
本州、四国、九州に分布、北海道のものはエゾタヌキ。キツネとともに昔話に多く登場するのは、人との接触機会が多かったため。
日本の動物園からジャイアントパンダが消えたのは2026年1月(※)。ネット上には、今も寂しさを伝える声が溢れている。
では、ビッグアイドルなき後の動物園に私たちはどう向き合えばよいのか。そのヒントが北陸地方にある。
富山市ファミリーパークの強み
富山市ファミリーパーク。ここにはゾウやライオンのような遠い外国から来た大型動物はほとんどいない。考え方を端的に示すのが、入園すると随所で目につく親しげなイメージキャラクターだ。
「里ノ助という名前のタヌキです。山本茂行元園長時代の2005年に誕生したキャラクターです。世界中の珍しい動物よりも、地元富山をはじめとする日本の動物をという考えは1984年の開園以来の方針でしたが、より力を入れていこうという方向になりました」
こう語るのは、現園長の村井仁志さん。富山市ファミリーパークは富山県を東西に分かつ呉羽(くれは)丘陵にある。公園計画は高度経済成長期に持ち上がったもので、実現までに紆余曲折があった。環境破壊につながるとして建設反対運動が起きたこともある。


木々の間を滑空して移動するリスの仲間。

※共同繁殖研究の貸与契約満了に伴う返還。ワシントン条約締結前までは、日中友好を象徴する生きた贈り物だった。
足元の種こそ伝えるべき存在
最終的にまとまった方向性が、里山とそこで生活する動物たちを未来の市民に残し、伝えるというものだった。
「市民にも協力をいただき、ホクリクサンショウウオやゲンジボタルなど呉羽丘陵の里山を象徴する種の保全活動も行なってきました」
タヌキは漢字で狸と書く。文字通り里山の獣だ。こうした里山と山岳、川、平野が凝縮した富山県には、それぞれの環境に適した多種多様な生きものが棲む。足元の自然を再評価しようというメッセージは市民へ徐々に浸透。“おらっちゃ”(富山弁で私たちの意)の動物園として親しまれていく。
富山市ファミリーパークが力を入れているのが、絶滅危惧種のニホンライチョウの繁殖研究だ。職員の中に屈指の専門家を擁し、公益社団法人日本動物園水族館協会と環境省の共同事業でも中核的な役割を担う。

キジ科の絶滅危惧種。地殻変動や温暖化などにより個体群が孤立、寒冷な高山に生き残った。推定生息数は約2000羽。
山岳県富山を象徴する動物たち

丘陵帯から亜高山帯にかけて生息するウシ科の日本固有種。近年は低山に出てくることも増えた。繁殖期以外は単独で生活する。

近年、人里へ出てくる例が増え社会問題化。大量出没の経緯は複雑で、クマの生活を知り、人と動物の共存を考える生きた教材に。
「絶滅危惧種」はライチョウだけではない
未来に残すべき自然の姿とはなにか

成獣の体重は40〜50㎏に達する。かつて富山県にも生息したニホンオオカミは、これよりもかなり小柄だったことがわかっている。
富山市ファミリーパークで見られる生きものは、現在93種。このうち約6割は日本に生息する種類だが、考えさせられる展示もある。
かつて日本には、北海道にはエゾオオカミが、本州・四国・九州にはニホンオオカミという2タイプのオオカミがいた。明治時代に入って駆除が進められた結果、どちらも絶滅してしまった。
富山市ファミリーパークで展示されているオオカミは北アメリカ大陸に分布するシンリンオオカミで、絶滅した日本のオオカミと同種(別亜種)である。今も国外で生きているオオカミを展示することで、日本で絶滅した種に思いを馳せてもらおうという考えだ。
同じ理念で展示しているのがユーラシアカワウソだ。日本列島に生息したニホンカワウソは、1979年に高知県新荘川(しんじょうがわ)で確認されたのを最後に目撃例がない。

(ニホンカワウソは絶滅)

環境省は、最後の記録から数十年生存が確認されていないことから、2012年にニホンカワウソを絶滅種に指定した。
展示されているユーラシア大陸(西ヨーロッパから中国・朝鮮半島)に分布するユーラシアカワウソは、ニホンカワウソとは別種であるが、近縁な種である。
危険に気付いたときには遅い
「絶滅の問題は、危険に気付いたときにはすでに遅いことです。たとえばススキやヨシ帯に暮らすカヤネズミという小さな齧歯類(げっしるい)がいます。減少が懸念されていますが、もともと分布に空白地の多い種なのです。つまり全容がわからないうちに絶滅に向かっている可能性が高いのです」(村井園長)

カヤネズミは日本最小のネズミで体重は7gほど。イネ科植物の葉を毬状にした巣を作る。富山県のレッドリストでは希少種。1988年に日本で初めて展示を開始。
富山県の場合、現在までに分布が確認されているのは県西部の1か所のみ。その場所も耕作放棄の進行でクズなどの蔓性植物がはびこり、イネ科植物の茎葉を巣づくりに使うカヤネズミには暮らしにくい環境になっているという。
「こうした小さな存在も、生物多様性を構成するピースのひとつです。ぜひ目を向けてください」
減っているのは野生動物だけではない。じつは日本人の暮らしを支えてきた家畜・家禽も、在来品種と呼ばれるグループには赤信号が灯る。富山市ファミリーパークでは、このような消えゆく品種の展示にも力を入れてきた。
現在飼育しているのは、在来馬が木曽馬(長野県)、対州馬(長崎県対馬)、野間馬(愛媛県)の3品種。日本鶏は岐阜地鶏など11品種が飼われている。ニワトリの原種のひとつとされる野生鶏、東南アジアのセキショクヤケイも、日本では珍しい展示だろう。

岐阜県郡上地方で飼育されてきた岐阜地鶏。日本鶏は各地に保存会があるが、会員の高齢化により維持が難しくなってきている。
富山市ファミリーパーク
富山県富山市古沢254
電話:076・434・1234
営業時間:3月15日〜11月30日9時〜16時30分、12月1日〜2月23日10時〜15時30分(最終入園は30分前)
定休日:毎月第1・第3火曜(祝日を除く)、12月28日〜1月4日、2月下旬〜3月上旬(整備休園)
料金:大人500円
交通アクセス:JR富山駅南口前地鉄バス4番乗り場16系統で富山大附属病院循環に乗車、約25分
取材・文/鹿熊 勤 撮影/川口奈津子(grafeel) 写真提供/富山市ファミリーパーク
※『サライ』2026年6月号より












