「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。

文/永拓実

立場を脱ぎ捨て、やりたいことを追求する

フリーアナウンサーの久米宏さんから伺った話です。今では久米さんの名前を知らない人はいませんが、そのキャリアの始まりは「順風満帆」とは程遠いものでした。

大学卒業後TBSに入社するも結核を患い休養。復帰してからも同期の中で自分だけ仕事がなく、雑用をこなす日々。家族からは「転職しな」としつこく言われ続けたそうです。

そんなとき、祖父のラジオ番組『土曜ワイドラジオTOKYO』(後の『土曜ワイドラジオTOKYO 永六輔その新世界』)に関わることになり、「この仕事だけやったら辞める」と家族を説得しました。

その番組も雑用係から始まりましたが、半年が経った頃、出演者としての仕事をもらえるようになりました。スタジオの外に行って、自分の好きなものを一つ選んで中継する、というコーナーです。

しかし、自分なりに考えて中継に臨むものの、スタジオにいる祖父はなかなか褒めてくれない。聴いていて面白くないと容赦なく中継を打ち切る。

それでも「どうやったら永さんが喜ぶか」を必死に考え、試行錯誤を続けた。そんな日々の中で久米さんは、祖父からあるメッセージを受け取ったそうです。

“もっと自由になれよ”

いつも怒られてばかりだが、船から海に飛び込んだり、一本の電柱に感情移入してその電柱の半生を語ったり、「アナウンサーらしからぬ」レポートをしたときだけ、永六輔の笑い声を聞くことができた。

祖父との仕事を通して、アナウンサー、レポーターといったあらゆる立場から自由な「人間としての久米宏」が、確立されたそうです。久米さんはこう話します。

「立場を捨て、久米宏という一人の人間が面白いと思うことを、純粋に追求する。あの番組から話題になって、『ザ・ベストテン』『ニュースステーション』と大人気番組に抜擢してもらえるようになったけど、どの仕事でも僕の根底には、永さんから学んだ“自由”があった」

生きていれば、「立場」を持つことは避けられません。

まだ職業を持たない僕ですら、男、日本人、大学生、永六輔の孫、といった立場はいくつか持っています。

しかしそれらを脱ぎ捨て、一人の人間としてやりたいことを純粋に追求する。そのためには自分の立場らしからぬことも思い切ってやる。それができたとき、いかなる立場でも力を発揮する柔軟性が手に入るのだと思います。

永六輔の今を生きる言葉

立場を大胆に捨て、面白いことを純粋に追求しよう

* * *

永六輔さんの7回忌の節目に、永さんの背中を追い続けてきたさだまさしさんと永拓実さんが『永六輔 大遺言』を刊行する。

『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実・著)
小学館 
2022年7月6日発売

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さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。

永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。

 

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