月代を剃って登場した秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)兄弟。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第33回では、柴田勝家(演・山口馬木也)を討った後、秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)が月代(さかやき)を剃った姿を初披露という形になりました。これまでは、秀吉も小一郎も総髪でしたが、月代もなかなかお似合いでした。でも、いったいなぜこのタイミングで「月代」なのでしょうか。

編集者A(以下A):月代を剃ったからといって、位が上がったとか偉くなったとかそういうことではないのですけどね。柴田勝家に勝利した段階で、天下一統を見据えてということを印象づけたいということなのかもしれません。

I:でも、小学生の視聴者などは「月代を剃る」=なにか意味あることと受け止めたかもしれませんよ。

A:おっとそれは想定外でした(笑)。それでは、歴代大河ドラマの「秀吉と月代」を振り返りたいと思います。1973年の『国盗り物語』は総集編しか映像が残されていませんが、火野正平さんが演じた秀吉が月代姿で登場したのは、北陸で柴田勝家と喧嘩した場面でした(天正5年/1577)。

I:『国盗り物語』は1973年ですから、もう半世紀以上前の作品になりますね。

A:1981年の『おんな太閤記』は第1回が桶狭間の戦い(永禄3年/1560)でしたが、足軽の木下藤吉郎(演・西田敏行)はすでに月代を剃った状態でした。1983年の『徳川家康』では、桶狭間の戦いの直前で台所奉行を務めていた藤吉郎(演・武田鉄矢)が月代をしっかり剃っていました。

I:『徳川家康』の武田鉄矢さんの「髪型」は、当時も今もあまり見られないスタイルだった記憶があります。

A:1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、織田信長(演・緒形直人)が足利義昭(演・青山裕一/現・三代目花柳寿楽)を奉じて上洛。仲村トオルさん演じる秀吉が「京都奉行」に任ぜられた際に、月代を剃った姿での登場となりました。秀吉が主人公となった1996年の『秀吉』では、竹中直人さん演じる秀吉の月代姿は、永禄7年(1564)の冬に蜂須賀小六(演・大仁田厚)を味方にするために小六のもとを訪ねた時が最初です。

I:作品によってタイミングが異なるということは、「定説」はないということですね。

A:2002年の『利家とまつ~加賀百万石物語』では桶狭間の戦い、墨俣築城の際には香川照之さん演じる秀吉はまだ総髪で、月代姿は信長が美濃を平定して稲葉山城を岐阜城と改めたタイミングでした(永禄10年/1567)。2006年の『功名が辻』では柄本明さんが秀吉を演じましたが、墨俣築城の際にはすでに月代でした。2011年の『江 姫たちの戦国』では、三木城を攻めている最中(天正6年/1578)の秀吉(演・岸谷五朗)が信長(演・豊川悦司)のもとに戻ってきました。そのタイミングでは月代を剃っていました。2014年の『軍師官兵衛』では、1996年の『秀吉』で主演した竹中直人さんが再び秀吉を演じましたが、けっこう早い段階から月代を剃っていましたね。

I:こうして振り返ると、まったく法則はないのですね。

A:興味深いのは、2020年の『麒麟がくる』です。13代将軍足利義輝(演・向井理)が健在だったころは、秀吉(演・佐々木蔵之介)も明智光秀(演・長谷川博己)とともに烏帽子姿でした。信長が足利義昭(演・滝藤賢一)を奉じて越前の朝倉義景(演・ユースケ・サンタマリア)を討つために出陣する直前でも烏帽子姿です。ところが、越前に出陣する際には月代を剃った姿で登場するのです。

I:もともと月代を剃る行為は、合戦の際に兜をかぶったままだと蒸れるので、蒸れを防ぐために髪の毛を抜いたといわれています。剃るようになったのは戦国時代ということです。

A:『麒麟がくる』の風俗考証はそのあたりのことを綿密に考証したということなのでしょうか。2023年の『どうする家康』はムロツヨシさん演じる秀吉のチリチリ頭が印象に残っていますが、月代姿で登場したのが、柴田勝家を滅ぼして、徳川家康が家臣の石川数正を秀吉のもとに挨拶に出向かせた場面からになります。

I:なるほど。ということは『豊臣兄弟!』における「秀吉の月代」は『どうする家康』とほぼ同時期の設定だということになりますね。

日本人男性の髪型を考える

I:日本男性の髪型を大河ドラマで振り返ると、もっとも古い時代(平安時代中期)を描いた1976年の『風と雲と虹と』では、武士はみな烏帽子をかぶっていました。

A:烏帽子をかぶっていない姿を他人に見られるのは恥ずべきこととされ、1979年の『草燃える』では、源頼朝(演・石坂浩二)の妾宅を北条政子(演・岩下志麻)に命じられて破却した牧宗親(演・中井啓輔)が、頼朝によって髻(もとどり)を切られて泣き叫んだ場面がありました。当時、小学5年生だった私は、髻を切られることがそれほど恥ずかしいことなのかと、強烈に印象づけられたことを記憶しています。

I:『豊臣兄弟!』は小学生の視聴者が多いといわれています。それだけに、たかが髪型とはいかないということですね!

A:室町時代を描いた1994年の『花の乱』でも将軍は立烏帽子、武士は烏帽子でした。烏帽子をかぶらない武士が登場するのは戦国時代になってからですが、1997年の『毛利元就』の時代はまだ烏帽子が主流です。

I:『豊臣兄弟!』でも、織田信長(演・小栗旬)の葬儀の際には、参列者は烏帽子姿でしたね。公の席では烏帽子ということだったんでしょうね。

A:前述の通り、『麒麟がくる』でも烏帽子姿も多い秀吉と光秀です。合戦が多い戦国時代という事情があると思いますが、月代を剃るスタイルは江戸時代の「髷」に継承されて、明治4年に「散髪脱刀令(断髪令)」が発布されるまで、世界にも稀な「髷の時代」が続くのです。

I:今となっては神職、相撲の行司、あるいは、歴史的な行事のときくらいしか烏帽子姿を見ることができません。男性の髷といったらお相撲さんくらいしか思い浮かびませんが、まして月代なんて実物を見たことがないかもしれません。

A:女性も含めて『髪型の日本史』もおもしろそうですね。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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