コロナ禍の巣ごもり生活で、食べ過ぎ・飲みすぎ、運動不足がたたり、体重が増えたという嘆きが聞かれるようになりました。肥満は生活習慣病を引き起こす原因となり、年齢を重ねるごとに病気によるリスクが高まっていきます。最近、患者数が急増している「逆流性食道炎」も、肥満が発症の要因といわれる病気の一つです。胃酸が食道に逆戻りすることで胸やけや、酸っぱいものがこみあげてくる呑酸が典型的な症状であり、病気が進行すると、不眠や激しい咳などがあらわれ、生活そのものに支障をきたすこともあります。 逆流性食道炎にかかる仕組みや原因、どうすれば予防でき、どんな治療法があるかを、消化器内科の専門医である京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長の内藤裕二先生に、4回に分けてお話をお聞きします。3回目は「 逆流性食道炎を引き起こす原因 」について。
胃にダメージを与える7つの要因
逆流性食道炎を治すには、薬だけに依存するのではなく、生活習慣の改善が第一です。体にとって健全なくらしは予防効果も期待できます。内藤先生は改善すべき7つのポイントがあると話します。
「肥満、喫煙、遅い夕食、就寝時の頭が低い姿勢、コーヒーや炭酸飲料・お茶の大量摂取、運動不足、そしてBMIが19~25以外であることが挙げられます。BMIは、体重と身長から算出される肥満と低体重を表す体格指数で、一般的にBMIが26以上の肥満体だけがリスクと考えられがちですが、下部食道括約筋の筋力が落ちているBMI18以下の痩せ過ぎの方も用心をしてください。この7つの中に、当てはまる項目が多いほど、逆流性食道炎リスクが高くなっていきます」
まずは喫煙をやめ肥満を解消する
7つの要因の中で、まず改めるべきポイントが喫煙習慣です。禁煙治療を受けた人を1年後に調査したところ、禁煙に成功した人の4割は逆流の症状が改善したという報告もあります。
「喫煙は体にとって何一つプラスに働くことはありません。新型コロナでも喫煙者は感染すると重症化しやすいといわれていますが、同時に感染リスクも非喫煙者より高いといえるでしょう。逆流性食道炎に限らず、食道がん、肺がんなど多くの病気のリスクを高めますから、タバコをスパっとやめることは、様々な病気から身を守る最大の予防にもつながります」
喫煙同様、逆流性食道炎の大きな予防法となるのが肥満の解消です。おなかに脂肪がたまると、腹圧が高くなり胃を圧迫するため、胃酸の逆流が起こりやすくなります。また、肥満の人は、食後に食道と胃の境目の部分が緩みやすくなるため、食べ過ぎたり、飲み過ぎたりした後に、胃酸が逆流する可能性が高まっていくといわれます。
「肥満の自覚がある人は、健診結果に危機感を覚えたり、家族の声に耳を傾け、一度や二度は減量を試みているはずです。きっと10kg減量の目標をたてても長続きしないでしょうから、まずは3kg痩せることをゴールに体重を減らしていきましょう。運動不足の人は、エネルギー消費が少なく、余分なエネルギーが体脂肪として蓄積されるため、意識的に体を動かすことを心掛けてください。40~60代は総じてカロリーオーバーですから、夕食を早く済ませ食後に食べない、これはぜひ実行していただきたいですね。食べたものを消化している間は胃酸が活発に分泌されるため、食後にすぐ横になると胃酸が逆流しやすくなってしまいます。特に夜間に胸やけなどの症状が出やすい人は、就寝の3時間前までに夕食を終わらせることを守ってください」
就寝の姿勢も密接な関係が
7つの中では聞きなれないのが就寝時の頭が低い姿勢です。症状が重い人は、就寝中にも胃酸の逆流が起こりますから、頭側を少し高くして、上体をやや起こした姿勢で寝ることが推奨されています。 「枕を高くすると頭だけがアップし上体はフラットなままになってしまうので注意をしてください。敷布団やマットレスの頭側に座布団などを挟み、上体が上がるように調整するといいですね」
平面でないと熟睡できないという方は、左側を下にした横向きの姿勢でもかまいません。胃は体の左側に膨らんでいるので、左側を下にした方が胃液をためやすく、逆流しにくくなります。腹部を強く締めつけると腹圧が上がり、逆流を促すので、胸やけや呑酸の症状が出たら、腹部を圧迫するベルトは避けることも予防になります。
【次回】 食生活を見直すことが予防と治療になる !に続きます
お話を伺ったのは……
内藤裕二 先生
京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長
1983年に京都府立医科大学卒業後、附属病院研修医(第1内科学教室)を経て、2001年に米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、2005年に独立行政法人科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2009年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授を歴任。20015年より京都府立医科大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長を務める。腸内フローラやピロリ菌をテーマにした書籍も数多く上梓している。
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘