津村記久子さん(つむら・きくこ/作家)
1978年、大阪生まれ。デビュー作『マンイーター』で太宰治賞を、『ポトスライムの舟』で芥川賞を受賞。最新刊は『うそコンシェルジュ』(新潮社)。

「ひとコマに込められたとてつもない情報量と構成の妙に、いつ何度読んでも驚かされます」

1970年代後半生まれの私にとって、岡田あーみんは、特異な存在です。10歳上の人は名前も知らない。10下もそう。でも自分と同年代の人にだけは異常に刺さる。小学生の頃、漫画雑誌『りぼん』(集英社)で『お父さんは心配症』に出会い、腰抜かすほど笑った。中学生にかけて『こいつら100%伝説』。その後の『ルナティック雑技団』。でもあーみんはその三作で漫画を描かなくなってしまった。追いかけようもないしそのつもりもない。私にとって山口百恵さんみたいな存在です。

改めて読むと、とにかく密度が凄い。ほぼ無駄なコマがなく、コマの隅々に笑いと伏線が潜んでいる。ギャグは、一見脈絡がなさそうに見えて、すべて「正しい」。『お父さんは心配症』の6巻(最終巻)に『あーみんの思い出あれこれ』という漫画が最後に載ってるんですが、最初のシーンが凄い。お茶くみ人形みたいな人と、《いろんな思い出があったわな…》とつぶやくあーみん自身の距離感。黒ベタの背景。終わったあとの脱力と虚無感が、圧倒的に“正しく”描かれている。意味不明なのに、作者のそのときの感覚を表すのに最善の絵となっているんです。ストーリーは展開が早くて、スピード感がすさまじいのに、きちんと話を練ってある。随所にパロディや教養がちりばめられているのも特徴です。フレーズがまた凄い。“鬼頭オパーリン”とか。人名なんですけど、オパーリン自体には何の意味もないのに音として面白い。“EじゃんGジャン最高じゃん”“トーマスさんと犬のリンリン”とかいつまでも言っていられる。

先日、高校時代の美術部の後輩さんからLINEで“3COINS(スリーコインズ)(300均ショップ)であーみんグッズ売ってる”って回ってきたんです。愛咲ルイ(※『ルナティック雑技団』の登場人物。学園のアイドル。特異な動きをする。)のポーチの刺繍が金色で無駄に高級感がある。夕方に地元のスリコに行ったらほとんど売り切れていました。

あーみんは原稿が描けていない苦しみをよく描きますが、そうだろうと思います。詰め込めるだけのアイデアを全部描いている。妥協のない仕事を本当に尊敬します。

私が高校生のとき、「オアシス」(英国のバンド)がデビューしたんです。「14歳の頃にニルヴァーナがさー」みたいに話すのと一緒で、自分が若かった時代のモニュメントが、オアシスであり岡田あーみんだった。それはとても幸せなことです。(談)

『お父さんは心配症』全6巻

『お父さんは心配症』は、1984~88年にかけて、少女漫画誌『りぼん』で連載された。主人公の佐々木光太郎はしがないサラリーマン。高校生のひとり娘・典子を過度に心配するあまり奇行に走ってしまう。集英社 電話:03・3230・6186

『こいつら100%伝説』全3巻

『こいつら100%伝説』(1989~92年)。舞台は戦国時代。白鳥城の姫、姫子を守るべく、極丸、危脳丸(特異な動きをする)、満丸の見習い忍者3人は道場に修行に出される。集英社 電話:03・3230・6186

『ルナティック雑技団』全3巻(※写真は旧版。現在は新装版が販売中。)

『ルナティック雑技団』(1993~95年)。学園でカリスマ的人気の美男子・天湖森夜の家に下宿することになった星野夢実が、息子を溺愛する森夜の母・ゆり子や学友との間でおこる様々な事件に巻き込まれていく。集英社 電話:03・3230・6186

撮影/安田健示

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