さんゆうてい・けんこう 1970年、福島県生まれ。1998年三遊亭好楽(さんゆうていこうらく)に入門、前座名は「好作」。2002年二ツ目昇進、「好二郎」に。2008年真打に昇進し「兼好」となる。「三越落語会」の舞台袖で出番を待つ兼好さん。化け狐に間違えられた侍が狐を装い起こした騒動を描く『紋三郎稲荷(もんざぶろういなり)』をかけた。

やや高い軽やかな口調にちょっと濁音が混じる心地よい声音。所作も愛らしく巧み。はじめて落語を見た人も落語好きもみな、兼好さんを聴いたあとは「あ〜愉しかった〜」とにこやかだ。

「様子がよく、見ているとウキウキする」と佐藤友美さん。「ウケないところを見たことがない。軽やかながら落語家としての強度が高い。兼好さんで笑えなかったら、落語に向いていないと判断してもいい」と橘蓮二さんが力説するように、落語初心者にも落語好きにも刺さるのが兼好さんである。

軽妙な語り口と明るい雰囲気、でも切れ味鋭いマクラから、自然に落語の情景へと誘う兼好さんの高座。

可笑しみが滲み出る

「落語家にも季節感があって。圓生(えんしょう)師匠が冬向きなら、志ん朝(しんちょう)師匠は春向き。私は夏向きですから、重厚な噺をやると“こんなに軽い噺だったかしら”と言われちゃう」と兼好さんが自身を分析する。

その場その場で面白がれる性質のせいか、代表作がないと謙遜する。が、『茶の湯』『片棒』『短命』『湯屋番』などどれもがとんとん拍子に噺が進み、始終クスクスと笑わせ、観る人の想像力を絶妙にくすぐる。そんな高座が兼好さんの真骨頂。その笑いはギャグでも嘲笑でもなく、落語という世界の可笑しみが滲み出たものである。

「ドカンという爆発的な笑いの場合、どこかで怒りや悲しみなどマイナスに感じる方がいる。笑いの量が大きければ大きいほど傷つける部分もあるでしょうから、私の噺は、そうでない笑いであり続けたいですね」

洋服を持たず、四六時中、和装の兼好さんだけに長襦袢(ながじゅばん)姿も様になる。
ふだん着では、帆布前掛け風腰袋を帯につけている。

この演目を聴きたい

陸奥間違い

食うや食わずの貧乏小役人の使者が粗忽で、とんでもない事態を生む。元は浪曲で兼好さんが落語化。独自の展開をプラスし面白さを数段上に引き上げた、縁起のいい噺である

「して、使者の口上は」
「手紙に」
「ほほう、なかなか物のわかったやつだ。
闕字(けつじ)を使っている」と、
手紙を読み進める松平陸奥守(むつのかみ)。
「なんと……?」
「お金貨してって」

「令和の名人」推薦者(特集内の評論を担当)

佐藤友美さん(演芸専門誌『東京かわら版』編集人)
幼少期から伝統芸能に親しみ、『東京かわら版』編集部へ。寄席演芸の普及に尽力。4月に『東西寄席演芸名鑑3』を刊行予定。

杉江松恋さん(作家・文芸評論家・演芸プロデューサー)
推理小説の書評や小説執筆のかたわら、落語会や浪曲会を主宰。夢枕獏『陰陽師』を天中軒すみれさんのために脚本化。著書多数。

橘 蓮二さん(演芸写真家・演芸プロデューサー)
落語、講談、浪曲を中心に漫才、神楽など演芸全般の舞台や楽屋、ポートレートを撮り続ける。落語会のプロデュース、著書多数。

取材・文/山﨑真由子 撮影/橘 蓮二

※『サライ』2026年4月号より

4月号大特集はサライ「演芸」令和の名人です

 

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