好きな人間に対してする挨拶の一環としてすりすりする
立てたしっぽをゆらゆらと揺らしながら近づいてきたと思ったら、足元にすりっと顔や体、しっぽをすりつけてくる――猫を飼っていると、日常的によくある光景ではないでしょうか。猫もなんだか気分がよさそうだし、すりすりされると飼い主さんもなんとなく嬉しい気分になるものです。
動物行動学者で自身も愛猫と暮らす入交眞巳先生によると、猫のすりすり行動は、猫流の挨拶の一種。専門用語では「アローラブ(allorub)」というそうです。
「仲良しの猫同士の挨拶は、遠くから、やあ! という感じで尻尾をぴんと立てて近寄ってきて、体を互いにすり寄せ合いながらすれ違い、互いの尻尾を絡ませ合ったりします。人間に対しても同様で、好きな人間に対してする挨拶の一環としてすりすりするようです」
入交先生いわく、すりすり行動には色々なパターンがあるそうです。
「顔をこすりつけてすりする場合、猫は自分の匂いを物や相手にこすりつけています」
猫の顔の髭の生えているぷっくりとした部分をウィスカーパッドといいます。顔ですりすりする場合は、そこから分泌されるフェイシャルフェロモンも併せてなすりつけているのだとか。
「フェイシャルフェロモンは自分自身が安心、納得するためにこすりつけているようです。ここは自分の居場所、と猫が自分自身に言い聞かせて安心しているのかもしれないですね」
帰宅した際など、愛猫さんが顔をすりすりしてくることがありますよね。お風呂上りにされると、足にべったり愛猫さんの毛がついちゃう、なんてことも。飼い主さんは動いて場所を移動してしまうので、固定の場所にすりすりするのとは事情がちょっと違うのかもしれません。おそらく、「待ってたよ!」という感じなのかもしれませんね。
猫が物に対してすりすりするときはマーキングで、「安心な場所」と自分で印をつけている感じでしょうか。それに対して人や他の猫に対してすりすりするときは、あいさつと考えた方がよさそうです。
愛猫さんにすりすりっとされると、嬉しくなってつい、すりすり返しをしたくなってしまいませんか。筆者の愛猫は、すりすり返しをされると、ちょっと迷惑そうにしていますが。猫流挨拶、上手にマスターしたいものです。
こうした猫の習性を利用した商品もあります。引っ越した先に早く猫が慣れるように家のあちこちにスプレーし、猫にしかかぐことのできない猫の臭いをつけることで、猫に安心感を与えるものです。
ただ、その商品の出す臭いと自分の飼い猫のフェイシャルフェロモンの臭いが必ずしも一致するわけではありません。スプレーをした場所に「これ、僕の臭いじゃないみたい!」とでもいわんばかりに、わざとおしっこをスプレーしてしまう猫もいると聞きます。それぞれの猫さんによって感じ方が違うから、難しいところですね。
●入交眞巳さん
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒業後、都内の動物病院にて勤務後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。北里大学獣医学部講師、日本獣医生命科学大学獣医学部講師を経て、どうぶつの総合病院・行動診療科主任、日本ヒルズ・コルゲート株式会社の学術アドバイザーを務める。現在も全国の獣医大学にて非常勤として教鞭をとっている。平成31年2月8日『猫が幸せならばそれでいい』(小学館)発売。
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猫好き獣医さんが猫目線で考えた「愛猫バイブル」
入交眞巳著 小学館刊
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写真/わさびちゃんち提供