文/印南敦史

いいこともあれば、いやなこともあるし、「なんでこうなるんだろう?」と思わざるを得ないこともしばしば――。
「本当にいろんなことがあった」と振り返るのは、『84歳、「ま、いいか」で人生うまくいく』(高橋恵 著、あさ出版)の著者である。
たしかに、それだけ人生経験を積み重ねれば“いろいろあって当然”。ストレスもさぞ多かっただろうと推測できるが、タイトルにあるとおり、どんなことがあったとしても「ま、いいか」とやり過ごしてきたのだという。
もちろん、これで全部解決するわけじゃありません。
でも不思議なことに、「ま、いいか」って言った瞬間、ちょっとだけ心が軽くなるんです。
で、「よいしょ」って、また一歩進める。
そうやってここまで来ました。
気がついたら、「ま、いいか」が笑顔を連れてきてくれて、人生の後半は、なんだかワクワクする毎日になっていました。
(本書「はじめに」より)
2人の娘を育てながら営業職に従事するも、40歳で離婚。42歳のときには、自宅のワンルームマンションでPR会社を創業したという経歴の持ち主である。
さらに70歳になると「おせっかい協会」なる社団法人を設立。現在も全国各地で“愛のあるおせっかい”を説く「おせっかいセミナー」を行っている。
なんともユニークでありパワフル(としか表現のしようがない)。強烈な生命力の強さを実感させるが、そもそも昔から、「人生は、後半の後半こそいちばんおもしろい」と思っていたのだという。
80代になったいまは予想どおり、おもしろい毎日を送っておられるそうだ。
年齢を重ねることを「老い」と言って嫌がる方もいますが、私はあまり気にしていません。
老いるとか老いないとか考えすぎるより、「ま、いいか」と肩の力を抜いたほうが、ずっと元気でいられます。
(本書22〜23ページより)
60代のころより、いまのほうがずっと楽しいとおっしゃるが、残りの人生になにかと不安を抱きがちな60代にとっては、なんとも心強い話ではないだろうか。
それでも若いころは、「こうあるべき」「こうしなければいけない」と、無意識のうちに自分を枠のなかに閉じ込めて生きていたという。しかし40代、50代になると、その枠がだんだん緩んできたのだそうだ。この感覚には、共感できる方も多いはずだ。
そして60代。
立場や肩書から少しずつ自由になって、「自分」に戻る時間が増えてきます。
私も60を過ぎてやっと「ああ、自分は自分でいいんだ」と思えるようになりました。
時間はかかりましたけど、気づけたので、それでよしです。
(本書23ページより)
しかも60歳を過ぎると、周囲もだんだん寛大になってくるもの。お互いに、相手のことを「あの人はああいう人だから」と受け入れられるようになるからだ。その結果、心は軽くなるに違いない。
これは、とても大切なことだと思える。しかも70代に入ると、さらに心が軽くなるようだ。
当然ながら、年齢を重ねれば重ねただけ、「できないこと」は少しずつ増えていくものだ。だから不安に襲われるのかもしれないが、できないことが増えるだけでなく、「わかること」も確実に増える。それを忘れるべきではない。
加齢とともに、「ああ、そういうことか」「なるほど、こうすればいいのか」ということが感覚的にわかってくるわけだ。
私にも経験があるが、「そういうことか」という感覚は、言語化しづらくはあるものの、心を軽くしてくれるものだ。
いまの50代、60代、70代は、昔よりずっと若い。80代も若いです。
80代でも「引退」なんて言葉は似合いません。
だから、やりたいことがあるなら遠慮なんてしなくていい。
やってみて違ったら、「ま、いいか」でいいんです。
(本書25ページより)
「ま、いいか」という言葉だけを切り取ったとしたら、どことなく軽く感じてしまうかもしれない。だが、頭に「やってみて違ったら」というひとことが加わると、一気に深みが増す。
歳をとっても新しいことにチャレンジすることは不安だろうし、「失敗したら、もうあとがない」などと悲観的に考えてしまうかもしれない。
しかし、そんなことはないのだ。うまくいかなかったら、「ま、いいか」でいいのだ。
84歳の大先輩がおっしゃるのだから間違いない。本当に。

高橋恵 著
1650円
あさ出版
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。











