定年の心のスキマにつけ込まれた
彼に対し、恋心はあったが、下心はなくソウルメイト(魂の友人)だと思っていたという。
「3年経った今考えると、どこからどう見ても国際ロマンス詐欺なんだけれど、当時は定年直前でメンタルがおかしくなっていた。会社という心の大黒柱がなくなる前の不安定さがあったから、彼を信じたかったのだと思う。
その後、カメラが壊れたとか、ママが病気になったとかで国際送金をして、気がつけば300万円も振り込んでいましたからね。ある日、国際ロマンス詐欺の報道を見て、『私もそうかもしれない』と思い、『あなたは詐欺師なんでしょ』と送ったらブロックされたので、ああ、騙されてしまったと」
定年と300万円の詐欺被害が重なり、気持ちは壊滅的に落ち込んだという。
「警察に相談に行きましたが、『お金を取り戻すのは難しい』と言われました。定年の日も、騙されたショックで気もそぞろ。詐欺のことが頭に引っかかって、あっさりと『ありがとうございました』と会社を去ることができたのはとても良かったと思います。
私はええかっこしいなので、未練があると後輩たちに思われるのがすごく嫌! 今思えば300万円で定年のショックを緩和できたので、高い買い物ですが良かったのかもしれません」
定年後は、長年の疲れが一気に出て、1か月ほど、引きこもりのような生活をしていたという。
「定年を迎えると、仕事“だけ”のつながりは消える。趣味でもなんでもいいから、リアルな人のつながりの中に入らなければと、SNSで見つけた雰囲気がいい写真サークルにも入り、月1回の撮影会には、必ず参加しています。
いろんな年代の人がいて、何回か通ううちに仲良くなってくるんです。この『同じ人と会う』というのがとても大切。リーダー格の人に『この集まりを主催してくれてありがとう』という気持ちを持ちつつ、『誰かの役に立ちたい』と思いながら人と接していると、必ず道は開ける。心からそう思います」
それは、この4月から、写真サークルのメンバーの紹介で、私立幼稚園で働いているからだ。
「写真サークルの女性メンバーに『定年で暇なの』と、かつての仕事内容をかいつまんで話したら、彼女の知り合いに幼稚園経営者がおり、離職率が激しくて悩んでいるというんです。『マネジメントの問題かもよ』とサラッと話したら、私のことが経営者に伝わって、『一度お話ししたい』と連絡が来ました。話を聞きに行ったら、改善の余地があることがわかって。その園は評価制度も当時いい加減で、マニュアルもなかったんです。教諭が持ち帰って自宅ですべき仕事も多く『これでは人は辞めるな』と。改善点を洗い出したら、『すぐに来てください』ということになったのです」
最初はアルバイトで、4月からは契約職員として週3で勤務することに。
「うちから片道1時間半なので、それが精一杯。本当は週1くらいがいいのだけれど、詐欺の300万を取り戻したい欲があるから頑張っちゃう(笑)。実際、行ってみると多くの問題があることがわかりました。25人いる教諭や職員と面接し、それぞれの意見を聞いて、チーム作りに活かす。3年ぶりでしたが、昔とった杵柄は健在でした」
真由さんが保護者のクレーム対応も行い、園はいい方向に変わってきているという。
「子供たちがいる空間って、すごく気持ちが前向きになるんです。それまで子供が好きではなく、避けていたのですが、定年後に子供に関わるのはいいものだなと。とりあえず、70歳くらいまで頑張ろうと思っています」
熱意を持って取り組む背景には、この幼稚園が入居する大きな建物は、かつて勤務していた会社が関わっていることも大きいという。真由さんのようにどんなことも「縁と学びだ」と捉える先に道は開くのではないだろうか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。











