文/濱田浩一郎

秀吉像。(写真:photoAC)

『太閤記』は秀吉の朝鮮出兵をどのように記しているのか?

大河ドラマ「豊臣兄弟!」において主人公・秀長の兄・豊臣秀吉は池松壮亮さんが演じています。秀吉の晩年の「愚挙」(論者によっては日本史上最大の愚挙とまで評する人もおります)として特に戦後、難詰されてきたのが朝鮮出兵(文禄・慶長の役)です。秀吉はなぜ朝鮮出兵(実際には中国大陸をも征服せんとするものでした)を企てたのか。その理由を史書や軍記物はどのように記述しているのかを見ていきましょう。

先ず、秀吉の一代記として名高い『太閤記』(著者は江戸時代初期の儒学者・小瀬甫庵)はどのように記しているのでしょうか。同書において朝鮮出兵関連の話が登場するのは、小田原征伐(後北条氏の討伐。1590年)の直後です。秀吉は諸国を平定し、天下は平穏になったが、そうした時、彼(秀吉)は次のような想いに駆られます。「帝のご意向を伺い、中納言秀次(秀吉の甥)に関白職を譲る。私は新羅・百済・高麗に至り、これらを退治し、続いて唐(中国=明国)に入る。旧功ある将たちに恩賞を与えると共に、異国の長所を見聞し、我が国の政務を改革しようと思うのだ」と。『太閤記』における秀吉の朝鮮出兵の理由を纒めると「恩賞として家臣に与える土地を得るため」「中国などの制度を取り入れて、日本の政治システムを改革するため」ということになるでしょうか。

前者(恩賞)についてはこれまでよく語られてきましたが、後者(日本政治の改革)については余り触れられることはありません。さて、秀吉は朝鮮出兵の意向を持ちますが、同書によると重臣(例えば五大老=徳川家康・毛利輝元・宇喜多秀家・前田利家・上杉景勝など)と相談して決めようとします。天正18年(1590)3月、大坂城にて秀吉は重臣らに先述したような自分の考えを打ち明けました。しかし、多くの者が互いに譲り合って返事を躊躇う有様。そうした中で見解を表明したのが徳川家康でした。家康は「まことに結構なことです。私もそう思います」と秀吉に賛同するのです。この家康の返答を聞き、秀吉は上機嫌になったとのこと。同書によると、こうして「異国退治」が決定したのでした。

秀吉の朝鮮出兵は「誇大妄想」だったのか?

『武功夜話』(尾張国の土豪・前野家の動向を記した覚書などを集成した家譜。偽書説あり)にも朝鮮出兵関連の文章が記述されていますが、そこにも秀吉の出兵意図が載っております。秀吉は高麗国はもとより、大唐国までも切り従え、その「封土」(土地)を諸将に分け与える考えを持っていたと同書は記します。『太閤記』の記述と同じです。『武功夜話』ではこの秀吉の見解に弟・秀長が意見したと書かれています。九州や関東を平定し、天下が治まったにもかかわらず「高麗退治」を行えば「人馬兵粮」の費えは大きなものとなる。「暴挙」を断行すれば「損失のみ多く得るところ無し」というのが秀長の考えでした。「不戦和議」を講じ、外国と「交易」することこそ「富国の第一」であるとの見解を有していたのです。土地を諸将に分け与えたいのであれば「我の給地を与えられよ」と秀長は死力を尽くして秀吉を説得したと同書にはあります。

しかし秀吉は秀長の諫言に耳をかさず「そこもとは高麗の君主となれ。我は大唐に遷り、その地の帝王たらん」と野心を語るのでした。秀長の諫言は聞き入れられなかったと同書にはあります。『武功夜話』は朝鮮出兵に批判的ですが、秀吉の朝鮮出兵に関しては壮大な意図があったと主張する研究者もおります。例えば藤田達生(三重大学特任教授)氏は「秀吉は国産の銀を武器に明に進出し、中国での貿易戦争を支配しようとしたのです。そしてさらに重要なことは日本の国力を強化し、押し寄せてくるヨーロッパ諸国からの荒波を防ぐことだったのです」と述べています(田中昭三「豊臣秀吉はなぜ朝鮮を攻めたのか―謎に満ちた生涯を解き明かす」『サライ』2026年2月号)。朝鮮出兵が大いなる惨禍をもたらした事は事実ですが、秀吉の単なる「誇大妄想」「愚挙」と切り捨てるだけでは、彼の真の意図というものは見えてこないのかもしれません。

文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
10月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店