近年、海外旅行先として人気上昇中のタイ。急発展している首都・バンコクの刺激も魅力ですが、今回はガイドブックにもあまり載っていない自然豊かなタイ西部を訪ねます。前回までサムットソンクラーム県のマングローブの森や観光農園、リバーサイドのリゾートホテルを紹介しましたが(詳しい記事はこちら)、今回はミャンマー国境と接するカンチャナブリー県に移動し、映画「戦場にかける橋」の舞台となった鉄橋や、リゾートホテルとして生まれ変わった第二次世界大戦時のキャンプ地をご案内しましょう。

「戦場にかける橋」の舞台を歩く

マングローブの森やココナツを育てている観光農園を巡ったサムットソンクラーム県を後にして、さらに西へと移動します。向かった先は、ミャンマーとの国境近くのカンチャナブリー県。映画「戦場にかける橋」の舞台となったクウェー川鉄橋は、今では人気の観光名所となっています。

今でも使われている美しい橋。

今でも使われている美しい橋「クウェー川鉄橋」。

 

映画「戦場にかける橋」とは、1957年に公開された半世紀以上も前の映画です。第二次世界大戦中の1943年、旧日本軍が捕虜となったイギリス軍の兵士や現地の人たちを使ってタイとミャンマーの国境付近を流れるクウェー川に橋をかけようとするのですが、過酷な労働や将校同士の対立によってうまくいきません。

列車が来ない時間、鉄橋の上を歩いて渡ることができます。

列車が来ない時間、鉄橋の上を歩いて渡ることができます。

 

映画の中では、日本軍の指揮下では橋の建設がちっとも進まないため、捕虜のイギリス人が指揮を執り、木造の橋が作られたことになっているのですが、それはあくまで創作の話。実際には鉄筋コンクリートの頑丈な橋が日本人の設計・指揮により完成し、建設時のアーチ部分は今でも使われ、当時の面影を残しています。橋のそばには大木があって、何かのおまじないなのか、たくさんの布が巻かれています。

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かつてキャンプ地だったリゾートホテル

橋を見学した後、今夜、お世話になるリゾートホテル「ホーム・プートイ・リバー・クウェー・リゾート」へと向かいます。

広大なホーム・プートイ・リバー・クウェー・リゾート。

広大なホーム・プートイ・リバー・クウェー・リゾート。

 

山の斜面一帯がすべてホテルの敷地で、ジャングルの中にコテージやプール、温泉が点在し、大きな池のまわりにアドベンチャー施設もある一大リゾートです。  大勢の観光客が訪れる賑やかなホテルですが、じつはかつて第二次世界大戦中のキャンプ地として使われていたそうです。

コテージタイプの清潔な部屋。

コテージタイプの清潔な部屋。

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各コテージのテラスからはジャングルを一望できます。

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ログハウス風の落ち着く室内。

 

夕暮れ時に到着したので、薄暗いジャングルの中をレセプションからコテージまで歩いて行くのが恐ろしく、「戦時中に亡くなった人の幽霊がでやしないかしら?」と不安でいっぱい。ビクビクしていたら、部屋を案内してくれたタイ人スタッフに「もう幽霊はいないから大丈夫だよ」と笑われてしまいました。

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昼間より夜。タイでも温泉を楽しめます。

 部屋でひと休みしたら、ライトアップされた園内の温泉プールへ。ぽかぽかと温まりながら泳いだ後、おいしいタイ料理をたらふく食べて、テラスでビールを飲みながらワイワイとおしゃべり。先ほどまで戦没者の霊におびえていたことが嘘のようです。酔ったまま部屋に戻ってベッドに倒れこみ、幽霊も見ることなく、朝までぐっすり寝てしまいました。

青いパパイヤのサラダ、ソムタム。何を入れるか辛さはどうするか、好みを聞いて作ってくれます。

青いパパイヤのサラダ、ソムタム。何を入れるか辛さはどうするか、好みを聞いて作ってくれます。

おいしかったので、おかわりを。「次はもっと辛くして」とリクエスト。

おいしかったので、おかわりを。「次はもっと辛くして」とリクエスト。

 

樹の上のアドベンチャーに大人も大興奮

翌朝、ホテルの敷地内にある「ツリー・トップ・アドベンチャー・パーク」へ。全貌は木々に覆われて見えませんが、ジャングルの中に張り巡らされたロープを使ったアドベンチャーだそうです。

いよいよこれからアドベンチャー。

いよいよこれからアドベンチャー。

日本の公園にあるような、子供が遊ぶ丸木で作られた簡単な遊具のようなものを想像していたら、インストラクターのお兄さんたちに、ヘルメットやハーネス、カラビナなどを渡されて驚きました。わたしは一度だけロッククライミングをしたことがあるのですが、その時とほとんど同じ格好をさせられるとは…意外と本格的なのでしょうか?

ツアー参加者のうち、2人は「私たちは見ているから。頑張ってきてね」と、早くも脱落です。「大丈夫かしら?」とガイドのおじさんに泣きごとを言うと、「大丈夫、君の荷物はちゃんと見てるから!」と背中を叩かれたのですが、荷物の心配ではありません。

腰にハーネスをつけてヘルメットをかぶります。

腰にハーネスをつけてヘルメットをかぶります。

 

木と木の間に高さ2メートルくらいのロープが張ってあり、屈強なスタッフにカラビナの使い方とロープの持ち方などを教わります。

お手本を見せるスタッフ。簡単そうに見えたのだが…。

お手本を見せるスタッフ。簡単そうに見えたのだが…。

ロープにかけた金具を持ち、釣り橋を渡る練習。

ロープにかけた金具を持ち、釣り橋を渡る練習。

 

落ちてもたいしたことがなさそうなロープの高さに、みな余裕の笑顔だったのですが、「それでは本番コースに行きましょう」と連れて行かれてからが大変でした。

高度300メートルの大滑空も!

本番コースは、先ほど練習した1~2メートルの高さではなく、その3倍くらいはありそうな高い木の上まで上がります。高い! みな、先ほどまではしゃいでいたのですが、だんだん顔が青ざめてきました。

こんなに高いところまで?

こんなに高いところまで?

いくら体とロープをしっかり結んであるとはいえ、落ちたら自力で上がってくるほかないようです。まずはネットの上をふわふわと歩きます。思ったより沈むのですが、これはなんとかクリア。あれ? よく見ると、さきほどのガイドのおじさんが。「おーい! 私も来ちゃった!」とニコニコして手を振っています。おいおい、我々の荷物はどうした!? タイの人は自由気ままでおおらか。細かいことは気にしないようです。

最初のアトラクション。後ろのおじさんは「俺、体重、重いけど大丈夫かな?」

最初のアトラクション。後ろのおじさんは「俺、体重、重いけど大丈夫かな?」

細いつり橋。「揺らさないで~」と先頭の女の子。

細いつり橋。「揺らさないで~」と先頭の女の子。

細いつり橋を渡ったり、梯子を上ったりと、だんだん慣れてきたところで、木と木の間に張られたロープの高低差を利用して滑空するアトラクションが登場。「これ、途中で止まると助けに行けないから、勢いつけてきてね」とインストラクターが大きい声で注意します。 「もし、途中で止まったらどうするのー?」

「その時はロープをつかみながら、自力で進んで来てね」
「うわー、どうしよう! うまくいく気がしない!」

すると、私の前を進んでいた記者の女性が、「白石さん! 思いっきり、手を伸ばして。わたし、捕まえるから!」と叫んでくれたので、思いっきり球に飛び乗りました。たどり着かず戻りかけたものの、伸ばしてくれた彼女の手をガシッと掴み、なんとか成功。お互いの健闘を讃えあっていると、ひとつ後ろのおじさんが、「おーい、俺もいくぞ!」と叫びます。

 

勢いをつけて、球に乗るのがコツ。途中で止まるのだけは困るアトラクション。

勢いをつけて、球に乗るのがコツ。途中で止まるのだけは困るアトラクション。

 

「おじさんの手もちゃんとつかみますかから! よし、来い!」と待っていると、勢いがつきすぎて、おじさんはそのまま木に激突。私の出る幕はなかったようです。

そしてついにクライマックス。なんと、最後は敷地にある大きな池の上を向こう岸まで滑走するというもの。張られたロープの距離は300メートルくらいはあるでしょうか? さっきのはこのための練習だったんですね。これこそ、池の上で止まったら、悲しいこと限りなし。 「もう帰りたい…」とつぶやくと、インストラクターのお兄さんは、「一度始めたゲームは途中で降りられないから」と映画のなかに出てくるようなセリフを吐きます。

嬉々として池を渡っていく女性記者。ジェットコースターなども好きな人なのだろうか?

嬉々として池を渡っていく女性記者。ジェットコースターなども好きな人なのだろうか?

前の女性記者は「せーの!」と勢いをつけて「イヤッホー!」とばかりに向こう岸に消えていきます。彼女は今、鳥の気分なのでしょう。ずいぶん楽しそうです。さあ、いよいよ私の番。震える足で球に飛び乗り、「ぎゃあああああ!」と叫んでいるうちに、向こう岸に到着。白鳥ボートから手を振ってくれるタイ人宿泊客もいたのですが、微笑む余裕はありませんでした。

かなりのスピードが出てけっこう怖い。

かなりのスピードが出てけっこう怖い。

ツリー・トップ・アドベンチャーパークにある20のポイントを約2時間かけて回り終えた頃には、知らぬ間に参加者同士の絆が深まっています。「ホーム・プートイ・リバー・クウェー・リゾート」に宿泊したら、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか?

次回は、ハイキングしながらモン族の村を訪ね、川に浮かぶホテルへと向かいます。

取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。市場好きが高じて築地に引っ越し、うまい魚と酒三昧の日々を送っている。

取材協力/タイ国政府観光庁

 

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