信長(演・小栗旬)を裏切った荒木村重(演・トータス松本)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第21回です。前週、松永久秀(演・竹中直人)の爆死が描かれました。天正5年(1577)10月10日のことです。『信長公記』によると秀吉は、10月23日には播磨に出陣するという「働きづめ」の状態でした。

編集者A(以下A):ナレーションで説明された通り、トータス松本さん演じる荒木村重が地固めしていた状況ではありますが、播磨を短期間で「平定」したといいます。荒木村重はもともと池田勝正の家臣でした。池田勝正は本国寺の変でも、将軍足利義昭の危急を聞き駆けつけ、金ヶ崎の撤退戦でも主力だったのですが、『豊臣兄弟!』ではキャスティングされていません。池田勝正は先んじて信長と袂を分かちますが、この時、池田勝正を見限り、信長に仕えたのが荒木村重であり、中川清秀であり、高山右近なわけです。

I:荒木村重は外様でありながら、信長(演・小栗旬)から摂津を与えられているわけです。評価されていたのですね。

A:村重の居城有岡城はJR福知山線または阪急の伊丹駅「駅前」に位置します。現在は、なかなか「城跡」という感じもしないのですが、往時は結構な城郭だったようですね。この荒木村重が奔走して地固めしたにもかかわらず、秀吉(演・池松壮亮)がやってくるとなれば、「おいしいところは全部持っていかれる」と不信感を持ったのかもしれません。

I:松永久秀が、大和の国が自分ではなく筒井順慶(演・永沼伊久也)に与えられたことに不信感を抱いたのと似ていますよね。

A:そういう人情の機微に無頓着な組織ってありますからね。なんでそういう人事になるの? ていう。「信長の人事」はそういう感じだったのだと思います。

「半兵衛と官兵衛」と『豊臣兄弟!』

黒田官兵衛(演・倉悠貴)が登場。(C)NHK

I:後に黒田官兵衛となる小寺官兵衛(演・倉悠貴)も初登場です。2014年の『軍師官兵衛』で、岡田准一さん主演で大河ドラマの主役を張っていますから「大物」感満載の登場になりました。

A:秀吉周辺の人物でいえば、同僚の前田利家(演・唐沢寿明)が2002年の『利家とまつ~加賀百万石物語』で、山内一豊(演・上川隆也)が2006年の『功名が辻』で、それぞれ正妻のまつ(演・松嶋菜々子)、千代(演・仲間由紀恵)を主人公として大河ドラマが展開されました。

I:『軍師官兵衛』では、竹中半兵衛(演・谷原章介)との「半兵衛と官兵衛」のエピソードが印象的に描かれました。ざっくりいうと、半兵衛から官兵衛に「襷」が渡されたような感じでした。

A:それにしても蜂須賀小六(演・高橋努)が秀吉に仕え、竹中半兵衛(演・菅田将暉)、宮部継潤(演・ドンペイ)など個性的な面々が秀吉のもとに参集する。そして、今また小寺官兵衛が秀吉に仕えることになる。この状況をみていると、司馬遼太郎さんのエッセイの一節を思い出すんですよね。

私は秀吉が好きです。とくに、天下をとるまでの秀吉が大すきです。歴史上の人物で、私が主人として仕えていいと思うのは、この時期の秀吉です。(初出は『歴史読本』1963年10月号。『歴史のなかの邂逅2』文春文庫所収)

A:織田信長の幕下で奔走していた頃の秀吉は、その人間的な魅力で人々を魅了していました。秀吉が官兵衛に送った有名な手紙があります。戦国史の泰斗桑田忠親先生の『太閤の手紙』(昭和40年刊/角川文庫)でも紹介されている有名な秀吉自筆の手紙ですが、「其の方の儀は、我らおとと(弟)の小一郎どうぜん(同然)に心安く存じ候」と、弟の小一郎同様に心安い存在であると伝えているわけです。

I:これは、秀吉と小一郎の関係が良好だということを知っている人間にとっては響いてくる文言。実際に秀吉と小一郎を想起させられる手紙でもありますね。

「天空の城」竹田城を舞台に「親子共演」

刀を突き付けられる太田垣輝延(演・中野英雄)。(C)NHK

A:さて、『信長公記』には播磨に出陣した秀吉が2週間ほどで播磨攻略のめどを立てたことが記されています。秀吉は播磨攻略だけでは物足らないと思い、但馬にも侵攻することにします。「直(すぐ)に但馬国へ相働き、先(まづ)山口岩洲の城攻落し、此競(このきそい)に小田垣(太田垣輝延のこと)盾籠る竹田へ取懸け、是又退散、則、普請申付け、木下小一郎城代として入置かれ候キ」――。秀吉率いる羽柴軍は、但馬に進攻し、岩洲城を攻略し、その勢いのまま太田垣輝延が籠城する竹田城を攻め落とし、小一郎を城代として入れたということになります。『豊臣兄弟!』では、小一郎役の仲野太賀さんの実父中野英雄さんが太田垣輝延を演じました。オープニングのクレジットを見た時は、ちょっと感動しました。

I:太田垣氏は代々竹田城を守ってきた「山名四天王」の一角。名門の一族です。中野英雄さんの登場で、なんだかピリッと締まった感じがしました。ただ、せっかくの「親子共演」なのに「手前勝手な城主」というキャラ設定というのが、なんだか残念だなーと思いました。せめて「水はそなたたちが飲め」という城主であってほしかった。

A:太田垣輝延の「輝」の字は、室町幕府第13代将軍足利義輝の偏諱だともいわれています。偏諱を受けられる名門だったということになります。ところが、最後は小一郎に殴られて鼻血まで出していましたからね。場を引き締める「親子共演」にしてほしかったという気持ちはわかります。ちなみに竹田城は、「天空の城」として、さらに日本城郭協会認定の「日本百名城」のひとつとして訪れる人が絶えません。そして劇中では、「雲海」が強調されていましたが、雲海はめったにみられないということにご留意ください。私も過去3回登城していますが、一度も雲海は見たことがありません(笑)。

I:竹田城の雲海は、9月中旬から12月にかけての寒暖差のある早朝の時間帯がもっとも狙い目だそうですよ。さて、「人の血を一滴も流さない戦をしたい」という小一郎が竹田城を攻略した一方で、上月城の攻略のために出陣していた秀吉が、上月城を落とした後に、城内にいた女性や子どもも含む人々を殺害し磔にした場面が描かれました。

A:これは、秀吉自身が近江長浜城で留守を守る家臣に送った書状に秀吉自ら説明したのだといいます。毛利方への見せしめのために、敵方兵士の首をはね、女性や子どもも含むおよそ200人の人々を串刺しにしたり磔にしたりして、播磨、美作、備前の国境(くにざかい)にさらしたというのです。

I:「ホワイト小一郎」と「ブラック秀吉」の強烈な対比となりました。実は播磨の国は以前信長にいったん帰順する豪族が多かったにもかかわらず、毛利の調略にあったのか切り崩しされていたようなのです。強烈な見せしめが必要だと秀吉は判断したのだと思いますが、次週、どのような展開になるのか、楽しみですね。

石田三成(演・松本怜生)を播磨に、侍女たちを毛利・織田に見立てた奪い合い。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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