
標高212.8mの山頂の展望台から対馬島方面を望む。●住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町若松触398-1他 交通アクセス:郷ノ浦港から車で約10分 写真/平塚 毅・アフロ
九州と朝鮮半島の間に並ぶ壱岐・対馬は、大陸と古代の日本を繋ぐ海上の道の要衝であった。壱岐島と対馬島の各所に色濃く残る、古代の人々の足跡を訪ねてみよう。
壱岐島は博多港から北西へ約70㎞の玄界灘に浮かぶ。まずは島の最高峰の岳ノ辻に登った。頂上の展望台からは青い海のパノラマが展開する。飛鳥時代、ここには大陸からの侵攻に備えて防人が配されていたとされる。
3世紀に編まれた中国の歴史書『三国志』のなかの『魏志倭人伝』に、壱岐島は「一支国」と記されている。その王都があったとされる地が、原の辻一支国王都復元公園だ。物見櫓(ものみやぐら)や王の住居などが復元され、壱岐の弥生時代の暮らしぶりを体感しながら散策できる。

原の辻遺跡は、濠で囲った環濠集落の様子や建物が復元されている。国の特別史跡。●住所:長崎県壱岐市芦辺町深江鶴亀触1092-5 電話:0920・45・2065(原の辻ガイダンス)見学自由(原の辻ガイダンス 開館時間:9時〜17時 最終入館16時30分) 定休日:無休(原の辻ガイダンスは水曜、12月29日〜1月3日) 料金:無料 交通アクセス:芦辺港から車で約15分
壱岐島の歴史をより知るために、壱岐市立一支国博物館を訪ね、副館長の河合恭典さん(48歳)に話を聞いた。
「『魏志倭人伝』には、朝鮮半島から対馬島、壱岐島を経て邪馬台国へ至る道のりが記されています。よく読むと、両島のことは詳しく書かれていますが、その先に進むにつれて説明が少なくなっていくので、魏の使者が実際に邪馬台国まで足を運んだのかわかりません。
原の辻遺跡も、強風など住環境の面や、島内の他の同時期の集落の性格から考えると、王都だったのか検討の余地があります」
館内には、原の辻遺跡の出土物や、復元された古代船などが展示されている。大陸系、半島系、日本本土の遺物なども並び、壱岐島が海上交通の要の島として栄えてきたことが窺える。



壱岐市立一支国博物館
壱岐で発掘された、弥生時代から古墳時代にかけての土器や石器を中心に、約2000点を展示する。●住所:長崎県壱岐市芦辺町深江鶴亀触515-1 電話:0920・45・2731 開館時間:8時45分~17時30分 定休日:月曜(月曜が祝日の場合は翌日)、12月29日~31日※夏休み期間中は無休 料金:常設展示410円 交通アクセス:芦辺港から車で約15分
祈りの場としての古墳

最奥の玄室。壱岐島で唯一のくりぬき式家形石棺が残る。照明が点くので、石の質感などをつぶさに見ることができる。●住所:長崎県壱岐市勝本町布気触323 電話:0920・45・2728(壱岐市地域振興部文化スポーツ振興課文化財班)見学自由。交通アクセス:郷ノ浦港から車で約15分
壱岐には島の中央部を中心に280基を超える大小の古墳が存在する。これらは6世紀後半から7世紀初頭にかけて造られたものがほとんどだ。中央のヤマト政権に服属し、大陸との交易や交渉、軍事において重要な役割を果たした有力者の墓とも考えられている。
これらの古墳のひとつ、掛木古墳は石室内部に入ることができる。奥の玄室に、巨大な石の塊をくりぬいて身と蓋をつくった石棺が横たわっている。石棺の中には花がたむけられていた。古墳は先祖への祈りの場として、人々の暮らしに根ざしているのだろう。
500年の歴史を刻む、麦焼酎発祥の地


原の辻一支国王都復元公園の周囲には大麦畑が広がり、その麦は焼酎造りに活かされている。
壱岐島で麦焼酎が造られ始めたのは16世紀頃。中国から伝わった製法を基に、麦を原料とする焼酎造りが始まったという。壱岐島では、麦で造ったどぶろくを釜で炊いて蒸留する製法が用いられ、焼酎は明治時代頃まで「火酒(ひのさけ)」と呼ばれていた。現在、壱岐島には個性豊かな7つの焼酎蔵が点在する。岳ノ辻の麓に蔵を構える玄海酒造は、明治33年(1900)創業。社長の山内昭人さん(66歳)は壱岐焼酎の魅力をこう語る。
「米麹を3分の1、大麦を3分の2使うなど、壱岐島独特の製法で造られるのが壱岐焼酎です。麦の香ばしさに、米麹がもたらす自然な甘みが重なり、やさしくも奥行きのある味わいになります」
玄海酒造のこだわりを体現するのが、琥珀色に輝く「壱岐スーパーゴールド22」だ。ホワイトオーク樽で貯蔵・熟成され、樽から溶け出した色素と移り香が、焼酎に芳醇で華やかな風味を生み出す。

『玄海酒造』
右は「壱岐スーパーゴールド22」22度720㎖ 1480円。スペイン製のホワイトオーク樽で貯蔵・熟成する。左は甕で仕込んだ「一支國いき」27度720㎖ 1702円。●住所:長崎県壱岐市郷ノ浦町志原西触550-1 電話:0920・47・0160 営業時間:8時〜16時30分(日曜は9時30分〜15時30分) 定休日:無休 交通アクセス:芦辺港・郷ノ浦港から車で約10分

世界初の陸上養殖のトラフグ「壱岐七ふく神」を堪能
『まる辰』

壱岐島では、独自の郷土料理も育まれてきた。そのひとつ「ひきとおし鍋」は、地鶏と旬の野菜を煮込む鍋料理で、壱岐島では祝い事や集まりでよく作られるという。ひきとおし鍋にも使われる「壱州豆腐」は1丁が約10㎝四方、重さは約1㎏と大ぶりで、しっかりとした固さの木綿豆腐。壱岐の海水にがりを使用して作られ、大豆本来のコクと甘みが際立ち、濃厚な味わいが特徴だ。
壱岐島の郷土料理を、島内全7蔵の壱岐焼酎とともに味わえるのが、壱岐島の玄関口、郷ノ浦町に店を構える日本料理店『まる辰』。壱岐島の魚介料理も豊富に揃う。
「近年注目を集めているのが、陸上養殖のトラフグ、壱岐七ふく神です。豊かな地下水を利用し、海水の3分の1ほどの低塩分で養殖したもので、身の締まりの良さに定評があります」と日本料理一筋50年の店主、久田辰之さん。


取材・文/藪内成基 撮影/松隈直樹
※『サライ』2026年7月号より












