下鴨神社の馬場も緑に満ち溢れます。

目まぐるしく変わる社会情勢、忙しなく仕事や行事に追われる毎日、気づけばあっという間に一年が過ぎ去ってしまいます。そんな生活の中で、季節を感じ楽しむ時間は「一瞬のこと」のように思われます。

皆さんは、日々の生活の中で季節を楽しむ時間を、どれだけ持てているでしょうか? 季節の移ろいを感じる時間を持てているかどうかは、「心の余裕」「心の健康」を測るバロメーターにもなるように思いますが、いかがでしょう。

日本では『改暦の詔書』が発せられた1872年までは、千年以上に渡って「太陰太陽暦(以下:旧暦)」が用いられていました。旧暦においては、一年を二十四の季節に区分し、さらに、その季節区分を七十二もの気候変化で表していました。つまり、日本人は5日ごとに細やかな季節変化を意識しながら、日々の生活を送っていたことを物語っております。

「二十四節気入門」を通して、「季節を楽しむ時間」を持つ機会とし、「心の余裕」と「心の健康」のサプリメントにしていただきたいと存じます。

さて、今回は、旧暦の第8番目の節気「小満」(しょうまん)について、下鴨神社京都学問所研究員である 新木直安氏に紐解いていただきました。

目次
小満の意味や由来とは?
小満の季節の特徴と行事
小満の季節の花
小満に旬を迎える食べ物
まとめ

小満の意味や由来とは?

「小満」は、「草木が茂って天地に満ち始める」という意味が込められた、5月半ばから始まる二十四節気の一つです。二十四節気は日付固定ではないため、毎年変動します。2022年の小満は5月21日です。また、その日から次の二十四節気である「芒種」(ぼうしゅ)にあたる6月6日までの15日間を指して、「小満」と呼ぶこともあります。

麦の穂が育ち、山野の草木が実をつけ始める小満の時期は、過ごしやすい気候で行楽シーズンにあたります。梅雨入り前の陽気な日に自然豊かなところへ出かけて、草木や植物の成長を感じてみるのも面白いでしょう。

また、小満の意味である「草木の成長し、天地に満ち始める」というのは、春から夏に代わり、植物にも成長する力が満ち溢れ、草木に枝葉が茂ることを表しています。では、そうした自然の様子がどうして「小満」と表現されるのでしょうか?

それは、この時期になると秋に蒔いた麦などの穂が実りを見せ、農家が一安心できる、ということに由来しています。麦が無事実ったことを確認してほっとする、つまり、「小さく満足する」ことから「小満」と呼ぶようになったそうです。

小満の季節の特徴と行事

5月半ばに当たる小満の時期は、気候も落ち着いて過ごしやすい時期です。ただし、西日本では「走り梅雨」となり、雨が降ることも。走り梅雨は「梅雨の走り」とも言い、本格的な梅雨を目前にしながら、先走るようにぐずつく天候のことを指します。通常はこの後晴れた日が続き、その後が梅雨入りです。

また、この時期に降る雨は、麦が熟す頃に降る雨という意で「麦雨(ばくう)」と呼ばれています。旧暦の5月に当たるため、この雨を「五月雨(さみだれ)」と言い換えることもできます。

小満の行事としては「衣替え」が挙げられます。現在では一般的に、6月1日が衣替えの日として定められています。軽やかな夏服に代わると、一気に季節が変わったような気分になるものです。

小満の季節の花

小満の訪れを感じさせてくれる花をいくつかご紹介しましょう。

杜若(かきつばた)

杜若は、小満の季節に深い青紫の花を咲かせます。日本に自生する花で、万葉集などでも歌われ、古くから親しまれてきました。水辺に咲くその様子から、風情が感じられます。気品ある花が特徴で、江戸時代には園芸用として品種改良も進められ、より一般的になりました。

鈴蘭は、直径1センチに満たない小さな花を咲かせる植物です。その花の形が鈴に似ていることから「鈴蘭」の名前がつきました。漢字で書くと鈴“蘭”ですが、属性としてはラン科ではなくキジカクシ科。なお、全草に毒を持ち、特に花と根に多く含まれるので、取り扱いには注意が必要です。

小満に旬を迎える食べ物

小満の時期に旬を迎える野菜、魚、京菓子をご紹介します。

京菓子

唐衣(からころも)

日本人の特性の一つとして「繊細な美意識」が挙げられます。それは「日本料理」などの日本の食文化にも色濃く表れております。季節ごとの作物を美しく調理して、季節の移ろいを楽しみながら、自然の恵に感謝をする−その心は、花や果物、動物などを模して甘味として楽しむ「京菓子」へも映し出されております。

そうした「京菓子の心」と「小満」の時期に出される京菓子について、下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に詳しいお話をお聞きしました。「小満の時期は、『唐衣』という杜若の形を模した生菓子を提供します。『唐衣』という名称は、在原業平が杜若を見て詠んだ歌『唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ』が由来です。

京菓子は一見すると、何を表しているかわからない菓子が多々あります。この『唐衣』もそうかもしれません。そうする理由としては、お茶会を催す亭主とお客様との会話のきっかけにしていただきたいからです。『そろそろ、太田神社の杜若が見頃ですね』というように、京菓子を通してコミュニケーションをとっていただけたら、職人冥利につきますね」と古田氏。

社長の古田泰久氏。「茶寮宝泉」の入り口にて。

『唐衣』は、餅粉と砂糖を蒸したお餅の生地を染色して、餡玉をたたみながら折り込んでいく“ういろう”というお菓子になります。杜若を奥ゆかしく表現する、京都らしいお菓子と言えるかもしれません。

野菜

旬を迎える野菜は、らっきょうです。特有の香りと辛さ、そしてパリッとした食感が持ち味のらっきょうは、甘酢漬けやしょうゆ漬けなどにするとおいしく楽しめます。若摘みしたものは“エシャロット”と呼ばれ、食欲増進効果があるとされています。

旬を迎える魚は、アジです。初夏の潮風とともに脂が乗って、おいしくなります。高タンパク、低脂肪で代謝をよくするビタミンB群も豊富の食材。全体的に丸みのあるもの、表面の輝いているものが新鮮だとされています。

まとめ

成長する草木でいっぱいになり、その生命力を感じさせてくれる「小満」。そんな時期には植物と同様、太陽の光をたっぷりと浴びて、日々の活力としたいものです。また、6月1日には衣替えがあります。本格的な夏の訪れに備えて、少しずつ準備を進めてみてはいかがでしょうか。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/豊田莉子(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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