写真はイメージです

2024年6月に国土交通省が発表した「令和5年度マンション総合調査結果」によると、1984(昭和59)年以前に竣工したマンションでは55.9%の住民が70 歳以上。修繕積立金の積立額が不足しているマンションの割合は 36.6%だと分かった。また、近年の物価高もあり、管理費も急騰している。

都内の築30年のマンションに住む和夫さん(64歳)は「マンションの管理費が5万円から8万円になった。固定資産税も年間約15万円。年間111万円も持ち家に払うとなると、働かないとここに住むのは無理。こんなことなら家など買わなければよかった。再雇用で会社に残ればよかった」と語る。和夫さんは、国立大学卒業後、超大手企業に勤務。営業のエースとして活躍し、60歳の定年を迎えた。

研究職から営業職への異例の異動

和夫さんは、フロンティア精神に溢れていた人物だ。30年前当時、一般的に普及していない消費財をくらしに浸透させたという実績を持っている。

「ウチの会社は生活消費財から、巨大設備まであらゆるものを作っている。生活を安全に便利にしたいという思いから、この会社に入ったんです。僕は理系の国立大学で素材関連の研究に没頭していたので、産学連携を重視する教授がお墨付きをくれたので、大手企業に入れたんだと思います」

強い推薦もあり、すぐに内定が決まる。和夫さんは、事前に何事も調べる性格だという。入社前、会社のことを調べると、日本の産業全般を牽引してきたことを知る。資料館などにも足を運び、入社式の時は「この会社で一生働く」と涙が込み上げたという。

「親も親戚も、“いい会社に入った”“我が家の誉だ”と喜んでくれてね。会社員になるまで、実際に親が生活の面倒を見てくれたけれど、大学を卒業したら自活しなくてはならない。そのことへの不安はあったんですが、この会社に入れてもらったら、一生安泰だという感覚があった」

入社した会社は、業績も安定しており、給料もいい。最新の研究設備もあり、それまで育ててくれた両親にも恩を返せるという強い思いがあった。

「大学の研究室なんか目じゃないくらいの設備で、最新の研究をしている。24歳の時にアメリカに研修に出してもらったり、学会などにも連れていってくれた。たくさんの実験を重ねてある資材を開発しました。でも、営業部は全然売ってくれない。そのことが歯がゆくて、異動希望を出し、30代の時に営業部に配属されたのです」

和夫さんは、部長クラスの人や、役員のことを周到に調べて、念入りに根回しをしたという。

「その調査過程で、マーケティングや宣伝部にたまたま同期がいることもわかった。そこで、彼らを巻き込んで、その消費財を売りに売ったんです。これにより、会社の株価も急上昇して、翌年は社長賞も受けました。40代の時に最年少で部長になり、異動当時3人だった部下はたった数年で100人に増えました」

その時が人生の絶好調だった。プライベートでは35歳の時に3歳年下の妻と結婚、2年後に現在も住んでいるマンションを購入。年子で2人の息子も授かった。

「息子たちは可愛かったのですが、何よりも仕事を優先していました。そういえば、伊勢志摩に家族旅行していた時、会社から連絡が入った。何かのトラブルだったか、販路拡大だったか忘れましたが、すぐに東京に戻って、カミさんや息子たちに文句を言われたこともありましたね。会社との繋がりは、強かったと思います」

【あと少し、というところで、部下の女性に手をだす……次のページに続きます】

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