文/鈴木拓也

アレルギーの症状に悩む人は、ここ数十年のうちに大幅に増加。いまや日本人の約5割が、何らかのアレルギー疾患に罹っているといわれる。
なかでも目立つのは、大人になってから発症するアレルギーだ。例えば50歳のある男性は、朝起きると全身にじんましんが現れており、動悸や息苦しさを感じた。立ち上がると意識を失い、救急搬送先でアナフィラキシー(急激に強いアレルギー症状が現れる状態)と診断された。
その原因は、前日の晩に食べた納豆。納豆の粘り成分であるポリγグルタミン酸がアレルゲンとなって、納豆アレルギーの症状を引き起こしたのである。過去にクラゲに刺された経験があると、納豆アレルギーを発症する可能性があるという。
こうした、予想もしないようなものがアレルギーの元となる事例は、昨今少なくない。もし、心当たりもないのに、くしゃみ・鼻水が止まらないとか発疹が出るといった症状が続くのであれば、それは「かくれアレルギー」かもしれない。そう警告するのは、昭和医科大学医学部のアレルギー専門医・指導医の鈴木慎太郎准教授だ。
鈴木准教授は、著書『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』(あさ出版 https://www.asa21.com/book/b677525.html)のなかで、種々のアレルギーを取り上げ、対策と予防を解説している。
肉料理を食べて救急搬送
本書には、レストランでホールスタッフとして働く30歳の女性Cさんの事例が紹介されている。
ある日、忘年会の客のビールがCさんの顔にかかると、すぐに顔がほてり、強いかゆみを覚えた。顔は真っ赤となり、じんましんが広がった。これはビールに含まれるタンパク質がアレルゲンとなり、症状化したものだ。まれに、アナフィラキシーを起こすこともあるという。
また、60代の女性Gさんは、外食後にじんましん、腹痛、呼吸困難を繰り返し、救急搬送されるようになった。調べると、料理で提供された牛肉や豚肉が原因であると判明。肉に含まれるα-galという成分がアレルゲンとなっていたのである。
肉アレルギーに罹る人は、マダニに咬まれた経験が発症のきっかけになることが、ままある。咬まれたことで体がα-galに反応しやすくなり、肉を食べることで症状化するという。
医療機関でも発症可能性があるアレルゲン
食べ物だけでなく、薬剤や医療材料がアレルゲンになることも。
70代の男性Aさんは、肺がん検査のため造影CTを受けることになった。検査当日、造影剤を注射された直後に気分が悪くなり、そのまま意識を失ってしまう。これは造影剤によってアナフィラキシーが起きた例である。
現在使われている造影剤は安全性が高いとされているが、Aさんのようにまれに重い反応が起こることがあり、予想がつかない。もっとも医療現場では、緊急時の対応体制が整えられており、適切な処置によって回復が可能であることがほとんどだ。
ペニシリン系の抗菌薬の点滴で、皮膚のかゆみや喉の締めつけ感などの症状に見舞われたのは、60代の女性Cさんだ。それまで同系統の薬は何度か使用しており、安心した矢先の緊急事態であった。鈴木准教授は、これまで問題がなかった薬でも、ある日突然、アレルギー反応が起こることはあるという。
自分でできる対策は打っておく
上記で取り上げた事例は、本書に記されている「かくれアレルギー」のごく一部にすぎない。
これほど多種多様な物質がアレルゲンとなりうるのなら、我々はどうやって対策を打てばいいのだろうか?
鈴木准教授は、アレルギー体質の完全な克服は簡単ではないとしつつ、必要以上に恐れることを戒める。また、アレルギーとは「長期管理型の病気」だと言う。つまり、症状が出るたびに何とかするのではなく、日頃から症状が出ないようにすることが大事。
なかでも最も重要なのが、アレルゲンをしっかり避けることだ。花粉症であれば、マスク、花粉防止用眼鏡(ゴーグル)、帽子などを着用し、体が花粉を取り込む量をできるだけ減らす。屋内の微粒子がアレルゲンであれば、定期的に換気を行い、週1回は掃除機をかけるなど、基本的な対策をとる。
他方、食物アレルギーについては「必要最小限の除去」を唱える。食物によっては、完全な除去は現実的ではなく、栄養不足につながることもあるからだ。
ただし注意したいのは、油断して必要量以上を誤食するリスク。「そばアレルギーだから。そばさえ避ければ大丈夫」と考えていても、フランスの「ガレット」、ロシアの「カーシャ」、イタリアの「ピッツォッケリ」には、そば粉が使われている。アレルゲンを原材料にする料理を調べ、加工食品については原材料表示を確認する習慣を身につけておきたい。
さらに、体質改善のセルフケアとして、禁煙や適正体重の維持がすすめられている。また、医療機関で処方される抗アレルギー薬も効果の高いものが出てきており、小児科を中心に経口免疫療法も採用されるようになっている。食物アレルギーでも、アレルゲンとなる食品をごく少量摂取し、量を少しずつ増やして、体を慣らしていく治療法がある。小児科では研究的な治療として実績が蓄積されてきているが、誰でも効くわけではなく、いまだに完治させる治療法とは言えず、一定のリスクもある。
そのほか、スギ花粉症に対する舌下免疫療法や、アレルゲン分子を狙って作用する分子標的薬なども実用化されており、日進月歩の医療に今後は期待が持てそうだ。「自分はもしかして、かくれアレルギー?」と疑うのなら、受診とあわせ本書を読んでおくといいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『その不調、「かくれアレルギー」が原因かも』

定価1650円
あさ出版
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。







