
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第39回では、豊臣秀吉(演・池松壮亮)と茶々(演・井上和)の「縁組」が描かれました。
編集者A(以下A):これまで多くの作品では、秀吉がかつて恋慕の情を抱いていた市の面影を娘の茶々に求め、求愛するという流れが多かったと思います。1981年の『おんな太閤記』で茶々を演じたのは池上季実子さん。1979年の『草燃える』で源頼朝の長女大姫を演じたばかりでした。同作では、信長の四男(『豊臣兄弟!』では五男)で秀吉の養子になっていた於次秀勝(演・草見潤平)と両想いの関係という設定でした。
I:茶々と於次秀勝は従兄妹の関係ですから、「なるほど、そうなのかも」という設定ですね。
A:於次秀勝は、天正13年(1585)に18歳で亡くなり、茶々が衝撃を受けるというのが『おんな太閤記』の設定でした。『草燃える』では恋焦がれていた木曽義高(演・長谷川裕二)が父である源頼朝(演・石坂浩二)に討たれたことでショックを受けた大姫を演じていたので、池上季実子さんは、2作続けて悲運の姫を演じていたのがものすごく印象に残っています。
I:なるほど。
A:気になるのは、於次秀勝の死を知った家康(演・フランキー堺)が、信長(演・藤岡弘/現・藤岡弘、)の実子である秀勝の死が、秀吉政権の正統性を揺さぶる一大事だと感じていた場面です。脚本の橋田寿賀子さんの鑑識眼恐るべしです。同作は「監修」を戦国史研究の泰斗・桑田忠親先生が務めていたのですが、桑田先生の的確なアドバイスがあったものと推測します。
I:当時は「時代考証」ではなく「監修」だったんですね。『おんな太閤記』では、秀吉(演・西田敏行)と茶々はなぜ結びついたのですか?
A:周囲は加藤清正(演・加藤健一)と茶々との縁談を勧めましたが、茶々が拒絶。茶々は秀吉の側にいたいと希望するのです。
I:『豊臣兄弟!』の設定と異なるのは、どのような経過で秀吉と茶々が結ばれたのかわからないからですよね。つまり自由に表現できるということになります。
A:怒られるかもしれませんが、せっかく秀長が主人公で、前半は秀吉よりも秀長のほうに市(演・宮崎あおい)が好意を寄せているような場面もあったわけですから、「わしが茶々殿を娶りたい!」と秀長が叫んでもいいような気もしました。兄弟で茶々を取り合うという設定ですね。
I:さて、それはどうですかね? 本作の秀長は「いい人設定」ですから。
松たか子が演じた『秀吉』の茶々
I:1996年の大河ドラマ『秀吉』では、茶々は松たか子さんが演じました。
A:もう30年前になりますが、松たか子さん演じる茶々は、大河ドラマ史上屈指の「型破り茶々」として登場しています。
I:いったいどういう茶々だったのでしょうか。
A:清須会議の際に会議に茶々が乱入してきたという話題は当欄でも既報ですが、『秀吉』第40回「誘惑」という回では、さらに型破り。茶々は、南蛮の洋装に着替えて、真田広之さん演じる石田三成を誘惑するという衝撃的な場面です。絵面(えづら)としては、スナックのママがエリートサラリーマンを誘惑しているかのような感じです。今にして思えば、大河ドラマ史上屈指の名場面です。
I:石田三成と茶々はいい仲だったという話は時々浮上しますが、『秀吉』では露骨に茶々から三成を誘惑しているのですね。
A:さらに『秀吉』では、茶々が、家康(演・西村雅彦/現・西村まさ彦)の次男秀康との縁談を望んで、秀吉(演・竹中直人)を激怒させるシーンも描かれました。紆余曲折があって、秀吉と茶々は「男と女、明るくちぎらねばならぬ」「ぼっせ、むいと、ぼにーた」と、お主はまこと美しいというポルトガルの言葉まで交わされます。笑みを見せる茶々に「笑ったの」といって秀吉が茶々を抱き寄せるのです。竹中直人さんと松たか子さんの名場面です。
I:『豊臣兄弟!』の設定のはるか上をいく展開ですよね。30年前といえば、インターネットの普及も道半ば。もちろんSNSはありません。その是非はともかくとして、今ならSNSで炎上したかもしれませんね。
A:でも、『秀吉』は全話の平均視聴率が30%を超えた作品。当時、毎週楽しみにしていた作品でもあります。型破りな設定も含めて楽しんでいたわけです。『豊臣兄弟!』も同じ路線を狙った節がありますが、30年という時空の差はそれをよしとしなかったようです。それにしても、今さらこんなことをいっても詮無い話ですが、松たか子さん演じる茶々で豊臣家滅亡までの軌跡を見たかったなあと思うのですよね。
I:なるほど。確かに。『秀吉』は秀吉の死後は描かれませんでしたからね。一方の『おんな太閤記』の場合は主人公がねね(演・佐久間良子)だったので、池上季実子さんの茶々による豊臣家滅亡までが描かれました。
A:またまたこんなことをいうと怒られるかもしれませんが、現在の松たか子さんと茶々=淀殿の没年齢はほぼ同じなんですよ。30年前の「答え合わせ」見たいなあ、といっておきます。
I:それは、『豊臣兄弟!』でもいえることなんですよね。本作も秀吉の死後は描かれません。ところが、第12回で、秀吉が生まれたばかりの茶々を抱いた際に「豊臣の世を作ったものと、終わらせた者の出会い」というナレーションが被されました。
A:ならば、茶々の行く末を最後まで見たい、ということですね。秀吉の晩年。家康(演・松下洸平)のこと、三成(演・松本怜生)の関ケ原など見たい場面はたくさんありますね。関ケ原に関しては、予算などのバックヤード事情を含めて、2000年の『葵 徳川三代』を越すことは難しいでしょうし。
I:とはいえ、茶々の最期まで見たい! という声が盛り上がるような井上和さんの熱演ですよね。
A:その井上さんからコメントが届いておりますので、本稿を終える前にご紹介しておきたいと思います。
学校の授業で学んだときは、気が強く、芯のある人物という印象を持っていました。でも、脚本を読ませていただく中で、今作の茶々に対する印象は少しずつ変わっていきました。少し素直になれないところがありながらも、自分の置かれた状況に真面目に向き合っている人なのだと感じたんです。戦国の世を生きる武家の女性として背負わなければならないものと、自分自身が望む生き方との間で、どうすべきか悩み続けていたのではないかと思います。そうした心の動きを表現するのは難しいところですが、自分自身の少し不器用な部分も役に生かせるのではないかと思いながら、撮影に臨みました。
I:茶々役を演じるにあたり、同じ乃木坂46の先輩である久保史緒里さんが、「大河先輩」としてアドバイスをくれたそうです。
久保史緒里さんが出演された大河ドラマ『どうする家康』(2023年)を見ていて、久保さんのお芝居やご活躍を目にしていたので、プレッシャーもありました。でも、久保さんが乃木坂46の看板を背負いながらすばらしいお芝居を見せてくださったからこそ、私もこうしてこの場所に立たせていただけているのだと思います。実はクランクイン前に、偶然久保さんにお会いする機会があったんです。そのときに「大丈夫だよ、楽しんで」と温かい言葉をかけてくださいました。大河ドラマの先輩としても、乃木坂46の先輩としても、とても心強い存在です。
A:『豊臣兄弟!』後半戦は、茶々の登場も多くなってきそうですし、今後も井上さんの好演に期待したいですね。

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり







