文/一乗谷かおり
災害時、どう愛猫を守るか
昨年7月の西日本豪雨の際にはインターネット上にペットの同伴が可能な避難所情報がいち早く掲載され、動物家族に対する意識の高まりを象徴する事象だと関係者の間で話題になりました。一方で、動物家族がいる人は、日ごろから備えをし、災害時にどう行動すべきか考えておかなければならないと、改めて考えさせられたといいます。
災害時に猫を飼う人がとるべき行動について、動物行動学が専門の獣医師で、災害動物医療研究会のメンバーでもある入交眞巳先生からアドバイスをもらいました。
愛猫がどこに隠れる習慣があるかチェック
入交先生は、危険に接した際、自分の愛猫がどこに隠れる習慣があるのか、日ごろからチェックしておくことが大事だといいます。
「災害時に自分の愛猫さんの姿が見えなくて慌てて大声で探し回ったりして、余計に愛猫さんをびっくりさせてしまうことは避けたいところです」
先生の愛猫カイくんは、テレビの裏を隠れ場所にしているそうです。筆者の愛猫の場合は、インターフォンが鳴るだけで押入れにダッシュ。東日本大震災の際にも、押入れの中に隠れていました。災害時に自分の愛猫の姿が見えないと思ったらまずは猫自身が決めている隠れ場所にいることを確認して、優しく声かけをしてあげるといいと、入交先生。
「災害が発生した直後、おうちの中がとりあえず一番安全であると判断できるようなら、無理に愛猫さんを隠れ場所から引っ張り出さず、そのままそっとしておく方がいい場合もあります。落ち着いたら、おやつをあげて、大丈夫だよと声をかけて安心させてあげるといいですね」
普段から愛猫を落ち着かせる優しい声がけを
ポイントは、普段と同じような声かけ。飼い主さんが普段と違った行動をしている、飼い主さんも怯えてパニックになっていると思われると、猫は余計に怯えてしまいます。「この人がいれば安心」「自分を助けてくれる存在」と思ってもらえるよう、平常時から優しい声かけをして覚えてもらうのが良さそうです。
避難所にも収容可能数の限度があるため、安全が確保できるのであれば、一時的であっても猫はそのままにしておいた方が、むしろ怯えている猫自身のためにもいいことも。安全と思って隠れているのに、無理やり引っ張り出されれば恐怖心が増してしまいます。
避難所に向かう時にはわかる場所に貼り紙を
人間のみとりあえず避難所に向かうのであれば、玄関やわかる場所に「猫が2匹います」などと貼り紙をしておくと、公務員など見回りの方々がフードを入れてくれたりするそうです。そうした貼り紙がないと、何日もごはんがなく、見捨てられた状態になってしまう恐れがあります。
愛猫をキャリーバッグに慣らすコツ
「愛猫さんも一緒にただちに避難が必要な状況であれば、そっとキャリーバッグや持ち運びできるケージに入れますが、飼い主さんが慌てて愛猫さんを捕まえようと追いかけ回さない方がいいです。逃げようとしているのに抱っこしようとすれば、思うように動きがとれないことに恐怖を感じていっそう怯えさせてしまいます。愛猫さんがパニックを起こして、ひっかかれて怪我をする恐れもありますし、日ごろからキャリーバッグなどにすんなり入ってもらう練習をしておきましょう」
キャリーバッグを見るだけで「病院だ!」と思って逃げてしまう猫もいるかもしれません(筆者の愛猫がそう)。「キャリーバッグ=嫌なもの」と思われないように、キャリーバッグの中におやつを入れておいたりして、「キャリーバッグに入るといいことがある」と学習させておくのがいいと、入交先生。日ごろから「おいで」と呼べば来るよう、おやつを使って練習しておくことも大事だそうです。
首元へのマイクロチップ導入が効果的
隠れ場所を確認しておくこと、呼べば来る練習をしておくこと、キャリーバッグにすんなり入ってもらう練習をしておくこと以外に、首の付け根にマイクロチップを入れておくことも入交先生は推奨。
「迷子の時に見つけてもらえるよう、首輪に名前や連絡先を書いておくといいですが、金網などに首輪がひっかかって首が閉まったり怪我をしたりする危険もあります。最近の首輪は安全のため負荷がかかると外れるようになっているものもありますが、それだと首輪自体がなくなって意味をなさなくなってしまいます。情報を入れたマイクロチップを埋め込んでおくと、保護された時に飼い主さんにより早く連絡できます」
マイクロチップの性能も飛躍的に良くなってきているそうで、以前と違って違った機種であっても読み取りが可能になっています。災害時でなくても猫が脱走してしまったりして行方不明になった時に有効なので、導入した方が良さそうです。
避難時に気を付けること
実際に避難所に移動する場合にも、様々な注意が必要です。避難ルートなどは平常時から確認しておきましょう。移動の際には、キャリーバックやケージに入れ、扉が開かないようにガムテープなどで周囲をしっかり固定。避難所での受け入れにはキャリーバッグなどに入っていることが前提となります。逃げる際に壊れないようなハードなもので、安易に持ち運びができて、安全なものを選ぶこと。
避難所によっては動物同伴可能であったり、動物の預かりをしてくれたりします。動物が苦手な人やアレルギーのある人もいる場合がある上、収容数に限りがあるので、災害時の無用なトラブル回避のためにも、各所で定められたルールを守って利用しましょう。
また、飼い主さん自身が公務員であったり、医者や看護師など医療従事者であったり、電気、水道、ガスなどのライフライン、消防関連の仕事に従事しているのであれば、災害時には救助や復旧活動などのため長期間自宅に帰ることができないこともあります。事前に身内や知り合いに、災害時に自分の動物家族に関してどうしてもらいたいか話し合い、助けてくれるようお願いしておくことと良いそうです。
「災害時には、自助が前提となります」そう入交先生がいうように、まずは自分で自分のことをする。「自分」の中に動物家族が含まれているのであれば、事前に準備をしておき、災害発生時、発生後もできる限り自分で努力することが大切です。
人間ひとりでも避難は大変ですが、多頭飼育をしている飼い主さんの場合は特に、災害時にどうしたらいいのか事前に考えておかなければならないですね。
●入交眞巳さん
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。北里大学獣医学部講師、日本獣医生命科学大学獣医学部講師を経て、現在は日本ヒルズ・コルゲート株式会社獣医学術部動物行動学専門医として活躍している。近著に『猫が幸せならばそれでいい』(小学館)がある。
『猫が幸せならばそれでいい』
猫好き獣医さんが猫目線で考えた「愛猫バイブル」
入交眞巳著 小学館刊
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文/一乗谷かおり
写真/わさびちゃんち提供