本能寺で襲撃を受けた織田信長(演・小栗旬)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』の第27回で「本能寺の変」が描かれました。放送に合わせて、織田信長を演じる小栗旬さんの取材会が開かれました。当欄は2020年の『麒麟がくる』から連載が始まっていますから、2022年の『鎌倉殿の13人』も1年間併走しています。北条義時を演じた小栗旬さんと1年間向き合い、座長として出演者らの心をひとつにまとめていく姿を目の当たりにしました。

編集者A(以下A):それを私たちは「天性のリーダーシップ」だと感じて、幾度もそのことに触れました。『麒麟がくる』以降の大河ドラマでは、「最高の座長」だったのは疑いのないことでした。

I:その小栗さんが織田信長を演じた『豊臣兄弟!』で、7月12日に「本能寺の変」が描かれました。

本能寺のラストのシーンはロケで撮影しました。ロケで本火を使ったというのは、けっこう大きなことだとは思います。本当の火に囲まれているというのは、やっぱり画が全然違いましたね。

脚本家の八津弘幸さんとお会いした時に、一度は思いっきり逃げようとしたい、という話をさせてもらったんです。いろいろと資料などを読みましたが、逃げると決めた織田信長の逃げ足はものすごく速かったというようなことが書かれてあった記憶があり、自分の中で、どうして本能寺の時は逃げられなかったのかというのが、けっこう謎だったんです。

A:確かに。たとえば浅井長政(演・中島歩)の離反で危機に陥った「金ヶ崎の退き口」でも判断は迅速、殿(しんがり)を秀吉(演・池松壮亮)に任せ、一気呵成に鮮やかに逃げました。「本能寺の変」では「なぜ逃げなかったのか?」。

I:不思議といえば不思議です。小栗旬さんの興味深い話は続きます。

逃げられなかった理由のひとつとして自分が想像つくところでいうと、たぶん、もう疲れてしまった、ということだと思っています。燃え尽き症候群じゃないけれど、これ以上逃げて、また走って行った先に何があるんだろうということが、きっと彼の中では、終着点として見えてしまったというか。これで引退して、のんびり余生過ごしたい、なんていっても、恨みを作りまくっているので、常にいつ殺されるかわからないという不安の中で生き抜かなければいけない。そう考えた時に、たぶん、もう疲れちゃったなぁ、というのが一番だったんじゃないかなと、自分なりに解釈しました。

A:「信長は疲れていたのではないか」というのはすごくわかるんですよね。嫡男信忠(演・小関裕太)は武田信玄(演・高嶋政伸)の五女松姫と婚約するほど一時期は武田家と蜜月だったにもかかわらず、信玄は牙を剥いてきました。妹市(演・宮崎あおい)が嫁いだ義弟浅井長政、一度背いたにもかかわらず許した松永久秀(演・竹中直人)、摂津国を任せて期待していた荒木村重(演・トータス松本)、武田家同様一時は蜜月だった播磨の別所長治(演・下川恭平)など、信長に反旗を翻した武将のなんと多いことか。

いまは国宝になっている「上杉本 洛中洛外図屏風」を贈るなど交流のあった上杉謙信(演・工藤潤矢)とも対決することになり、北陸に軍を派遣することになりました。娘の五徳を嫁がせた徳川家でも娘婿の松平信康とその母築山殿が自害する騒動が勃発しました。比叡山延暦寺や石山本願寺など、人々が恐れをなしていた仏教勢力も果断に取り潰しました。配下の武将らも合戦につぐ合戦で疲弊していたかもしれませんが、信長の疲れは、尋常ではなかったと思います。そうした中で、織田家中の出世頭で、おそらくもっとも信頼していたと思われる明智光秀(演・要潤)が1万3000もの兵を向けてくる。その事実を知った瞬間、信長の心が折れたとしても不思議はありません。小栗さんの信長役にかける思いが、このコメントに凝縮されている。そんな気がします。

I:小栗旬さんは、「逃げようとする信長」「無様に死にいく信長」を演じたかったのですね。

結果的には折衷案みたいな形にはなっていると思います。本能寺の変は、信長を演じてきた俳優の最後の見せ場になりがちというか、「このシーンのために信長を演じてきました」というふうに見えるようなところがあると思うんです。だから僕の信長は、あっさり死んでいきたい、というのもありました。そういう意味では、ちゃんと物語に則った上で、秀吉・小一郎(演・仲野太賀)兄弟へのメッセージを残して散っていけたので、今回の本能寺はこれだ、という気がしますね。

A:あっさりと死んでいきたい、ですか……。今までにない本能寺、ですね。

I:むしろ、その方が現実的なのかもしれませんね。

第27回で幻の光秀と顔をあわせるところがあるんですが、そこで「お前じゃない」というセリフを言わせてもらいました。この物語の信長は、もしも殺しに来たのが秀吉だったら、喜んで死んだのに、と思ったんじゃないかと。そういうところにたどり着けたことは、『豊臣兄弟!』という作品の中での織田信長を作り上げる上で、最初から最後までひとつの筋が通っていたのではないかと思っています。「お前じゃない」というのは脚本にはない台詞なんです。秀吉が「あなたが死んでくれないと、次の世が来ません」と言ってくれたら、喜んで君に後の世を託すと思ったのではないでしょうか。なのに、気難しい光秀が来るから許せなかったんですよね。本当に「お前じゃない」っていう。

A:信長はがんじがらめの中世的社会に風穴をあけた歴史的大功労者。もう少し、小栗旬さんの演じる信長の生きざまに尺をとってほしかったというふうに思います。

織田信長を演じた小栗旬さん。(C)NHK

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」
※高嶋政伸の「高」は正しくは「はしごだか」

【放送情報】
大河ドラマ「豊臣兄弟!」
NHK総合 毎週日曜 20時~ほか
※NHK ONEで同時・見逃し配信中

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
8月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店