長野県にある大町温泉郷は北アルプスの麓に位置し、秘湯・葛温泉から引湯する温泉地。夏は立山黒部アルペンルートへの玄関口として賑わい、冬は白馬でのウインタースポーツの拠点になっている。JR大糸線信濃大町駅から車で約15分、『界 アルプス』で冬の魅力を満喫する。

うっすらと雪化粧する『界 アルプス』に到着。

『界 アルプス』は雁木(がんぎ)という雪国独特の雪除けのアーケードでフロント棟や客室棟、温泉棟などが結ばれている。棟に囲まれた中庭では、子どもたちが雪遊びに興じていた。

「建物は低層で威圧感がなく、門から続く一直線の道の奥には神社があり、とてもいいですね。屋根の氷柱も美しくて、九州人としては感動。雪映えする黒い建物が素敵」と、山脇さんもその佇まいが気に入ったようだ。

到着のおもてなしは、信州の味覚・おやき。振舞われる場所は、なんと本物の囲炉裏である。この施設の最大の目玉が囲炉裏のある土間で、ここを中心に様々な体験ができる。ウェルカムおやきと黒豆茶で山脇さんもほっこり。

囲炉裏主人の大仁田博文さんが振舞うおやきと黒豆茶。

片面だけ焼き目をつけたおやきは、外はパリッと、中はふんわり。旅の疲れが解れるようだ。「私は実際に使われている囲炉裏はほぼ初体験。寒いところの文化だと思うので、ここでも非日常感、旅の醍醐味を感じますね」(山脇さん)

囲炉裏の土間には、「南木曽ねこ」が用意されている。これは、信州の冬を乗り越えるための装いとして愛用される伝統工芸品で、背中を暖かくする防寒具。囲炉裏の火に当たっていると前は暖かいが、背中が寒くなるので理にかなっている。前身頃がないので作業がしやすく、着ていることを忘れてしまうほど。ねこと呼ばれるようになったのは「ねんねこ半纏」「作業している姿が猫背だから」など諸説ある。

カラフルな南木曽ねこが並ぶ。

「私は自宅では綿入れ半纏を愛用しているのですが、この南木曾ねこ、がツボでかなりほしかった! 上田紬のすばらしい手仕事で、豊かな民藝ですよね。(ということで、売店にあった上田紬で作られた眼鏡ケースを購入しました。使っていると、目で、手触りで幸せになります)」

雪景色に癒されるご当地部屋と露天風呂

客室は離れ、ロフト付き和室、内風呂付き和室など全4タイプ。滞在を通して地域の文化に触れる「ご当地部屋」で、伝統工芸の松崎和紙の行灯や切り絵作家・柳沢京子さんによるアートワーク、上田紬のベッドライナーなどがあり、素朴さと温かい雰囲気を作り出している。2部屋ある離れには薪ストーブがあり、自分で火をくべることができる。

ストーブの火、いつまでも見ていたくなりますね(山脇さん)

客室には柳沢京子さんの切り絵が楽しめる体験セットも用意(フロントで要予約)。「切り絵体験、集中できて楽しかったです。ひとり旅では、このような時間も大切ですね」(山脇さん)。完成した切り絵は額に入れて自宅に持ち帰ることができる。

客室で切り絵体験を楽しむ山脇さん。

部屋でひと落ち着きしたあとは、温泉で体を温めたい。入浴の前には、もうすっかりおなじみになった「温泉いろは」に参加。大町温泉郷の泉質は体への負担が少ない弱アルカリ性の単純温泉。入浴前にはりんごジュース、入浴後には蕎麦茶がおすすめとのこと。

「温泉いろは」では、県内の温泉情報も知ることができる。

大浴場には内風呂と露天風呂があり、やわらかい湯が満ちている。

「露天風呂がかなり気に入りました。雪を見ながら、ずっと入っていたくなります。贅沢!」と、温泉を絶賛する山脇さん。時折はらはらと雪が舞い、凛と張りつめた冷たい空気が心地良い。「温泉へ行くためには一度、外へ出なければいけないのですが、入浴後は体がぽかぽかで、雪の中を歩いて帰るというのも、初めての体験でした」(山脇さん)

雪見の露天風呂でのんびり。

さらなる田舎体験と雪鍋会席

囲炉裏のある土間では、冬のご当地楽(土地の伝統や文化に触れる体験)として、自分で焼いた餅と信州味噌を味わう田舎体験ができる(~2025年2月28日)。お餅のお供は、ちろりで温めた信州の地酒である。

「実はお餅は普段は苦手なのですが、ぺろりと。あの薄さが、食事前後にいただくのにちょうどいいと気づきました。『北アルプス』(福源酒造の地域限定酒)という日本酒のエチケットが洒落ていて。囲炉裏主人の大仁田さんにお聞きしたら工芸家の柚木沙弥郎さんによるものでした。やっぱりどこか違いますよね。囲炉裏を囲むしつらえにぴったりで印象的でした」と山脇さんも田舎体験を満喫した。

お餅は信州味噌で仕立てた葱味噌と胡麻胡桃味噌で。小谷漬けの漬物も。
「南木曽ねこ」を身に着けて、ご当地楽。

ほろ酔い気分で食事処へ。夕食は雪鍋会席である。信州サーモンとローストビーフの鳴門の先付から始まり、宝楽盛りには馬刺しやシナノユキマスのお造りなどが盛られ、膳を彩る。先付とともに供される生山葵が食事中何度も活躍するのも嬉しい。

先付は安曇野の山葵畑を思わせる。
長野の田園風景をイメージした宝楽盛り。

メインである台の物は、雪鍋。いったいどのような鍋?

「綿菓子にびっくり! 雪見仕立てのすき焼きはサプライズですね。味付けもちょうど良く、牛肉も美味しかった」と山脇さんも興奮する演出の雪鍋。鍋の上にふんわりと乗せた綿菓子に、割り下をかけると雪解けのように消えて、すき焼きが完成。温度卵とともにいただく。

雪鍋の登場。
割り下を注ぎ、雪解けへ。
「満足感が高い」と山脇さん。

ゆっくり休んだ翌朝、じつは早起きの贅沢が待っている。6時15分からは、スキーの動きを取り入れたアルプス体操でゆっくり体を目覚めさせる。

ストレッチや深呼吸を取り入れたアルプス体操。

体操のあとは、竈で炊いた「おめざがゆ」が用意されている。炊きあがる湯気の香りに、「早起きは三文の徳」を実感。お粥は地元の米ともち麦で、ほっこりする旨さである。

体操の後におめざがゆ。

朝食は、茸がたっぷり入った味噌汁や小鉢、焼き物など。もちろん、「おめざがゆ」とは別腹で、つやつやの白飯とともに味わう。

香り豊かな茸と鶏の味噌汁。

朝食後、中庭に出ると、また雪が舞っていた。

「雪のなかにすっぽり包まれた非日常感を、適度に都会で山奥でもなく、最寄り駅にも比較的近い場所で味わえるのが、ひとり旅にぴったりだと思いました」と山脇さん。その言葉通り、手軽な雪国体験と贅沢な田舎体験に包まれる宿である。

日本各地の魅力を発信する『界』という名の、非日常の別世界が体験できる温泉旅館。ふらりと大人のひとり旅で、自由で気ままな滞在を愉しんでみてはいかがだろう。

『界 アルプス』

長野県大町市平2884-26
電話:050-3134-8092
料金:2万8000円~

「界」には、それぞれのスタンプが用意され、「お湯印帳」に感想とともに記録ができる。

山脇りこさん
長崎生まれ。料理家・エッセイスト。「きょうの料理」(NHK)をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍中。『明日から料理上手』(小学館)のほか、台湾料理の本など台湾関連の著書も多い。旅のエッセイ『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)が12万部を越えるベストセラーに。

【今回のひとり旅ポイント】
夜、ひとりでお風呂からの帰り、しんしんと降る雪を見ながら、「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ」(三好達治の詩『雪』)と思わずつぶやきました。そんな世界観が、上手に取り入れられていて、都会から来る人にはほどよいのだよな、と。積もるほどの雪ではなかったのですが、とてもよかったし、積もれば“真っ白な世界”がまたいいでしょうね。そのころにまた行きたい。東京からなら2時間半で別世界です。ライブラリーで、コーヒーを飲みながら外を眺めてずっと話している友達同士とおぼしき女性二人がいて、ああ、女二人旅にもいいなと思いました。
いつも思うのですが、部屋着もしゃれているし、アメニティも充実しているので、荷物が最小で来られるのが『界』のよさです。とくにここでは宿から一歩も出ずに、部屋から、風呂から、あるいは庭で雪を見てずーーっと過ごせそうです。ひとりならお化粧もせず、お籠りして。

●「界」について

「界」は星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランドです。「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、季節の移ろいや和の趣き、伝統を活かしながら現代のニーズに合わせたおもてなしを追求しています。また、地域の伝統文化や工芸を体験する「ご当地楽(ごとうちがく)」、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」が特徴です。

 

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