開業から13年。沖縄県竹富島にある『星のや竹富島』の施設は、年を重ねて周囲と馴染み、集落としての落ち着きを見せている。
竹富島の自然と環境を生かした数々の取り組みを進める、宿の歩みを紹介する。

師匠であり、おじいであると、大(おお)さん(手前)を慕うスタッフの伊藤さん(奥)。秋に種を播いた麦を収穫。
在来大豆のクモーマミの種子を探し栽培し、地元の子どもたちと一緒に収穫。豆腐作りも行なった

竹富島には東・西・仲筋の3つの集落があり、伝統的な風景が広がる。『星のや竹富島』は島の南東部に2012年に開業した。木造平屋建ての赤瓦屋根の客室をはじめ、白砂の小路や琉球石灰岩の石垣など、昔ながらの集落景観を踏襲し、経年とともにすっかり島の色に馴染んでいる。

伝統を踏襲し、快適性を備えた客室。玄関はなく、建物左手から室内に入る。裏手には風除けのフクギ。

『星のや竹富島』が大切にしているのは、島に伝わるウツグミの精神。ウツグミとは一致協力して助け合うことで、伝統文化と自然環境を尊重しながら、島の方々と協力し、後世へ繋げる役割も担っている。

そのひとつが畑プロジェクトである。竹富島は珊瑚礁が隆起してできた小さな島。土壌も環境も作物を育てるには不向きな土地で、人々は自給自足の生活をしてきた。土地に合った粟などの雑穀や野菜、薬草を知恵と工夫で育て、祭事では収穫物を奉納し、唄や踊りで豊作を祈願。失われつつある島特有の畑文化や農作物を継承したいと、8年前に始まった取り組みだ。

敷地内に畑を作り、粟や麦、大豆、芋、命草(ぬちぐさ)と呼ばれる様々な薬草などを、島の名人に教えを請いながら育てている。取材時はスタッフの伊藤蓮さんが、竹富島生まれの大政司(おお・まさし)さんと共に麦の収穫に汗を流していた。

「今では専業農家もすっかり減り、伝統作物の栽培も難しいなか、こうしてプロジェクトに関われることは嬉しいことです。昔のおじい、おばあは薬草で不調を治していたことを改めて思い出しています。昔の教えや文化は尊いものであり、それを形にして伝えることが、今、楽しみであり生きがいです」と話す大さん。ゆくゆくは畑で穫れた麦と在来大豆を使い、島醤油を造りたいと意気込む。伊藤さんも竹富島で暮らし、師匠の大さんのもとへ足繁く通っている。

地域との交流から生まれた藍染体験

藍染体験。白い布にビー玉や珊瑚などを包んで結び、藍に浸し絞り染めをする。藍は敷地の畑で収穫。
美しく染まった手ぬぐい。藍染体験は3993円。染めた糸で栞(しおり)を作る織りあそび体験3025円もある。

収穫後は美味しい形で提供

プロジェクト当初から栽培を試みたのは粟だった。五穀豊穣と子孫繁栄を祈願する島最大の祭り、種子取祭(タナドゥイ)では欠かせない作物だが、島産を使うことが難しくなっていた。試行錯誤の末、3回目の種播きで穂を実らせ、やがて種子取祭への奉納も叶った。祭りでスタッフは給仕を担当したり、三線や踊りを練習して総出で参加している。

さらに、種子取祭の時期に食される竹富島の伝統食・イーヤチをアレンジして宿泊客に提供している。糯米(もちごめ)に粟と小豆を混ぜて炊く餅のような郷土の味を、施設の畑で穫れた粟や小豆で作り、振る舞っている。

また、月桃(げっとう)やウイキョウ、フーチバ(よもぎ)、長命草(ちょうめいそう)などの命草は、ダイニングでの料理やラウンジでのハーブティーなどで用いられるほか、オリジナルの蒸留酒「KUNUSHINA」としても結実。命草の豊かな香りと爽快感のある蒸留酒は、料理に合わせるカクテルとしてメインダイニングでも味わえる。

“畑プロジェクト”から生まれた逸品

粟・小豆・大豆のほか長命草や月桃、フーチバなどの収穫物。
種子取祭(タナドゥイ)の時期に宿泊客に振る舞われる菓子。イーヤチをアレンジした2種類。
オリジナル蒸留酒「KUNUSHINA」500mL1万3200円、100mL 3200円。

『星のや竹富島』では様々なアクティビティを用意しているが、地域との交流から生まれたものも多い。例えば藍染体験は、敷地内で種から育てた藍を使い、絞り染めを行なう。竹富島発祥の八重山ミンサー織は、藍をはじめ月桃やフクギなどの天然染料で糸を染める。その方法を染織に詳しい島民から習得したスタッフが、丁寧に教えてくれる。

ほかにも水牛車で島の集落を散策する水牛車散歩では、施設専用の水牛車で朝夕の静かな時間に三線と沖縄民謡を聞きながらのんびり体験。伝統の木造船サバニに乗って夕景の海へ漕ぎ出す夕暮れプライベートサバニや、島の唄い手と過ごすひとときなど、まさにウツグミの賜物。

施設で働くスタッフのうち20名が竹富島で暮らし、生活の中で島民との関係性が築けているからこそ、享受できる特別な体験だ。

施設内には心地よい南風が吹き抜ける48の客室のほか、おしゃべりの意味を冠するゆんたくラウンジ、24時間利用できる加温式の楕円形のプール、敷地内を一望できる見晴台などがある。ゆんたくラウンジで作りたての菓子や泡盛を味わったり、プールサイドで星空を眺めたりと、誰もが思い思いの島時間を過ごせる。

総支配人の磯部竜さんは施設について次のように話す。

「竹富島が故郷のように感じてくださるお客様やスタッフが増えたと感じていますし、島の方との密着度も増しています。できれば3泊以上で、この圧倒的な非日常の世界で何もしない贅沢な島時間を過ごしていただきたいですね。そのためにも、ここでしか愉しめない食のバリエーションや特別な体験をさらに増やしていきたいと考えています」

聞き慣れぬ鳥の声に目覚めた朝、小路を竹箒(たけぼうき)で掃き清めるスタッフの姿を見つけた。白砂の道は珊瑚のかけらが敷き詰められており、これは美観だけではなく夜道を明るくしハブを発見しやすくする効果がある。竹富島では海砂を道に撒くことを定めており、毎朝島民は道を掃除し、竹箒で掃き目をつけて客を出迎える。地元の習わしは日課として根付いている。ここはまさに竹富島第4の集落だ。

竹富島独自の伝統をつなぐ取り組み

『星のや竹富島』専用の水牛車で島内散策。水牛のピースケは3トンほどを引くことができる。3800円~。
毎朝スタッフの日課になっている施設内の道の清掃。竹箒で細かな掃き目をつけていく。

星のや竹富島

住所:沖縄県八重山郡竹富町竹富1955
電話:050・3134・8091(星のや総合予約)
客室数48。チェックイン15時、チェックアウト12時
料金:1泊14万7000円~(1室あたり、税・サービス料込、食事別)*通常予約は2泊より
交通:石垣港離島ターミナルよりフェリーで約15分、竹富東港より送迎有。
※6月1日~8月31日は、島民の生活に倣い、竹富島ならではの夏の過ごし方を体験できる「なちゆくい島時間」も実施(要予約)。

 

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