
ありがたいことに、人生は途中からやり直せる時代になりました。働き方も学び方も選択肢が増え、「第二のスタート」を切る人は珍しくありません。ただ一方で、情報が溢れすぎて、何を信じて選ぶかが難しくなったのも事実です。検索だけでなくAIでも答えが出る分、「自分の判断軸」が問われます。
そんなとき、時代を越えて残る言葉は、案外ぶれない指針になってくれます。流されず、焦らず、いまの自分に必要な一文を持つこと。それが、人生後半の足元を強くしてくれるかもしれません。
今回の座右の銘にしたい言葉は「一念天に通ず」(いちねんてんにつうず)です。
「一念天に通ず」の意味
「一念天に通ず」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「物事を成し遂げようと一心になれば、それが天に通じて、必ず成功する」とあります。ここでいう「一念」とは、心の中に深く思い浮かべるひとつの考えや、強い信念のことを指します。そして「天」は、神様や仏様、あるいは大自然の摂理といった、人間を超えた大きな存在を意味しています。
大切なのは、願っていれば必ず望みがかなう、という意味ではないことです。念じるだけで結果が得られるわけではありません。強い意志を持ち、それに見合う努力を粘り強く重ねる姿勢が、この言葉の中心にあります。
たとえば、趣味で始めた楽器の演奏がなかなか上達しなかったり、定年後に新しく挑戦した資格試験の勉強でつまずいたりしたとき。この「一念天に通ず」という言葉を胸に思い浮かべれば、「あともう少しだけ頑張ってみよう」と、自分自身を奮い立たせる原動力になるでしょう。
これまで頑張り抜いてきた過去を肯定し、これからの未来への希望を灯してくれる。それこそが、この言葉を座右の銘にする最大のメリットです。

「一念天に通ず」の由来
「至誠天に通ず」は、中国の古典『孟子』にある「至誠にして動かざる者は未だこれ有らざるなり」という一節に由来するとされ、真心を尽くして事にあたれば、必ず人の心を動かし、物事を成し遂げられる、という教えを説いています。
「一念天に通ず」は、この「誠」を「一念」(ひとつの強い思い)という言葉に置き換え、より意志の強さ、思いの強さに焦点をあてた表現として、日本人の間で親しまれてきたと考えられています。
似た意味の表現としては、「石の上にも三年」や「継続は力なり」がありますが、「一念天に通ず」はそれらよりも少し格調があり、意志の強さをより印象的に伝えられるのが特徴です。
「一念天に通ず」を座右の銘としてスピーチするなら
「一念天に通ず」を座右の銘としてスピーチする際は、言葉の意味を自分の言葉で簡潔に説明すること。聞き手の中には初めて耳にする方もいますから、難しい言葉のまま終わらせず、「つまりこういうことです」と噛み砕く一言を添えると親切です。以下に「一念天に通ず」を取り入れたスピーチの例をあげます。
学び直しへの挑戦を語るスピーチ例
私の座右の銘は、「一念天に通ず」です。強い決意を持ち、努力を重ねれば、その思いは天に届き、やがて道が開けるという意味です。
若い頃の私は、物事を始めることには積極的でも、成果がすぐに見えないと、向いていないのではないかと諦めがちでした。しかし、年齢を重ねるにつれて、結果を急ぐより、昨日できなかったことを今日一つできるようにするほうが大切だと考えるようになりました。
数年前、私は地域の活動で必要になったパソコン操作を学び始めました。最初は資料を一枚作るだけで時間がかかり、何度も人に尋ねました。覚えたつもりの手順を翌日には忘れ、自分の記憶力にがっかりしたこともあります。それでも、参加者に見やすい案内を届けたいという思いから、毎日少しずつ操作を続けました。
しばらくすると、自分で資料を整えられるようになり、今では仲間から相談を受けることもあります。特別な才能があったわけではありません。小さな失敗を重ねながらも、やめずに続けた結果です。
「一念天に通ず」は、願うだけですべてがかなうという言葉ではないと、私は考えています。まず心を定め、その思いに恥じない行動を積み重ねる。そうすることで、以前は見えなかった道が、少しずつ見えてくるのではないでしょうか。
これからの人生でも、年齢を理由に自分の可能性を閉ざさず、学びたいことや大切にしたいことに誠実に向き合っていきます。
最後に
「一念天に通ず」は、一つの思いを貫き、努力を続けることで道は開ける、と教えてくれる言葉です。ただし、願いさえすれば成功するという楽観的な教えではありません。決意を行動に変え、日々積み重ねることに価値があります。新しい学び、趣味、地域活動、仕事への再挑戦。胸の内に「やってみたい」という思いがあるなら、まずは今日できる小さな行動に変えてみてはいかがでしょう。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com











