「60歳になったら、人生をリセットする」という考え方が流行っている。この目的は、「元気なうちに、身軽になり、余計なしがらみに時間とお金を使わない」ことだという。身軽になるために捨てるものとしては、冠婚葬祭、親戚づきあい、墓参りの習慣、すすまない友達との社交、年賀状、お中元やお歳暮の習慣などだ。

この「リセット」の方法を、タレントやエッセイストなどの著名人が紹介し、「一人で生きる」「孤独のすすめ」といった内容の本がベストセラーの棚に目立つようになった。

祐子さん(62歳)は、「私、そういう“捨てる”系の本に踊らされて、今けっこうさみしいです」と語る。30年来のママ友・美和さんを「不要な人間関係」と切ってしまったことで、心に空洞を抱えているという。

持ち寄りのご飯会がうっとうしかった

祐子さんは東京都心の裕福な会社員家庭で生まれ育つ。父は商社に勤務しており、幼い頃はドイツのデュッセルドルフに住んでいたこともあるという。

「とはいえ、ウチはお金持ちではありません。専業主婦をしていた母は、節約もあったのか、よくお菓子を作ってくれていました。パイナップル缶のパインや、チェリーなどを飾ったパウンドケーキが好きだったな」

都心の有名な女子大を卒業し、大手建築会社に勤務する。そして、24歳の時に夫(当時27歳)と職場結婚する。

「パパちゃん(夫)は、ホントに優しくて、プロポーズの時に“ゆっこちゃんの欲しいものは、なんでも買ってあげる”って。その約束通り、私が望むことは何でも助けてくれましたし、娘2人にもとても優しくて、今も家族は仲良しなんです」

のんびりしている祐子さんは、学生時代や社会人になっても親友と呼べる人はいなかった。それがコンプレックスだったという。

「お酒も飲まないし、夜遊びしていても眠くなっちゃうし、一緒に遊びに行かないと疎遠になってしまうもの。最近、お別れして寂しくなったのは、美和さん(62歳)たち。お姉ちゃん(娘・37歳)の幼稚園で知り合って、それから30年近くずっと一緒だったのよ」

結婚した当時、夫は「家を買わねば男じゃない」と、東京と埼玉の県境の下町に一戸建てを購入した。周囲は人間関係に垣根を置かない人が多く、新鮮だったという。

「行事やPTAに誘ってくれるのも嬉しかったし、カラオケとかスナック遊びなんてしたことなかったけど、美和さんたちが誘ってくれたの」

近所に住んでいて、子供たちも顔見知りだ。人間関係は自然と密になる。子供が独立して時間ができるようになると、ママ友同士、どこかの家で持ち寄ってご飯を食べるなどもしていたという。

「それがほぼ毎週でしょ。みんなヒマなのよ。誰かの家で集まって、近所の人のうわさ話をするの。例えば、知っている男の子があそこの会社に入っただの、離婚しただの、あそこの娘さんは出戻りになって借金があるなど、ホントによく知っているの。私はそういう話に一切興味がないから、苦痛だったのよね」

LINEグループを作った3年前からは、スマホの通知が鳴りやまなくなった。特売情報から噂話、ドラマの感想、芸能人の不倫などの話題がLINEを行き交い、朝目覚めるとアプリのアイコンに「500」という数がついていたという。

「美和さんを中心とした5人グループなんだけど、500は異常でしょ。それが毎日続いていたのよ」

【娘にまで話題が及び、抜けようと決心した……次のページに続きます】

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