仙台の奥座敷と称される秋保(あきう)温泉。福島の飯坂温泉、宮城の鳴子温泉とともに奥州三名湯に数えられ、およそ1500年前にはその名が歴史に登場する名湯として知られる。仙台駅からはバスで30分ほどという近さもあり、多くの温泉ファンに親しまれている。温泉街を流れる名取川がつくる美しい渓谷沿いに、2024年4月にオープンしたのが『界 秋保』。なんと、バス停が宿の目の前にあるという、ひとり旅には嬉しいロケーションだ。

仙台駅前からバスで約30分、『界 秋保』の玄関前に到着。山脇さんのひとり旅時間が始まる。

颯爽とバスから降りた山脇さん。仙台の七夕祭をイメージした暖簾がかかる玄関から、宮城の伝統工芸品・松笠風鈴が下がるエントランスを抜けてロビーへ。ロビーに一歩足を踏み入れると、そこは山々の緑に包まれる別世界。

「全面窓からの緑に非日常感があり、旅気分が盛り上がります」と山脇さんも大興奮。その緑に溶け込むようなグリーン系のインテリアもじつに落ち着く。また仙台ガラスのこけしやダルマなどの作品が飾られているのも印象的。

自然環境と一体化したかのような広々としたロビー。
ロビーフロアには、仙台ガラスの作品がいくつも飾られている。

客室へ向かう前に案内されたのは、トラベルライブラリーと、足湯付きのテラスがある「せせらきラウンジ」。仙台藩の時代から続く仙台駄菓子などの菓子、クラフトジンや地元のワインなどが用意され、自由に味わうことができる。渓流を眼下にする気持ちのいいテラスでは、さっそく足湯で秋保温泉の湯の良さを実感できる。

テラスとつながるトラベルライブラリー。
「せせらきラウンジ」では、15時30分~22時まで菓子やドリンクが用意されている。

「渓流のながめが最高。 足湯もかなり気持ちいいですね。足だけの入浴なのに、全身を血が巡る、足湯の力を久々に感じました」と、山脇さんもお気に入りの場所になったようだ。

爽やかな風を感じ、足湯で寛ぐ山脇さん。

これぞピクチャーウィンドウ! ご当地部屋「紺碧の間」

客室は「紺碧(こんぺき)の間」と名付けらえたご当地部屋。窓辺のスペースは壁も床もソファやクッションもすべてが紺碧色にまとめられ、窓の外の景色がぐっと引き立つ。新緑から紅葉、雪景色と四季折々の風景を切り取ってくれる、まさにピクチャーウィンドウである。「窓側のソファに足を投げだして座り、空と山々を見てのんびりできました。思い切った色彩も個性的で印象を深くしていますね」(山脇さん)

また仙台ガラスや仙台の隣、白石(しろいし)の白石和紙が客室を彩るほか、どの「界」もそうだが、こちらの部屋の鍵も個性的で、凝灰岩の秋保石(あきういし)を使い七夕の短冊を模している。

客室からの窓の景色は圧巻。ソファで外を見ながらリラックスできる。
秋保石を使った部屋の鍵。個性的で印象に残る。

大浴場で1500年の湯を堪能する

館内着に着替えたら、大浴場へ。竹林が続く長い廊下をのんびり歩いた先に、大浴場がある。

温泉への期待が高まる、大浴場への長いアプロ―チ。

入浴前には、ぜひ毎日16時15分から開催される「温泉いろは」に参加を。秋保温泉の成分はナトリウム・カルシウム-塩化物泉。保温効果が高く体が温まる湯で、メタホウ酸が多く、傷の治癒にも向くと言われる温泉である。巻物仕立ての解説に加え、源泉で温めたおしぼりも用意される。

巻物を使って分かりやすく解説してくれる「温泉いろは」。
「温泉いろは」では、源泉で温めたおしぼりも用意される。

大浴場には敷地内の2本の源泉が引かれ、源泉かけながしの「あつ湯」と、ぬるめの「ぬる湯」、開放的な露天風呂が備わる。緑がかった黄色の湯は肌によく馴染み、のんびりと長湯もできそうだ。

「個々の洗い場スペースがとても広くて、全面鏡で(お掃除が大変だろうなぁと思いつつ)使いやすかったですね。掛け流しの檜の風呂も芯から温まりました」と、山脇さんも名湯を満喫した。

源泉が満ちる檜風呂の「あつ湯」。

伊達の粋を殿様気分で味わう「新伊達会席」

夕食は伊達政宗にちなんだ大名会席、「新伊達会席」。なぜ大名会席かというと、すべての料理が塗りの脚付き膳で供されるからだ。先付は牛テールと仙台味噌を合わせたリエットを仙台麩につけていただく。料理の折敷に用いられているのは、モダンでポップな伊達の陣羽織のデザインで、華やかにスタート。

シンプルながら洒脱な見栄えの先付。

「界」名物の「宝楽盛り」も御膳で登場。「宝楽盛り」というと、どの「界」も凝った演出でご当地感を表現しているが、このスタイルはかえって新鮮で、“伊達”な演出に映る。旬の魚のお造りや北寄貝の酢の物など、味わい深いものばかり。さらにメインの「牛の山海俵鍋」は、鶏がらと香味野菜の出汁にトリュフで香り付けしたつゆに、牛ロースと牛タン、雲丹醤(うにひしお)を巻いた牛ロースを潜らせて食す。殿様気分の贅沢な一品だ。

八寸やお造り、酢の物などの「宝楽盛り」。
「牛の山海俵鍋」。まず皿の中央に盛られている黒いトリュフを鍋に入れて香りを出す。

「家庭料理の世界では、よく『人は食べたことないものは、食べたがらないし、作らない』というのですが、ほんとにそう思います。奇を衒うことなく、直球な料理でとてもおいしかったです。いい意味で、最高の家庭料理ともいえるのかも。ほっとする、安心して食べられるお料理でした」と、山脇さんは『界 秋保』の料理の美味しさを語った。

朝食では、伊達政宗が好物だったという「芋の子汁」が供され、山脇さんが話すように、心と体があたたまる、ほっとする味わいだった。

朝食の「芋の子汁」。根菜類が多く優しい味わいで、ついお代わりしてしまう。

ご当地楽は「そび、そび、ばび!」

土地の文化に触れるご当地楽は、専用の個室で行なわれる「伊達な宴」。正面には伊達政宗の軍旗を思わせる黄金の太陽が輝き、これから何が始まるやら。ひとりひとりに陣羽織が渡され、席に着くと、もうそこは江戸時代。粋人だった伊達政宗は酒席も大切にしていたとのことで、武士の作法で日本酒を楽しむ(飲めない方用に甘酒も用意されている)。

酒の心得は、品格と教養のある者同士で、人間性と精神性を高めること。耳が痛いが肝に銘じたい心得だ。そして「そび、そび、ばび」という合言葉で、三度に分けて酒を注ぐ。一度目と二度目は「そび」、つまり鼠の尾のように少しだけ注ぎ、三度目は「ばび」、馬の尾のように多く注ぐ。これはじつにユニークな酌の方法だ。山脇さんも実践してみて、今度どこかの食事会で披露したいとご満悦。この宿に滞在したら、ぜひ、その全貌を体験してほしい。

ご当地楽の終了後は、またトラベルライブラリーでドリンクを飲んだり、テラスの足湯に浸かったり。タイミングがよければ、「せせらきラウンジ」での生演奏に耳を傾けることもできる。

ご当地楽の会場は、殿様の御殿を想起させる格調の高さ。
ここでも巻物を使って心得が解説される。
武士の作法で日本酒を楽しめる、ご当地楽「伊達な宴」。

清々しい朝の時間をテラスで

翌朝はテラスにて、「うるはし現代湯治」の体操で体を目覚めさせる。『界 秋保』のオリジナル体操は、渓流釣りをイメージした動きで、釣竿を持ち、釣り糸を遠くに投げるように身体を伸ばす。

「わー、体がガチガチ。ランニングだけではだめですね、ストレッチも大切」と、山脇さんも全身をほぐした。

「うるはし現代湯治」の体操。朝の空気を吸いながら、心地よく体をほぐせる。

体操のあとは、朝の光を受けて渓流を眺めながらひと落ち着き。

「とても気に入ったお宿です。バスの便がとにかく便利なので、ひとりでも、女子旅でもリピートしたくなりました」と、山脇さんは秋保温泉の旅を満喫した。

朝の体操のあと、「せせらきラウンジ」で一服。

『界 秋保』

宮城県仙台市太白区秋保町湯元平倉1番地
電話:050-3134-8092(界予約センター)
料金:1泊3万1000円〜(2名1室利用時1名あたり、税・サービス料込、夕朝食付き)

「界」には、それぞれのスタンプが用意され、「お湯印帳」に感想とともに記録ができる。

山脇りこさん
長崎生まれ。料理家・エッセイスト。「きょうの料理」(NHK)をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍中。『明日から料理上手』(小学館)のほか、台湾料理の本など台湾関連の著書も多い。旅のエッセイ『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)が12万部を越えるベストセラーに。

【今回のひとり旅ワンポイント】
バス停ひと駅分、7分ほど歩くと渓流のそばまでいくことができるので、ぜひスニーカーを持参して。「界」にはそれぞれ風呂敷があり、こちらの風呂敷は、裏の無地の色が鮮やかなグリーン。朝ごはんの時、裏を表に袋にして持っている方がいらして、すてき、と思いました。風呂敷は袋にする結び方の説明書もあるので、おしゃれな小袋としていつも館内で使っています。また帰ってからも、籠の内袋にしたり、旅支度では服を包んだりして愛用しています。帰宅後も楽しんでみてください。
ライブラリーやロビー、お部屋の窓辺のソファなど、映えるスポットがたくさんあるので、セルフタイマーにして、自分なりのベストショットを狙うのも楽しいかも。誰かいたら、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。

●「界」について

「界」は星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランドです。「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、季節の移ろいや和の趣き、伝統を活かしながら現代のニーズに合わせたおもてなしを追求しています。また、地域の伝統文化や工芸を体験する「ご当地楽(ごとうちがく)」、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」が特徴です。

 

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