写真:photoAC(一部加工)

32歳、40歳、48歳、56歳。東洋医学では、男性の体は「8の倍数」の年齢で、節目を迎えるといわれています。

「そういえば、あの年齢のあたりから調子が変わった気がする」

そんな心当たりは、ないでしょうか? 加齢の速度を遅らせることができるとしたら、それは日々のちょっとした配慮かもしれません。今回はそのヒントを紹介します。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から心と体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。

今日立ち寄っているのは、顔なじみの男性。たわいもない世間話は、思いがけない方向へと進んでいきます。

ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者:52歳 男性(プロダクトデザイナー)
お悩み:3、4日経っても疲れが抜けない。足腰の怠さ、夜間の頻尿、急に増えた白髪や薄毛

リスト作成:もぱ

疲れが抜けない…

椅子に腰を下ろした男性が、眉間を指で揉みながら吐露します。

「年をとるって嫌なものです。先日、納期の前倒しがあって、連日パソコンにかじりついて無理をしたら、疲れが抜けない。若い頃は徹夜気味でも1日休めば元に戻ったけど、もう4日目。普段から足腰がだるくてつらいのに、疲労感が抜けないときは、さらにひどい。いったい、いつ元に戻るのやら」

写真:illustAC

ため息をつく男性に、志村先生はお茶を差し出します。

「わかります。若い頃はぐっすり眠れば、スッキリしましたよね(笑)」

「そう、それ。今はもうダメ。ぐっすり眠りたいのに、最近すぐトイレに行きたくなるから、こま切れの睡眠しかとれていない気がして」

ため息をつきながら、ぼやきは止まりません。

「白髪や薄毛も急に気になってきた。この先、どうなっていくのか…。

白髪といえば、近所に総白髪のおじいさんがいまして。80代らしいけど、いつも元気そうに出かけていくんですよ。あれは、我々とはちがう食事でもしてるのか…。自分は50代になる前で、あちこちに不調が出てきたけど」

志村先生は、穏やかな笑みを浮かべながら、こう切り出しました。

「加齢による体の変化は、8年ごとに訪れるという考え方がありますよ」

「ほう。8年ごとに?」

志村先生はそう頷くと、年齢とともに変わる体のライフサイクルについて話し始めました。

人生のタイムライン

「男性の場合、8歳で体のエネルギーが充実し、16歳で生殖能力をもち、24歳では体が充実します。体づくりのピークを迎えるのが、だいたい32歳前後。そこから40歳頃になると、衰えの兆しが少しずつ出始める時期に入ります。

写真:illustAC(一部加工)

48歳頃には、その変化がはっきりとしてきて、56歳頃になると、本格的な老化の段階に進んでいく、という見立てです」

思わず自分の年齢を指折り数えた男性は言います。

「今、自分は52歳だから…、48歳の節目を過ぎて、次の節目に向かっている途中…」

「そうなりますね。この人生のタイムラインは、二千年以上前の書物に記されているので、あなたが今感じている変化は、むしろ予定通りの歩みだと考える方が自然です。老いることって、すべての人類に平等に与えられていますから」

愕然としながら男性は思わず、こう口にしました。

「これは、人類共通の衰え…。いやでも、80代になっても、まだまだ元気な人がいますよ。髪は白いけど、足腰がしっかりしていて、ハツラツとしている。どうして、あんなに元気なのか、不思議でしかたない」

ため息をつく男性に、志村先生は「腎」についての話をはじめました。

腎は体のバッテリー

「老化のカギを握るのは、中医学でいう『腎(じん)』です。

写真:illustAC

『腎』は、生まれ持った生命エネルギーである『腎精(じんせい)』を蓄える、いわば体のバッテリーのようなもの。この腎のエネルギーが目減りすると、こういった症状につながります」

・無理をすると、何日も疲れが抜けない
・足腰がだるい
・夜中にトイレで目が覚める
・白髪や薄毛が急に気になり出した
・性機能の衰え

「50歳を過ぎて、急に老化を感じるようになったのは、つまり、腎精が減った影響だと?」

頷きながら、志村先生は続けます。

「腎精のピークは男性なら32歳。ちなみに女性の場合は7の倍数なので、28歳です。そこから少しずつ減っていきます。

しかも腎は、他の五臓すべてと協力し合っているので、体全体に影響が出ます」

相談者は、腕を組み、天井を見上げました。

「根元が同じだからこそ、同じ時期に、一気に出た…。そういうことですか?」

「まさにそうなんです。ですから、日頃から大切にして欲しいと、皆さんにお伝えしているのは、体全体のバランスを整える意識です。老いて下降していくカーブをできるだけゆるやかに描けるように、足りない部分を補い、過剰な部分を抑えながら、無理なく生きていくことを考えていきます」

漢方薬にできること

「バランスを整える、っていうのは、具体的にはどうするんですか?」

「例えば、腎精が不足している状態であれば、漢方薬で補うことが多いです。それに、若々しさを保つには、巡りを整えることが欠かせません。血の巡りを助けて、体を温めるものを処方することもあります。

あとは、歳を重ねてもハツラツとしている方は、皆さん足腰がしっかりしていますよね」

「足腰を強くする漢方があるんですか?」

自分の膝を触りながら聞く男性に、志村先生は言います。

「はい。足腰を支える働きの処方もあります。ただ丈夫な足腰のためには、やっぱり動かすことが大切。だから、『出かけたくなる(動きたくなる)気力』を補うことが、実はポイントなんです。

そして、すべての土台になっているのが、胃腸の力です。しっかり食べて、それを消化できることが元気の源なので、胃腸をサポートする漢方薬も、よく使いますよ」

「なるほど…。こうして聞いてみると、老化に対応できる漢方薬って、意外と守備範囲が広い」

「そうなんです。体の状態を総合的に診ながら組み合わせるので、必要でしたら相談してください。80代になっても、元気に出かけることができる体に近づいていくことは、できるでしょう」

「あ…、近所の、あの元気なおじいさん」

「ええ。ただ、加齢による変化は、誰しもに訪れます。止めることはできないので、漢方薬だけに頼るよりも、大切にして欲しいのは、日々の正しい生活習慣です」

「自分で、できることもありますか?」

「もちろんです。まず知ってほしいのは、腎精を減らしてしまう原因は、日常の中にたくさん隠れている、ということです」

腎精を減らしてしまう原因とは

「睡眠不足とか、栄養が偏った食事といった不摂生には、身に覚えがある方が多いかもしれません。それだけじゃないですよ。深夜までのPC作業、目の使い過ぎもよくないです」

「うっ…、耳が痛いな…。締切前のスケジュールそのものだ」

男性の言葉を、志村先生は穏やかに受け止めて続けます。

「あとは、働きすぎや考えすぎも、原因になります。他にも、体質に合わない飲食、過度な性生活、大きな病気や出血。こういう積み重ねは、腎に直接ダメージがいくこともあれば、巡り巡ってじわじわ効いてくることもあります。

ただ、細く長く生きるか、太く短く生きるか、そこはもう、その人の生き方次第ですよね。『できるだけ長く生きる』だけが、正解ではないと思います」

今日からできる、腎を守る養生

それでも、高齢になっても元気に過ごしたいなら、今から養生を続ければ影響は出てくると、志村先生は言います。中でも、特に見直してほしいのが、睡眠だそう。

睡眠を整える

「腎精は、眠っている間に回復していきます。だから夜更かしは、いちばん腎精を消耗させる習慣です。思い当たりがあるのなら、睡眠時間をちょっとでもいいので、増やしてみてください」

ストレスを、ためこまない

「ストレスが強い生活も、腎を疲れさせてしまいます。中医学には『肝腎同源』という考え方があって、感情を司る『肝』と、腎はつながっていますから」

「え、じゃあ、ストレスで肝が疲れると、腎も一緒に…」

「はい。ただでさえ減っていく腎精を、ストレス対応までさせて酷使してしまうと、ダメージがきます。仕事の責任感が強い方ほど、『自分が頑張れば回るから』と無理を重ねがちですが、意識的に息を抜く時間を作ることも、養生になりますよ」

男性は苦笑いしながら、少し背中を丸めました。

「『まだまだ、いける』って、つい自分にムチを打つ手を、緩めないといけない」

いつものご飯に「黒い食材」をプラスする

「食べ物では、黒い食材が腎の養生にいいとされてます」

「黒い食材。ええと、黒豆とか?」

「はい。あとは、黒ゴマ、黒きくらげとかも。特に豆類は、次の生命を生み出す力を凝縮したものなので、私たちにも、生命エネルギーを補ってくれる食物です」

写真:illustAC

「たしかに、豆って生命の源だから」

「そうなんです。あまり難しく考えなくても、いつもの食事に、黒ごまを振りかけることから始めてみるといいですよ。ドライパックの煮豆をサラダに足す、でもいいです」

「仙人が食べていた、仙薬みたいなのは、ありませんか(笑)」

「そうですね。特別な何かを食べて不老不死を叶えた人が、1人でもいればいいんですが。残念ながら、今のところいないみたいです(笑)」

老いを見据えてできること

ここまで会話を続けてきた男性は、少し考え込むように黙りました。

「徹夜をしてでも仕上げるという無理なやり方は、もう体に合わなくなっていることは感じていました。引退を考えなきゃならない年でもないのに…」

志村先生は、静かに言葉を続けます。

「無理のない歩幅を見つけることは、長く元気に働くコツです。そして、8の倍数で老化が進むことがわかっているなら、むしろ、今から手を打つこともできますよね」

「今から手を打つ…?」

「はい。56歳頃には、もう少しはっきりとした老化のサインが出てくるだろう、という見立てが立ちます。64歳になれば、今より老化が進んでいることは間違いありません。

だから、今のうちから対策を考えておくことができます。『定年してから、何か始めよう』ではなく、少しずつ種をまいておくようなイメージです」

「ああ、それは、最近よく考えることです。『いつか』、と言っていたら、永遠にやってこない。体を楽に動かすことができる今のうちに、できることから始めてみるのはどうか、って」

「ええ、いいですね。いざ時間ができたときには、思い切り打ち込めますからね」

おわりに

老いを避けることは誰にもできません。しかし、あらかじめ訪れる変化を知っておけば、人生の舵を自分で握りながら生きるための準備ができます。

空になった湯呑みを置いた男性は、スッキリとした表情で椅子から立ち上がりました。

「自分に合った働き方に調整しながら、これからのこともゆっくり考えてみます。今日はありがとうございました」

「よかったです。また、いつでもいらしてくださいね」

軽やかになった男性の足取りを、志村先生は見送りました。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

●アイキャッチ画像/photoAC(一部加工)

 

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