取材・文・撮影(一部)/小坂眞吾(『サライ』編集長)
カメラが教えてくれる「人生の愛おしさ」
多くのサライ読者同様、写真撮影は私にとって、大切な趣味のひとつ。今はミラーレス一眼カメラに、オールドレンズをあれこれ付けて楽しんでいるが、カメラを構えるたびに思い出すのは、かつてサライに連載をしていらした風景写真家、竹内敏信先生の言葉だ。
「写真っていうのはね、その日、その時の光の状態を永遠に固定するものなんだよ」
「一瞬」を「永遠」に変える魔法。先生のこの言葉がきっかけで、私は写真を生涯の趣味とすることになった。このとき、先生はフィルムカメラを念頭に置いていらしたのだが、デジタルであっても、一瞬の光芒と、そこから受けた感動を永遠に固定するのが写真の醍醐味であることに、変わりはない。
日常と非日常とを問わず、人生にとってはすべての瞬間が、かけがえのないもの、慈しむべきものである――その大切な事実を教えてくれるのが写真であり、カメラなのだ。
防水・防塵でなければ撮れない「永遠」
今回、南太平洋・タヒチの島々に出かけるにあたり、どんなカメラを持っていくべきか吟味した。旅の友となるカメラは、かさばってはならず、少々手荒に扱っても平気な頑丈さが求められる。旅行中は慌ただしいから、カメラを気遣う余裕はないのだ。ましてや南太平洋の島。シュノーケリング好きの私としては、水中写真も自在にこなさなければならない。
そこで白羽の矢を立てたのが、昨年10月に発売されたパナソニック『LUMIX DC-FT7』だ。
子供たちがまだ小さい頃、年に一度の家族旅行は決まって、海のきれいな南方の浜辺だった。国内は宮古、石垣、西表と周辺の離島。海外はコタキナバル、プーケット、グレートバリアリーフ、サイパンなど。珊瑚礁の海を日がな一日、家族で泳ぎ、シュノーケリングをしていた。旅行前には子供たちにマスクとシュノーケルを付けさせて、風呂で特訓までしたものである。
その当時愛用していたのが、「FT7」のご先祖にあたる『LUMIX DMC-FT1』。パソコンに保存してある、「FT1」で撮った子供たちの写真を久しぶりに眺めているうち、竹内先生の言葉の意味があらためて身に沁みた。子供がまだ子供であったころの、無垢な笑顔。それこそ、その瞬間にしか撮影できない「永遠」なのだ。
「FT1」は2009年の発売で、画素数こそ1200万だが、水中でもマクロでも街中でも、対象をじつに鮮やかに、かつ自然に写し取っていた。子供たちの写真の大半は浜辺や水中のもので、防水・防塵の「FT1」でなければ撮れなかった表情がたくさん記録されている。
使用環境を選ばない万能カメラの遺伝子はその後、「FT5」(2013年)を経て、最新型の「FT7」(2000万画素)に受け継がれた。タヒチの島々を舞台に、さっそくレビューを試みたい。
FT7のポイント①
大幅に進化したタフネスぶり
「FT7」では、「FT1」に始まる防水・防塵・耐衝撃性の基本コンセプトが大幅に強化されている。
「FT1」は、ふだん遣いの小型デジカメに、アウトドアに持ち出せる機能を違和感なく付加するのがコンセプト。その結果、デザインは極めてスマートだったが、USB端子やバッテリーの保護カバーにやや繊細な面が見受けられた。「FT7」はそこを割り切り、タフネスを存分に追求している。
それでデザインを犠牲にしているかというと、さにあらず。レンズ周囲の大きなガード、手袋をしても確実に押せる大きなシャッターボタンなど、筋肉質で鍛え抜かれた「FT7」ならではのデザインとなっている。
比較すると、「FT1」からひと回り大きくなっているが、間延びした印象はなく、むしろ精悍で引き締まって見える。
ボディ色として、「FT1」以来のオレンジがラインアップされているのは、私のようなオールドユーザーには嬉しい限り。
FT7のポイント②
LVF搭載で写真撮影の基本「3点支持」を実現
カメラ好きに何より嬉しいのは、LVF(ライブ・ビュー・ファインダー)が初めて付いたこと。山登りでは両手両足の4点のうち、つねに3点を確保しながら登る「3点支持」が基本だが、これは写真撮影でも同じだ。両手と顔の3点でカメラを保持し、カメラの液晶部に顔の脂がべっとり付くくらいでなければ、気合いの入った写真は撮れない。
また、日差しの強いアウトドアでは、液晶ファインダーは相対的に暗く見えるので、画像がはっきり確認できない。きっちりした構図作りもできないし、撮影後の確認もしにくい。LVFが付いたことで、どんな状況でも構図を決めたり、撮影後の写真の確認も確実に行えるようになった。時と場合を選ばない。これこそ、真のタフネスではなかろうか。
そしてLVFにはもうひとつ、私のような老眼持ちにありがたい特長がある。
老眼になると、デジカメの液晶画面が見づらくなる。スマホや本を読むのと同じことだから、これは当然だ。それがLVFなら、ファインダーの視度調整を合わせることで、老眼鏡を使わなくてもファインダー内の細かい表示までストレスなく見えるのだ。「FT7」の視度調整はプラス4までと幅が広く、老眼のかなり進んだ人まで対応している。
FT7のポイント③
水中では4K動画を活用すべし
「FT7」で格段の進化を遂げたのが動画撮影機能。4Kクオリティの動画が30分近く撮影できるのだ。
4Kというのは映画で主流になってきたデジタルシネマなどの規格で、昨年暮れにはテレビ放送も始まった。横幅のピクセル数が4000前後であることからこう呼ばれる。Kはキロ(1000)を意味するから、4Kで4000ピクセルというわけだ。
ちなみに、家庭用テレビで普及している「フルハイビジョン」規格の場合、横幅のピクセル数は1920。4Kはタテ・ヨコともこのフルハイビジョンのほぼ2倍のピクセル数なので、情報量としては約4倍となる。テレビ放送を凌駕する画質だ。
これを存分に生かせるのが、水中での動画撮影である。水中の魚の動きは俊敏で、ピントを合わせるのは難しい。液晶ファインダーでは、現実の風景を画面に映し出すのに時間差があるから、シャッターを切っても時すでに遅し、という場面も多い。そもそも、こっちはシュノーケルでふわふわ浮かんでいる状態だから、波に揺られて構図も決まらない。したがって、シャッターを何回押しても「決定的瞬間」にはほど遠い。これは、かつて「FT1」で撮った写真をあらためて見返しての感想で、水中写真には正直、構図の良いカットが少なかった。
「FT7」ならそんな時、4K動画モードにして、波間を気ままに泳いでいけばいい。クマノミがカメラめがけて攻撃してきたり、スズメダイの群れが枝珊瑚の間にすばやく隠れたり、かと思うとサメがすぐそばを通り過ぎたり、そんなシュノーケリングの一部始終を、テレビ番組より豊富な情報量で記録してくれる。
見返すたびにタヒチの旅が思い出される、4K動画は最高の記憶装置である。
FT7のポイント④
4Kフォトで決定的瞬間をスチールに切り出す
4Kの高画質をスチール写真に応用したのが「4Kフォト」だ。4Kで1秒につき30コマ連写しておいて、あとからベストな1枚を切り出してスチール写真にできる。画素数は1200万相当あり、家庭用プリンターならA3で出力できるクオリティだ。
シュノーケリングでは、この機能がとても有効だった。たとえばチョウチョウウオ。シュノーケラーにとっては王道アイドルだが、いざ撮影しようとすると、こちらから一定の距離を保って逃げていくので、顔の見えるアングルでの撮影は至難のワザだ。しかし、逃げるのを背後から追いかけていくと、時おりヒラを打って、横顔が見える瞬間がある。
スチールで捉えるのは不可能なこの一瞬も、4Kフォトなら撮影できる。4Kフォトモードにして、魚を数秒、追尾すればよい。そうして撮った連続写真の中から、ベストショットを選んで保存すればOK。今までどうしても撮れなかった写真が手に入る。
これはシュノーケルに限らず、行動が予測しにくい幼い子供や孫、犬の想定外の表情や行動を撮るにもうってつけの機能だと思う。
FT7のポイント⑤
旅カメラに最適な最短28ミリの広角レンズ
個人的な好みもあろうが、私は旅カメラの焦点距離は28ミリがベストだと感じている。35ミリでは「もうちょい広かったら」と思うし、24ミリでは広すぎて構図がまとまらない。ま、腕がないと言われればそれまでですが……。
20ミリ以下なら別の撮り方、遊び方もできるけど、それはもう「趣味」の領域であって、撮るものが極端に限定されてしまう。
「FT7」は約5倍のズームレンズを搭載しているが、最短側は28ミリ(35ミリ判フィルム換算)である。これは「FT1」から変わっていない。この画角が、スナップショットに最適なのだ。今回のタヒチの旅でも、山、海、街中のほとんどのカットはワイド端の28ミリで撮った。
こうして28ミリに慣れてくると、いちいちカメラを構えなくても絵作りが想像できるようになる。立ち位置を決めてLVFファインダーを覗いたら、すでに構図が決まっていて、あとはシャッターを押すだけ。何だか、撮影の腕が上がったような気がしてきた。
取材・文・撮影(一部)/小坂眞吾(『サライ』編集長)
協力/パナソニック
※『LUMIX FT7』公式サイト|パナソニック
https://panasonic.jp/dc/compact/products/ft7.html