はじめに-荒木だしとはどのような人物だったのか

2026年NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』にも登場する荒木だし(演:山谷花純)は、戦国時代の武将・荒木村重(演:トータス松本)の妻として知られる女性であり、「今楊貴妃」と称されるほど美しい女性だったそうです。史料に残る情報は多くありませんが、有岡城落城後に一族とともに処刑されたことから、その名は戦国の悲劇を語る上で忘れがたいものとなっています。

この記事では、荒木だしが生きた時代と、その生涯の主な出来事をたどります。

『豊臣兄弟!』では、村重の最大の理解者であり、美しい妻として描かれます。

荒木だし
荒木だし

荒木だしが生きた時代

荒木だしが生きたのは、織田信長が畿内支配を進め、各地の大名や一向一揆、本願寺、毛利氏らと激しく争っていた時代でした。摂津(現在の大阪府北西部と兵庫県南東部)はその最前線の一つであり、荒木村重はその地で勢力を伸ばして、ついには信長から摂津一国の支配を委ねられるほどの有力武将となります。

しかし天正6年(1578)、村重は信長に反旗を翻しました。これによって有岡城をめぐる籠城戦が始まり、城内にいた家族や家臣、その妻子たちもまた、戦の渦中へ巻き込まれていきます。

戦国時代の女性たちは、しばしば史料の表面にはあまり現れません。けれども実際には、夫や一族の運命と切り離せない立場に置かれ、時に政治や戦争の犠牲となりました。荒木だしの生涯も、その厳しい現実をよく伝えています。

荒木だしの生涯と主な出来事

荒木だしの生年は不詳です。天正7年(1579)に没しました。その生涯を、出来事とともに紐解いていきましょう。

荒木村重の妻として生きる

荒木だしは、荒木村重の妻です。『日本人名大辞典』(講談社)では「たし殿」として立項されており、洗礼名がダシとされています。

だしの出自や生年、婚姻の時期などは明らかではありません。ただ、村重が摂津一国の支配を任される有力大名であったことを考えると、だしもまた、有岡城を本拠とするその家の中核にいた女性だったと考えられます。

荒木村重
荒木村重

有岡城が舞台となった戦い

荒木村重はもとは池田氏に属していましたが、のちに織田信長に従い、摂津で勢力を伸ばしました。天正2年(1574)には伊丹城を奪って「有岡城」と改め、ここを本拠としています。

有岡城はこのとき大規模に改築され、惣構を備え、町場をも取り込んだ大きな城郭となりました。宣教師ルイス・フロイスが「甚だ壮大にして見事なる城」と記したほどで、その威容は当時からよく知られていたようです。

だしが暮らした場所も、こうした有岡城の城内だったとみられます。

史跡 有岡城跡
史跡 有岡城跡

村重の謀反と有岡城籠城

天正6年(1578)10月ごろ、荒木村重に信長への異心があるという噂が流れ、やがて村重は信長に反旗を翻します。足利義昭、本願寺、毛利氏に通じたとされ、同年11月には有岡城に籠城しました。

有岡城の籠城はおよそ10か月に及びました。しかし天正7年(1579)9月、荒木村重は有岡城を脱出し、嫡子のいる尼崎城へ移ります。同年11月、有岡城は落城しました。

『国史大辞典』(吉川弘文館)によると、このとき信長は、だしをはじめ、弟妹や子女36人を捕えたとあります。

六条河原での処刑

『信長公記』によると、天正7年(1579)12月13日、村重の家臣の妻子500余人を尼崎で処刑。さらに16日には、だしをはじめ一族36人が京都六条河原で磔にされ処刑されたといいます。

これは、戦国時代の処罰としてもきわめて苛酷なものでした。『立入左京亮入道隆佐記』には「かやうのおそろしき御せいはいは、仏之御代より此方のはしめ也」と記述され、当時の人々に与えた衝撃の大きさを物語っています。

まとめ

名の残る女性が限られる時代にあって、荒木だしの名が伝わっているのは、有岡城の悲劇がそれほど大きな衝撃を与えたからでもあるのでしょう。彼女の短い記録からは、戦国の争いが家族や女性たちにまで深く及んだことが伝わってきます。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

●取材・執筆/末原美裕

1300年の歴史を持つ京都に住むようになって早くも10年以上が経つ。「戦国武将の生き字引」を目指し、実際に武将たちのゆかりの地を訪ね歩きながら「日本史人物伝」「日本史事件録」などの記事を執筆している歴女。歴史好きが高じて『京都学問所紀要 鴨長明の世界』『京都学問所紀要 方丈記』(ともに賀茂御祖神社京都学問所)の書籍を編集。京都の奥深い歴史と文化を日々探究中。

note:@kyoto_monokaki Instagram:@kyoto_monokaki

肖像画/ぐう(京都メディアライン)
写真/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
『日本歴史地名大系』(平凡社)

 

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