
『my Orchestra!』。平原綾香さんが9月9日にリリースしたニュー・アルバムのタイトルです。長きにわたり国内外のオーケストラとの共演を果たし、そのサウンドを心から愛してきた平原さんが信頼を寄せる渡辺俊幸氏の総指揮のもと、日本を代表するオーケストラ、東京フィルハーモニー交響楽団、そして、ドラム・則竹裕之、ピアノ・大貫祐一郎という2人の凄腕ミュージシャンと共に、無観客のホールでレコーディング。平原さん念願のフルオーケストラとの共演アルバムとなりました。
収録されているのは、デビュー曲「Jupiter」、 NHK 連続テレビ小説『おひさま』のメインテーマ「おひさま〜大切なあなたへ」、久石譲氏とのコラボレーションで注目され海外からの人気も高い「いのちの名前」「ふたたび」、プロフィギュアスケート転向20年目の荒川静香のために書き下ろした「Friends on Ice」など11曲のフルオーケストラ・アレンジ・ヴァージョンに、声の多重録音による“ひとりオーケストラ”で表現したボーナストラックを収録。
2日間にわたったそのレコーディングの様子や共演するたびに涙するほど感動するというオーケストラ・サウンドの魅力を、平原綾香さんに語っていただきました。デビュー23年目の等身大インタビュー。まずは、世界で愛されている名曲「Jupiter」の誕生秘話から始まります。

—— サライJPには初めてのご登場となります。ぜひおうかがいしたいと思っていたことがあります。今や世界中で愛されている平原さんのデビュー曲「Jupiter(ジュピター)」についてです。
「Jupiter」はイギリスの作曲家グスターヴ・ホルストの組曲『惑星』の第4曲「木星」(Jupiter, the Bringer of Jollity)のカヴァーですが、クラシック音楽であるこの曲がデビュー曲になったのは、なにか理由があったのでしょうか。
「デビューは2003年、音楽大学の1年生のときでした。もともとはラヴ・ソングでデビューすることになっていたのですが、何か違う、私が今歌うのはラヴ・ソングではない、と感じていました。9.11(全米同時多発テロ)から2年が経っていましたが、世界はまだ混乱している時期でした。また、その年の春にテレビのドキュメンタリー番組で難病を抱えたアシュリーちゃん(※)の存在を知り、彼女とお母さんの絆に心が震えました。そうした気持ちを音楽で表現できないだろうか、人々の心が少しでも温かくなるような歌を歌いたい、という思いが強くなっていました。
そんな中、大学の授業で先生が流してくれたのが組曲『惑星』。その中の「木星」のメロディを聴いた瞬間、涙が溢れ出て「この曲を歌いたい!」という思いで胸いっぱいになりました。その授業が終わってすぐにレコード会社のプロデューサーに電話して、「歌詞を付けて歌わせてください」と伝えました」
※アシュリー・ヘギさん。1991年カナダでプロジェリアという遺伝子異常の病気を背負って生まれる。2009年4月、18歳を目前に死去。
—— ラヴ・ソングとは全く違う路線。それでOKが出るとは、ある意味奇跡なのでは。
「今だから言えることなのですが、レコード会社の中には反対の声も多かったようです。クラシックなのかポップスなのか分からないと。こういったカバーは、当時はまだ珍しかったようです。それでも私を信じてくれ、発売にいたりました。
その翌年。2004年10月23日に最大震度7の地震が中越地方を襲い、被害は甚大なものになりました。そんな中、不安でいっぱいな被災者の方たちが身を寄せる避難所で、ラジオから流れる『Jupiter』を聴いてくださっていると伝え聞きました。デビューしたばかりの私は、歌うことしか出来ないもどかしさを抱えていました。音楽で何ができるのだろう、私は何のために歌うのかを自分に問いかける日々の中で、歌うことへの意味を教えてくれたのは、私の歌を聴いてくださった傷ついた方々でした。
—— 今年の夏も長岡花火で「Jupiter」に乗せて「復興祈願花火 フェニックス」が打ち上げられましたね。そうした物語を秘めてデビューから23年間歌い続けてきた「Jupiter」が、ニュー・アルバム『my Orchestra!』の1曲目に入っています。収録曲リストには「Jupiter 2026」と記載されていますが‥‥。
「オーケストラ演奏曲としてアレンジされた「Jupiter」なので、オリジナルの「Jupiter」と区別するために改めて「Jupiter 2026」としました」

あまりに美しくて、涙が出るほど感動したフルオーケストラの響きを一人一人に届けたくて‥‥
—— 『my Orchestra!』はキャリア初のフルオーケストラとの共演によるアルバムとのこと。いただいた資料に「夢が叶い、本当に嬉しいです」と平原さんのコメントがありました。
「実はデビューしてから、ほぼ毎年のようにステージなどでオーケストラとは共演していました。昔からオーケストラの音が好きだったこともあり、共演するたびに喜びがあったんです。それで、いつかはオーケストラの演奏で歌うアルバムを出したいという夢を持っていました。それが2年前、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボレーションさせていただいたときに、楽団のプロデューサーが一緒にレコーディングしませんか、って声をかけてくださったのです」
—— そこから夢の実現に向かって進み始めたのですね。オーケストラとの共演といっても、演奏会のライヴ収録ではなく、このアルバムのために東京フィルハーモニー交響楽団と平原さんが一堂に会し、観客なしのホールでレコーディングをなさっています。通常のライヴ盤にしなかったのは何か理由があるのでしょうか。
「以前、指揮台の位置で演奏を聴かせてもらったことがありました。そうしたら、もう涙が止まらなくて! 今回のアルバムでは、リスナーさんは観客席の一人というのではなく、私が感動した指揮台での音を聴いてもらいたい、一人一人に届けたいと思いました。
私が聴いて感動したオーケストラの響きをできるだけ再現するためにも、ホールレコーディングをすることにしました」
—— リリースされたばかりの『my Orchestra!』を聴かせていただきましたが、1曲目の「Jupiter 2026」の冒頭からあまりにも美しくて、鳥肌が立つほどでした。ところで(ボーナストラックを除く) 収録曲11曲すべてのオーケストラ・アレンジに携わっている渡辺俊幸さんが、レコーディングでは指揮をなさっています。平原さんが信頼を寄せていることが想像できますが、渡辺さんとの出会いは?
「きっかけは父(※)です。私のセカンド・シングルの「明日」という曲が倉本聰さん脚本のフジテレビ系ドラマ『優しい時間』の主題歌に起用されたのですが、ドラマのサウンドトラックのアレンジを俊幸さんが手がけていました。初めてお会いしたのはその時ですが、昔から「俊幸のアレンジはすごいんだぞ」ってサックスプレイヤーの父が言っていたんです。本当に父の言葉通りで、そこからずっとお世話になっています。私の母校、洗足学園大学の名誉教授でもいらっしゃるので先生でもあります」
※平原まこと氏 日本を代表するサックス奏者としてクラシックからジャズ、ポップス、ロック、演歌などジャンルを問わず活躍。日本だけでなく海外アーティストのステージやレコーディングにも数多く参加。2021年11月逝去。
—— 『my Orchestra!』のレコーディングは洗足大学のホールでなさったとのこと。その様子をおうかがいしたいのですが、フルオーケストラとの共演ですから、かなり時間がかかったのではないでしょうか。
「2日間で収録しました。打ち合わせの段階では3日間を予定していたのですが、みんな上手だから2日で大丈夫でしょう! って(笑)」
—— それは驚きです! フルオーケストラは何人の編成だったのでしょう。
「70人弱の編成です。ですが、東京フィルハーモニーの交響楽団の方だけでなく、ドラム、ピアノ2人のミュージシャンも参加してくださっています。全員が全員、プロ。それも凄腕のプロ。もちろん誰か一人がミスをしたら全員でやり直すわけですから、緊張感は高まります。それでもピリピリすることなく、気を遣うこともなく、ミュージシャン同士が音楽で遊んでいる、という感覚がありました。レコーディングの2日間は、本当に素晴らしい時間でした」

デビュー23年目。今の等身大の自分でレコーディングができました
—— ところで『my Orchestra!』というアルバムタイトル、シンプルですけれど、平原さんのオーケーストラへの大きな愛を感じます。オーケストラの魅力ってなんでしょう。
「そうですね、音の歴史でしょうか。オーケストラという形は何世紀も前からあったわけですけど、決して今と同じであったわけではありません。楽器ひとつひとつにも歴史があって、昔は今と違う形状だったり、さらに音がよくなっていたりする。そういう音の歴史を感じるから、胸がいっぱいになって、泣けてしまうのかもしれません」
—— レコーディングのときも感動なさったのでしょうか?
「はい、涙無くしては……。もちろん泣いて歌えないとプロではないので、ちゃんと歌いましたが、その自覚がなかったらオイオイ泣いていたかもしれません(笑)。
今回のオーケストラは70人弱でしたが、それぞれの人生観がある演奏者がひとつの作品に向かっていくわけですからそのエネルギーが凄い。人生観だけでなく、同じ楽器でも、一人一人音程の取り方が高めだったり低めだったりして、それぞれの個性が心地よいハーモニーを生み出すんです。『みんなちがって、みんないい。』という金子みすゞさんの詩ではないですけど、人生観も楽器の音もみんな同じだったら、オーケストラのあの泣いてしまうような音にはならないと思います」
—— 素晴らしいオーケストラ、アーティストたちとのレコーディングだったようですが、平原さんご自身の歌には何か変化があったのでしょうか。
「そうですね、デビュー当時だと出せなかった声もありますから、今の等身大の自分でレコーディングできたと思います」
全国ツアーのスケジュールも発表。ポップスのライヴに行くのと同じように身構えずに楽しんで!
—— 10月3日からスタートする全国ツアー「平原綾香 Concert Tour 2026 ~ my Orchestra! ~」のスケジュールも発表になりました。各地のオーケストラと共演なさるとのこと。オーケストラも土地土地で別の魅力があるものでしょうか。
「それぞれ違うので、来てくださる方にはぜひ“ご当地オケ”の魅力を感じていただければと思っています。私自身、今回初めて共演させていただくオーケストラもいらっしゃるので、楽しみにしているんです」
—— 平原さんのライヴではステージ衣装も見どころのひとつなのですが、今回の衣装は?
「2023年のツアー、2024-2025年のロング・ツアーに続き、今回も共同プロデュースを松任谷正隆さんにお願いしています。これまでのツアーでは、ドレスで「Jupiter」を歌わせたくない、という松任谷さんの意向があり、ジャンヌ・ダルクを思わせるような闘うイメージの衣装を着ました。闘うといっても「武器を捨てて平和のために闘う」といったような“優しさと強さ”を秘めた衣装でした。でも今回は、正隆さんが「いいよドレスを着て」って言ってくださって。大好きなドレスを着ることができるのです」
—— それは楽しみです! それでもフルオーケストラの演奏に触れる機会はなかなかないので、観客としてはちょっと身構えてしまうかもしれません。
「アルバムを聴いてくださればお分かりになると思いますが、オーケストラといってもクラシック音楽ではないので、ポップスのライヴを楽しむのと同じように来てください。絶対に「来てよかった」と思っていただけるコンサートになりますから」
—— それでも涙を拭くハンカチを忘れてはいけませんね。それまではアルバム『my Orchestra!』でフルオーケストラの演奏とデビュー23年目の等身大の平原さんのヴォーカルをたっぷり堪能したいと思います。

【平原綾香 プロフィール】
2003 年に「Jupiter」でデビュー。 日本レコード大賞新人賞や日本ゴールドディスク大賞等、歌手として様々な賞を受賞し高い評価を受ける他、ミュージカル、声優、ドラマ、映画の吹き替えなど多方面で活動。2015年音楽を通じて社会貢献、様々な支援のために『平原綾香 Jupiter 基金』を設立。ラグビーW杯 2019 開幕戦では国歌斉唱を務めた。ミュージカルは『ラブ・ネバー・ダイ』『ビューティフル』『メリー・ポピンズ』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の 拳~』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演。「平原綾香 Concert Tour 2024-2025 ~ The Swinging Classics! ~」は松任谷正隆氏との共同演出プロデュースにて開催。コンサートツアーは毎年続けている。最新シングルは、2025 年大阪・関西万博パビリオン「PASONA NATUREVERSE」テーマソング「いのち、ありがとう/ 80 億の未来へ」。デビュー以来、シングル35枚、デジタルシングル13枚、アルバムは、 カヴァーアルバム、ベスト盤を含む29枚、DVD15 枚、Blu-ray8 枚を発表。
最新情報
9月9日フルオーケ ストラアルバム『my Orchestra!』をリリース。オーケストラとのコンサートツアー「平原綾香 Concert Tour 2026 ~ my Orchestra! ~」を10月3日から開催。
アルバム『my Orchestra!』
01. Jupiter 2026
02. 明日
03. おひさま〜大切なあなたへ
04. いのちの名前
05. ふたたび
06. アランフェス協奏曲〜Spain
07. 虹の向こうへ
08. キミヘ
09. からっぽのハート
10. Friends on Ice
11. 虹の予感
Bonus Track 夢のあとに
購入サイト https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-66160.html
ツアー『平原綾香 Concert Tour 2026 〜 my Orchestra 〜』スケジュール
【埼玉】2026年10月3 日 (土) 所沢市民文化センター ミューズ アークホール 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
【東京】2026年10月11 日 (日)・12 日(月祝) Bunkamura オーチャードホール 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
【愛知】2026年10月24日 (土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール 演奏:セントラル愛知交響楽団
【宮城】2026年11月 8日 (日) 東京エレクトロンホール宮城 演奏:仙台フィルハーモニー管弦楽団
【兵庫】2026年11月14日 (土) 神戸国際会館 こくさいホール 演奏:大阪交響楽団
【大阪】2026 年11月15日 ( 日 ) フェスティバルホール 演奏:大阪交響楽団
【神奈川】2026 年11 月23 日(月・祝)洗足学園 前田ホール 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
※追加公演
指揮 : 渡辺俊幸
ドラム:則竹裕之
ピアノ:大貫祐一郎
ギター&チェロ:伊藤ハルトシ
詳細はオフィシャル HP まで https://www.camp-a-ya.com/contents/1054220
インタビュー/堀けいこ
撮影/横田紋子(小学館)
スタイリスト:mariko
ヘア&メイクアップ : Hiromi





