
「日本酒はどのくらいまでなら体にいいのか、逆にどこからが飲みすぎになるのか」——そんな疑問を抱いたことはありませんか。
「何合までなら安全」という一律の答えはありませんが、純アルコール量を知ることで、自分の飲酒量を考える目安にすることはできます。今回は、その基準となる考え方から、性別による違い、器で量を意識するコツ、そして長く楽しむための飲み方まで、順を追ってお話ししていきたいと思います。
文/山内祐治
日本酒の適量は1日何合まで?
厚生労働省による「健康日本21」では、「節度ある適度な飲酒」として1日平均純アルコール約20gという目安が示されています。一方、2024年に公表された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、「20gまでなら安全」という考え方は採られていません。飲酒による影響は年齢、性別、体質、疾病によって異なるため、自分が摂取する純アルコール量を把握することが大切だとされています。
なぜ日本人にとってこの目安が重要なのか。アルコールを分解する過程で生じるアセトアルデヒドをさらに分解する酵素を、生まれつき持たない、あるいは働きが弱い方が日本人には少なくありません。そのため欧米の方々に比べてお酒に強くないと言われることが多いのですが、実際には個人差によって大きく分かれます。ALDH2の働きが弱い方では、アルコールから生じたアセトアルデヒドの分解が遅くなり、体内にアセトアルデヒドが蓄積しやすくなります。
もう一つ知っておいていただきたいのが「生活習慣病のリスクを高める量」という、また別の指標です。こちらは男性で純アルコール40g以上、女性で20g以上とされています。先ほどの「節度ある適度な飲酒(20g程度)」と混同してしまうと、「もっと飲んでも大丈夫」と誤解しかねません。“適量”と“リスクを高める量”は、まったく別の物差しだとご理解いただくのがよいと思います。
これを日本酒に置き換えるとどうなるか。純アルコール量は「飲酒量(ml)×アルコール度数(%)÷100×0.8」という式で求められます。度数15%程度の日本酒なら、およそ1合(180ml)が目安です。計算すると180ml×15%÷100×0.8=21.6gとなり、ほぼこの数値に一致します。1合は徳利1本分のイメージで、ワイングラスなら2杯程度が目安になります。
ただし、これは「毎日1合飲んでいい」という話ではありません。休肝日を設けながら、この量を超えすぎないようにしていただくのがよいと思います。原酒や度数12%程度の低アルコール酒では同じ1合でも純アルコール量が変わりますし、炭酸などで割ると杯数が増えやすいので、量の感覚は純アルコール量を基準に捉えていただければと思います。
男性と女性、日本酒の適量はどう違う?
適量は男性と女性で異なり、女性の方が少なめとされています。男性は1日20g程度が目安ですが、女性や高齢者、お酒に弱い体質の方はさらに少なめを意識していただくのがよいと思います。
女性は平均的に男性より体格が小さく、同じ体重でも体内水分量が少ない傾向があります。そのため、同じ量のアルコールを摂取すると血中アルコール濃度が高くなりやすく、健康影響もより少ない飲酒量から現れることがあります。一方、アセトアルデヒドを分解するALDH2の働きなど遺伝的な体質差は、男女を問わず大きな個人差を生みます。
少量で顔が赤くなる方は、酔いの自覚だけを頼りにせず、もともとアルコールの影響を受けやすい体質である可能性を考えて、より少ない量に留めることが大切です。私自身、お酒にそれほど強い方ではなく、すぐに顔が赤くなるタイプですので、この感覚はとても大事にしています。
日本酒の適量と健康の関係を知っておく

健康の面でよく語られるのが「Jカーブ」という考え方です。まったくお酒を飲まない人よりも、少量飲酒する人の方が死亡率が低いというもので、以前はよく知られていました。ただ近年は、少量であってもリスクはゼロではないという見方が強まっています。
これはどの病気に注目するかによって話が変わってきます。もともとJカーブは虚血性心疾患など循環器系の疾患を中心に報告されてきたものですが、肝臓など内臓系の疾患ではこの関係は当てはまらず、少量からリスクが始まるとされています。近年は循環器疾患についても「少量飲酒に保護効果がある」という前提そのものを見直す研究が国内外で出てきており、Jカーブ自体を疑問視する声も強まっています。すべてのお酒が“百薬の長”というわけでは決してありません。
さらに、このデータには、以前は飲酒していたけれど肝硬変などで飲めなくなった方の死亡率が「お酒を飲まない人」のグループに含まれてしまっているのではないか、という指摘もあります。そう考えると、まったく飲めない人の死亡率がやや高く出てしまうのも当然という側面があり、この種のデータはよく見て判断する必要があると思います。
また、1回の飲酒機会で純アルコール60g以上を摂取することは「一時多量飲酒」と呼ばれ、身体疾患や急性アルコール中毒、外傷のリスクを高めるとされています。短時間で酩酊状態になるほど飲んでしまうのはやはり危険ですので、飲みすぎはかえって逆効果だということを覚えておいていただければと思います。
おちょこで量る、日本酒の適量
器で考えると、何杯飲めるのか気になる方も多いと思います。基準にしやすいのはやはり1合徳利で、それを何回かに分けて飲むイメージです。
おちょこは30ml程度の小さなものから大ぶりなものまで幅があるため、「何杯」と数えるより、最初に180ml程度を別の容器に取り分けておくと総量を把握しやすくなります。「今日はこれで適量」と、1合徳利を基準に考えながら飲んでいただくのがよい考え方だと思います。

日本酒を健康的に楽しむ飲み方
健康的な飲み方として近年話題になっているのが「和らぎ水」です。以前は、和らぎ水(チェイサー)を挟みながら飲むと酔いにくいと言われてきました。しかし2026年、大分大学と三和酒類による共同研究で、和らぎ水を挟んだからといって二日酔いにならないわけではない、という趣旨の論文が発表されています。
この研究は、お酒に強い体質(ALDH2野生型)の健康な男性を対象に、日本酒だけを飲む条件と、同量の日本酒に水を加えて飲む条件を比較したものです。実際には日本酒を1時間ほどかけて約4合(平均749ml)、水はおよそ1リットル飲むという内容で、翌朝の頭痛や吐き気、集中力の低下といった症状には、水の有無で差が見られなかったという結果が出ています。
ただ、そもそも1時間で4合というのは、通常の飲み方からすればかなり急速な飲酒量・飲酒速度です。これだけの勢いで飲んでしまえば、和らぎ水を挟んだところで効果を感じにくいというのは、感覚としても納得できるところです。

研究結果をまとめると、和らぎ水そのものにアルコールの代謝を速めたり、二日酔いを防いだりする効果を期待するのは難しそうです。一方で、実際の飲酒の場では、水を挟むことで飲むペースを落としたり、お酒の総量を意識したりする助けになります。厚生労働省のガイドラインでも、飲酒の合間に水や炭酸水を飲むことが、健康に配慮した飲み方のひとつとして挙げられています。この研究結果とは別に、少しずつペースを落としながら飲んでいただくことは大切ですので、ぜひ実践していただきたいと思います。
避けていただきたい飲み方としては、短時間での大量飲酒、他人への飲酒の強要、不安や不眠を解消するための飲酒、体調が悪いときや服薬後の飲酒、飲酒中・飲酒後の運動や入浴などが挙げられます。こうした点に気をつけながら適量を守っていただくことで、長く、美味しく、楽しくお酒と付き合っていただけると思います。
まとめ
長く楽しく美味しく飲むためには、まず自分がどのくらいの純アルコールを摂取しているのかを知ることが大切です。度数15%の日本酒なら、1合で約22gの純アルコールを含みます。ただし、1合までなら安全という意味ではありません。年齢や性別、体質、体調などに合わせて量を調整し、飲まない日も設けながら楽しんでいただければと思います。
最近はSNSなどでも、「お酒を飲むと翌日の仕事や運動のパフォーマンスが落ちるから、飲まない」という考え方を目にすることが増えました。実際、アルコールは睡眠の質や翌日の認知機能に影響する可能性があり、とくに大量に飲んだ場合、その影響は無視できません。
ただ一方で、お酒というものを効率だけで測ってしまうと、見えなくなるものもあるのではないでしょうか。季節の料理と合わせ、人と食卓を囲み、土地や米、造り手の背景に触れる。祭りや祝いの席で酒を酌み交わすことも含め(板倉酒造の前杜氏、小島達也さんは「イトナミ」という言葉で語っています)、日本酒は長い時間をかけて日本の食文化や人の交流の中に組み込まれてきました。
身体や仕事のパフォーマンスだけを最大化するなら、「飲まない」という選択はきわめて合理的です。飲まない選択をする人がいていいし、体質的に飲めない人に勧めるものでもありません。その上で、飲む人にとっては「どれだけ飲めるか」ではなく、「どの酒を、誰と、何と、どのくらい味わうか」という方向へ、飲酒の価値を置き直していくことが、これからの日本酒文化には大切なのではないかと思います。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズプロフェッショナルの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成・グラフ作成/土田貴史







