立った。

「銀婚式のとき、“いままで支えてくれてありがとう”と、北海道旅行をしたんです。あれが二人で行った最後の旅行。茨城の大洗からフェリーで苫小牧まで行き、車を交代で運転して道東を一周。宿の予約はせず、行き当たりばったりの2週間。あれは楽しかったな」

夫は商業デザイナーだった。勤務していた大手広告代理店を独立するときも美保子さんは応援し支えた。夫のことを思い出すと、今でも涙が止まらないという。

「孤独なんです。両親も生きているし、姉も友達もいるけど寂しい。悲しみって夜にやってくるんです。ひとりで夕飯を食べようとすると、孤独が胸にせりあがってきて、誰かと話したくなる。でも、みんな家族がいるから、そんな時間に電話したら迷惑じゃないですか。それに、私も含めて普通の人は悲しいことが嫌いなんです。だから、人と会うときは、主人がいなかったかのように、明るく振る舞っています。友達もはれもののように扱うか、あえて家族や病気、死の話を避ける。今は身近な人の死の話はタブーだとも感じました」

夫が亡くなってから半年間は、死後の手続きや夫が“一人社長”をしていた会社の手じまいが忙しく、気がまぎれた。しかし、全ての手続きが終わってからが地獄だったという。

「子供がいないから、世話する人もいなくて、よりどころがない。心に穴が開いて、そこに自分が落ちていく実感がありました。穴に飛び込めば主人と会えるとわかっているのに、勇気がなくて飛び込めないという夢を見続けました。眠りが浅く、起きれば泣いている。体重が10キロ落ち“このまま死ねる”と思っていたら、姉が病院に連れて行ってくれたんです。栄養失調と脱水と貧血で3日入院し、退院するときに看護師が“がん遺族の家族会に入ったらどうですか？”とすすめてくれたんです」

【幼い子供を残して亡くなった女性、子供を亡くした親との出会いに……次のページに続きます】