写真はイメージです

団塊世代が75歳以上になる「2025年問題」が来年に迫った。今、問題となっているのが、中小企業の後継者難だ。調査会社・東京商工リサーチは、2024年7月に「2024年上半期の後継者難による倒産が過去最多の254件だった」と発表。

中小企業庁は「中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある」と分析。全国各地に「事業承継・引継ぎ支援センター」という窓口を設けている。

和明さん(64歳)は「60歳定年で、宮仕えが終わったら、弟が急死。家業の社長になる羽目になった」と語る。和明さんは、大学卒業後、金融関連会社勤務を経て、環境関連のコンサル会社に転職。そこで60歳の定年を迎えた。

支配欲が強い弟と、凡庸な兄

和明さんは関西地方の中都市の長男として生まれた。実家は社員20人規模の運送関連会社で、創業は江戸末期に遡るという。

「創業期は油屋だったようです。時代に合わせて商売の内容を変え、零細企業のまま100年以上も時を重ねている会社ですよ。決まった取引先と仕事して、ルート営業していれば、事業は回っていく。とはいえ、小さな会社ですから経営者も現場に出る。幼い頃から、祖父と父は座る間もないくらい忙しく、僕は家族旅行に行ったことがないんです。友達の会社員のお父さんは、日曜日に遊んでくれて、クリスマスにはデパートでおもちゃを買ってもらっていた。うらやましかったですね」

そんな和明さんの将来の夢は「会社員になること」だったという。

「僕は1960年代後半に小学生時代を過ごした。当時の男子の憧れの職業は、野球選手、宇宙飛行士、漫画家などだったから、“夢がない奴だ”と呆れられました」

家業には興味を全く持てなかったという。

「当時の運送業のドライバーは声が大きくて、どこか威圧的で幼心に怖かった。2つ下の弟は父や祖父の後を追い、“この会社、全部、おじいちゃんのものなの?”と言っていました。支配欲が強いんですよ。僕は凡庸だから勉強をしていました」

和明さんは勉強ができ、県内トップの進学高校から関東の国立大学に進学した。

「両親も大喜びでした。当時の勉強は、努力を持続させて、ひたすら反復作業をすれば合格できる。誰でもできるのに、みんななんでやらないんだろうと思っていました。ただ、東大に入る同級生は、“内臓の強度”のようなものが違った。僕はたまに遊んでしまうし、時々“何のために勉強するんだ?”と思ってしまっていた。でも、東大組は気の遠くなるような反復作業を嬉々としてやっていた。今、大谷翔平選手が大活躍しているけれど、彼もそういう人なんだろうと思います」

大学卒業後は、大手の金融関連会社に進み、結婚を機に環境関連のコンサル会社に転職。

「金融に行ったのは給料が高いから。特にやりたい仕事がなく、給料が高いところにしました。若手は当然、営業ですよ。僕は言われたことをその通りにやるのが得意だから、上司に言われた通りにやった。1日100本の営業電話をかけて、ビラ配って訪問して。そうしたらたちまちトップになって、20代で地方支社の支店長に。当時は2年で転勤になる。30歳で結婚したカミさんが“転勤は嫌だ”というから転職したんです」

転職先は大学の友人からの誘いに乗った。当時、工場排水や大気汚染など企業の公害が社会問題になっており、その解決を行なうプランを提案し続けたという。

【家業はコンビニと飲食店になっていた……次のページに続きます】

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