あなたが「讃えたい」と思う人・モノ・コトを、「賞状」と「400文字以内のエピソード」で表現する「わたし大賞」。第1回の昨年は、初めての開催でありながら5,358作品もの応募があった。三井住友信託銀行が主催するこの賞は、前向きな気持ちになる作品が多いことでも知られている。ここでは、前回の大賞受賞作品と、選定委員の選評、そして応募方法を紹介する。
書いた人も読んだ人も心が温まり明るく前向きに
第2回「わたし大賞」では、あなたの心を動かし、讃えたいと思う人・モノ・コトを表現した作品を募集している。
さて、あなたが讃えたい存在はなんだろうか。家族、友人、同僚などの「人」、仕事道具や楽器などの「モノ」、気づきをもたらしてくれた「コト」……これまで生きてきた道を振り返れば、あなたには「讃えたい存在」が必ずいる。それはもうこの世になくてもいい、相手が誰かわからなくてもいい、大切なのは、あなたの心が動いた経験だ。ぜひそれを讃えてほしい。
あなたの気持ちと体験を文章にすれば、知らなかった自分の心に出会えるだろう。そして、あなたが書いた「賞状」と「400文字以内のエピソード」は、きっと多くの人が共感するはずだ。
そう、「わたし大賞」は、書いた人も読んだ人も、心が温まり明るく前向きな気持ちになるコンテストなのだ。今年も、「わたし大賞」は、多くの人と価値を共有する作品を募集している。
そこで、早速、第1回の「わたし大賞」大賞受賞3作品の一つを紹介する。作者は大阪府在住の宮本みづえさん(74歳)。宮本さんの作品を、選定委員である詩人・藤川幸之助さんが選評している。
大賞受賞作品と、詩人・藤川幸之助の選評を紹介
タイトル「78 歳のヒーロー賞」
作者:宮本みづえ(74歳)
【賞状】
【エピソード】
6 年生の夏に池で溺れた。苦しくて苦しくて途中からの記憶がない。
後日、私を助けてくれたのは同じ町の高校1年生の岩島茂久さんだと友達から聞いた。
その時親に話して岩島さんにお礼をするのが当たり前。叱られるのが怖かった私は溺れた事を秘密にした。岩島さんに出会った時はそっぽを向いた。
馬鹿な自分に悩みながら結婚し、馬鹿のまま2人の子供の親になった。あまりにも苦しく体が爆発しそうになり、岩島さんに会いに行った。私の郷里は石川県。岩島さんは能登半島で接骨の開業医になっていた。
お礼も言わずに逃げていた私を責める事もなく、当然の事をしただけ、と笑った。
私が常識のある子供だったら岩島さんは62年前に消防署から表彰されていたのだった。
今更だけど岩島茂久さんに賞を届けたい。
【選評 詩人・藤川幸之助さん『幸せを手にして味わう』】
隠し事のせいで、幸せを手にしてもその喜びを味わうことができなかった。「池に行ったことも、溺れたことも絶対に言えない家だったんです」と、宮本さん。 厳しい祖母と父だったようだ。もちろん岩島さんに命を助けられたことも隠し事になった。
「命を助けてもらった人にお礼も言わないで結婚して、子供2人の親になって。あの時死んでいたらこの幸せはなかったんだ。」と、宮本さんは自分が幸せを感じれば感じるだけ自分を責め続けた。
岩島さんに謝りに行ったのは宮本さんが30歳になる少し前。でも、緊張で思うように謝ることができず、帰ってから岩島さんに手紙を書いた。岩島さんから「全然気にしていないから」と返事がきたが、年賀状に「ごめんなさい。」と書いて毎年送った。
去年、「死ぬ前に一度会っておきたいから」と、岩島さんから連絡が入り、40数年ぶりに会いに行った。今度は言葉を尽くしてしっかり謝ることができた。別れ際、「もうこのことは忘れて、もっと前を見て生きてください」と岩島さんが言った。
取材の後に「岩島さんに助けてもらった命やから、これから自分の好きなように生きていきます。」と、宮本さんが笑顔で言った。 60数年間の自戒から解き放たれ、今ここに命があることの喜びを実感されているようにも見えた。 賞金の使い道を聞くと「好きなマスカットをたくさん買って食べます。」 と、宮本さん。幸せの甘い味を心置きなく味わっていただきたい。
「わたし大賞」は豪華な選定委員が応募作品を選考
「わたし大賞」は選定委員が応募作品を読み選評するところも魅力だ。前出の詩人・藤川幸之助さん、歌人・穂村弘さん、エッセイスト・大平一枝さんが、あなたの書いた文章を読んだ上で、丁寧に作品を論評する。このことに惹かれて応募する人も多いというのも納得だ。
各選定委員のプロフィールと、第1回「わたし大賞」選定後のコメントを紹介する。あなたが「わたし大賞」に応募する参考になるはずだ。
詩人・藤川幸之助さん
小学校の教師を経て、現在は認知症の母親の介護の経験をもとに、命や認知症を題材にした作品を作り続けている。また、認知症への理解を深めるため全国各地で講演活動を行い、詩の朗読を交えた講演は好評を博し講演回数は500回を超える。作品や活動は多くの新聞やNHKハートネットTVなどのメディアでも取り上げられている。
【藤川さんのコメント】
人生を振り返り、感謝し、讃えることは、他人を喜ばせることだとばかり思っていたが、実は「讃える」とは、今ここに命のあることの喜びを感じることだと思い至った。多くの素晴らしい作品に心より感謝したい。
歌人・穂村弘さん
1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。研ぎ澄まされた言語感覚で創作・評論ともに活躍。『短歌の友⼈』で第19回伊藤整文学賞、『楽しい一日』で第44回短歌研究賞、『鳥肌が』で 第33回講談社エッセイ賞受賞。最新歌集『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞を受賞。
【穂村さんのコメント】
「わたし大賞」がどんな相手に贈られるのか、楽しみにしていた。結果は予想以上だった。家族や友人から見知らぬ他人、ペットやモノ、さらには床についた傷にまで。ありがとうの気持ちは巡り巡って自分自身に返ってくるのかもしれない。不思議な幸福の実感として。
エッセイスト・大平一枝さん
編集プロダクションを経て、1994年独立。暮らしや日々を綴ったエッセイのほか、市井の生活者を独自の目線で描くルポルタージュコラムを執筆。『東京の台所』(朝日新聞デジタルマガジン&w)、『自分の味の見つけかた』(ウェブ平凡)、『サンデー毎日』など連載多数。
【大平さんのコメント】
くすりと笑ったり、ほろりとしたり楽しい選考だった。入賞の可否に関係なく、応募者がネット上で賞状のフォーマットに落とし込めるのも隠れた魅力。いいそびれた「ありがとう」がつまった、あたたかなコンテストだ。
あなたも「わたし大賞」に応募しよう
ここで、「わたし大賞」に綴るエピソードの書き方を、参考までに紹介する。まずは、これまでに「心が動いた」という題材探しから始めよう。
幸せだったこと、優しさに触れたこと、思いがけないところから差し伸べられた手、見ず知らずの人の温かさ、相棒のように寄り添ってくれた道具、勇気づけられた経験……人・モノ・コトにまつわるエピソードはたくさんあるはずだ。
文章に自信がなかったり、経験の輪郭や自分の心がはっきりしないと感じる人は、賞状から書き始めることをおすすめする。
賞状を書くことは、あまり機会がないことでもあり、やってみるとなかなか楽しいものだ。相手のいいところを探し、明文化していくことで、不思議と自分も元気になってくる。
賞状の文章をしたためるうちに、「讃えたい」と思うあなたの気持ちも、その時の体験も明確になってくるだろう。それをエピソードとして綴っていくのだ。
「わたし大賞」に応募することは、あなたの心の中にある宝物を、文章にするということでもある。そこで大切なのは、「上手に書こう」としないことだ。大切なのは、あなたの心の動きと、率直な気持ちだ。 まずはあなたが楽しみ、リラックスしながら、書いていこう。あなたの「心の財産」は、「わたし大賞」として世に出ることで、皆の共通の財産になる。それは、読んだ人の人生への讃歌となり、前向きな気持ちは、社会を明るく照らすはずなのだ。
「わたし大賞」の詳細について
早速、「わたし大賞」を綴ってみよう。
一般応募はスタートしたばかりだ。第1回の受賞作品や応募方法は、下記サイトでチェックしてみよう。
構成・文/前川亜紀