Facebookで繋がった人に相談し苦笑される

正和さんは、土木課と観光振興課時代に、自分のSNSでの人脈を増やしていた。

「地権者さん、町内会長、建設会社の人、マスコミ関連、カメラマン、PR会社の人、地元の商店などの人と、SNSのFacebookで繋がり、友達は1500人くらいいます。再就職は楽勝だと思っていました」

彼らは現役時代の正和さんの仕事ぶりを見ている。「うちの仕事を手伝ってください」くらいは言われると思っていた。

「でも誰もなんとも言ってこない。さらに妻から『ずっと前から、定年後、再就職しなければ離婚って言っていたよね』と毎日のように再就職を催促される。当面のお金はあるのになんでそんなに怒るのか。理由を聞いたら『家にいるだけで迷惑』と。僕が働いていれば、妻は自由に出かけられる。家にいると、つい気を遣ってしまうのだとか。『世話しなくていい』と言うと、『そういうわけにもいかない』と怒る」

そして妻は「子供がいないから夫婦間の緩衝材がない。できるだけ顔を合わせないようにして、いい関係を維持し、健康寿命が終わった後の長い夫婦の時間に備えたい」と言った。

「妻の気持ちもわかるし、子供のことを持ち出されると、仕事を探さずにはいられない。仕方がないので、Facebookでの友達のうち、仕事の相談に乗ってくれそうな30人くらいに、“定年退職して再就職先を探しているんです”というメッセージを送ったら、見事に無視された。

困ってしまい、仕事で親しくしていたPR会社の人に相談をすると、苦笑いとともに、『前職の仕事を引っ張ってこれるならいいですよ』と言われました。彼の顔には“組織から離れたお前に用は無い”と書かれていました。親しくした人に相談しても、皆同じ反応です」

正和さんは公務員だ。仕事をすれば、給料が支払われるという感覚で生きてきた。

「小規模事業者やフリーランスの人の感覚は、給料は働いたから出るのではなく、生み出した儲けに対して支払われるということ。つまり、自分の給料の“素となるもの”を稼がなくてはならない。果たして僕にその担保があるのかを問うてくるんです。もちろん、そんなものはありません。これが税金で給料が支払われる公務員との大きな違いだと感じました」

そして、公務員時代に、無償でフリーランスの人にお願いしたことが、不信感に繋がっていたことを知った。

「人の紹介を頼んだり、ノウハウを教えてもらって、そのままにしていたことで“あいつは信用できない”という評価に繋がっていた。定年後に自分の無知や世間知らずなところと向き合うのは辛かったですよ。

あとはFacebookの友達は、友達ではないということも気づきました。SNSの友達とは、現役で活躍しているか、毎日楽しそうで仲間に囲まれている人しか、友達という土俵に上がれない世界なんですよ。僕はろくに投稿もせず、『守秘義務がない人は、なんでも投稿できていいね』とお高く止まっていましたから。これから定年を迎える人は、趣味でも日常のことでもなんでも頻繁に投稿しておくことをおすすめします。それが仕事や人の繋がりになることがあるから」

結局、正和さんはハローワークに行き、現在のNPOの仕事を見つけた。

「公務員だった職歴が評価され、多くの仕事がありました。最初からハローワークに行けばよかったんですけれど、その発想さえありませんでした。

紹介されたのは、公認会計士の事務所、産業振興の企画会社などありましたが、最後は人の役に立つ仕事がしたかったので、命を支えるNPOに就職を決めました。再就職の出勤日、肝に銘じたことは、自分から意見を言わないこと。『僕の意見は全部老害』くらいの気持ちで、若いメンバーと働いています」

NPOのメインの仕事は、自死予防の相談や、困難を抱える人の支援だ。電話相談を受けたり、相談の背景にある問題(生活困窮や暴力、虐待、精神疾患や労働問題など)を整理し支援窓口や福祉事務所に繋ぐこともあるという。

「いろんな方がいるので、危ない目に遭ったり、無力感に包まれることもありますよ」

シングルマザーの支援、自殺未遂を繰り返す30代男性の話など、正和さんは子供世代の人々が生きることを支えている。「子供がいなかったから、人を支える仕事を選んだのですか?」と質問すると、正和さんは「言われてみればそうかもしれない。最後の最後で、熱血教師だった両親の血が騒いでいます。今、すごく充実しているんです」と苦笑いした。

現在、週5日間出勤し、手取りは20万円足らずだという。それでも自分の居場所があり、感謝されていることがとても嬉しいと語る。正和さんは生きがいや専門分野があるわけではない。ただ、求められることに対して、自らルールを決めて順応し、居場所を作っているのだ。定年後はこの柔軟な考えも大切なのかもしれない。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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