会社員の皆さんのほとんどは、雇用保険に加入していると思います。雇用保険とは、どのような制度かご存じでしょうか? 雇用保険制度は、労働者の生活と雇用の安定および就職の促進のための制度です。法の条文では失業した人や雇用の継続困難になった人、または教育訓練を受けた人に必要な給付を行なうとなっています。

実はこの雇用保険という制度は、働く人にとって大変役にたつ制度です。退職した場合の失業給付のほか、育児や介護で休業した場合、高齢で給与が下がった場合などに対応する給付もあります。今回は、雇用保険の加入条件について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
雇用保険の加入要件
加入に必要な書類とは?
加入手続きの注意点
まとめ

雇用保険の加入要件

雇用保険は、ほとんどの会社員が加入していると書きましたが、企業に勤めれば誰でも被保険者になれるわけではありません。少ない例ながら、就職した会社が適用事業所でない、というケースもありえます。原則として労働者を一人でも雇用している場合はすべて適用事業所になりますが、個人経営の農林水産業で従業員5人未満の場合は、適用が任意になります。

また、当然適用となるべき会社でも、経営者が雇用保険の適用の手続きをしていない場合もありますので、就職する際はその点に注意しましょう。基本的に、従業員のいる一般的な会社なら適用事業所となっていますから、加入できるかどうかは働く条件次第ということになります。

1週間の労働時間が20時間未満である人、同じ会社に31日以上継続して雇用されることが見込まれない人は、被保険者にはなりません。法人の役員や家事使用人、経営者と同居している親族、昼間学生(卒業見込みの者や休学中の者を除く)も被保険者から除かれます。逆に言うとそれ以外の人は、パート・アルバイトの人を含め、みな加入義務があるということです。

また、役員などでも加入できる場合もあります。法人の役員であっても従業員としての身分も有している人、学生であっても在職したまま大学院に通っているなど、実状に応じて加入が認められることもあります。判断が難しい場合は、ハローワークに確認すると良いでしょう。

なお、65歳以上の加入者は高年齢被保険者、それ以外の人は一般被保険者となりますが、加入条件の違いはありません。それ以外にも、季節的に雇用される短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者があります。しかし、一般の企業で働く人は、多くが一般被保険者か高年齢被保険者のどちらかであると言えるでしょう。

加入に必要な書類とは?

会社に就職したら入社手続きがありますが、雇用保険の加入手続きもその中で行なわれます。資格取得のための申請書類やタイムカード、賃金台帳などの書類は会社で用意しますので、雇用された側は、必要な書類を会社の担当者に提出します。

以前に別の会社で働いていたことのある人は、雇用保険被保険者証の提出を求められることもあります。なぜなら、被保険者番号は、転職したとしても同じ番号を使うからです。被保険者証を紛失してしまった場合は、履歴書など、前職の会社がわかるものを提出しましょう。取得にはマイナンバーも必要になります。なかには、2つ以上の会社に勤務している人がいるかもしれません。

この場合、会社が副業を認めていたとしても、2つの会社で雇用保険に加入することはできません。ただし、一つだけ特別な例として、2022年より導入された「マルチジョブホルダー制度」があります。この制度により、複数の事業所で勤務する65歳以上の人は、2つの事業所の労働時間を合計して適用条件を満たせば、雇用保険に加入できるようになりました。

このような例を除けば、生計を維持するための主たる賃金をもらう会社1社のみで、雇用保険の被保険者となります。したがって、加入条件の判断もその1社の労働条件で判断することになります。なお、資格取得届の提出期限は、雇用した月の翌月10日までです。手続が遅延した場合は、理由書の提出を求められることもありますので、会社の担当者は手続きを忘れることのないよう注意しましょう。

加入手続きの注意点

会社に就職して雇用保険の手続きをする際には、注意しなければならない点があります。前の会社を退職して間をおかずに次の会社に入社した時は、まだ以前の会社で退職手続きが完了していないことがあります。

前の会社に在職したままでは、次の会社での資格取得手続はできません。以前の会社で離職手続きが完了するまで、加入は保留になります。このような事態を避けるためには、退職した会社には速やかに手続きをしてもらうようお願いしておくと良いでしょう。

前の会社は無断欠勤してそのまま、などという辞め方をしてしまうと、いつまでも処分保留のままになってしまうこともあります。会社を辞める時には、その後のことも考えてきちんとした手順を踏んで退職することが大切です。

それから、失業手当を受給している人が、ハローワークなどの紹介で就職した場合、あるいは事業を開始した場合、再就職手当をもらえることがあります。これは失業手当の支給残日数が3分の1以上あるなど、細かな条件がありますので、ハローワークに確認してください。

もし、受給対象者だった場合、新しい勤め先に記入してもらう書類がありますので、注意が必要です。また、新たに就職した会社を退職するということもあるかもしれません。以前の会社を退職してから、次の会社に就職するまでの期間が1年以内の場合、被保険者期間は通算されます。

ただし、前職の離職の際、失業給付等を受けていないことが条件です。被保険者の期間によって、失業給付を受給できる日数が変わりますので、これも知っておくと良いとでしょう。

まとめ

雇用保険は、健康保険や年金などと比べて被保険者になる条件が広いため、パート・アルバイトの人を含め、多くの人が加入対象者になります。今後加入条件はさらに緩和される動きもあります。雇用保険は、働く人の生活の安定のために重要な制度です。会社の担当者のみならず雇用される側も、雇用保険の加入についてしっかりと確認しておきましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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