勤倹力行

人生は、いつも順風満帆とはいきません。若い頃は勢いで越えられたことも、年を重ねるほど、体力や気力に響くことがあります。思いがけない出来事に心が折れそうになるのも、決して特別なことではありません。

そんなとき、何気ない誰かのひと言に救われることがあります。また、時代を越えて残ってきた言葉には、いくつもの教訓や「立て直しのヒント」が含まれています。今日の一文が、あなたの心に小さな灯をともす存在になれば幸いです。

今回の座右の銘にしたい言葉は「勤倹力行」(きんけんりょっこう) です。

「勤倹力行」の意味

「勤倹力行」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「勤勉倹約で、努力して物事を行なうこと」とあります。「きんけんりっこう」とも読みます。「仕事に励んで無駄遣いをせず、目標に向かって精一杯努力すること」を意味します。

この四字熟語は、二つの言葉の組み合わせから成り立っています。

前半の「勤倹」(きんけん)は、「勤勉」の「勤」と、「倹約」の「倹」。つまり、真面目に一生懸命働き、決して贅沢や無駄遣いをしない様子を表しています。

後半の「力行」(りょっこう・りっこう)は、困難に屈することなく、持てる力を尽くして物事に取り組む姿勢を意味します。

つまり「勤倹力行」は、単なる節約のすすめではありません。勤勉さ、節度、実行力という三つの価値を併せ持つ言葉なのです。

50代以降の世代にとって、この言葉が心に響くのは、人生後半に必要な知恵が詰まっているからでしょう。収入や肩書だけを追い求めるのではなく、自分に与えられた仕事を丁寧に行い、身の丈に合った暮らしをし、決めたことを少しずつ続ける。勤倹力行は、地に足のついた成熟した生き方を示しています。

「勤倹力行」の由来

「勤倹力行」という言葉は、特定の古典や書物に明確な出典があるわけではなく、古くから日本人の美徳として語り継がれてきた概念が四字熟語として定着したものです。「勤勉」「倹約」「実行」を尊ぶ考え方は、日本でも長く大切にされてきました。戦後の復興期や高度経済成長期を支えた世代にとっては、とりわけ身近な価値観でしょう。一方で、「ひたすら働き、我慢する」という古めかしい精神論に聞こえることもあります。

しかし、現代の「勤倹力行」は、もう少し柔らかく捉えることができます。

たとえば、健康のために毎日歩く、必要のない契約を見直す、地域活動に無理のない範囲で参加する、新しい知識を少しずつ学ぶ。これらも立派な「勤倹力行」です。大切なのは、自分を追い込むことではなく、生活を整えながら必要な努力を続けることにあります。

写真:photoAC

「勤倹力行」を座右の銘としてスピーチするなら

スピーチでこの言葉を用いる際の注意点として、単なる「説教」にならないよう気を配ることが大切です。「昔はもっと苦労した」「今は贅沢だ」といった押し付けがましい表現は避けましょう。

あくまで自分自身のこれまでの歩みを振り返り、感謝の気持ちとともに「自分に対する戒めと誇り」として語ることで、聞く人の心に自然と響く温かいスピーチになります。以下に「勤倹力行」を取り入れたスピーチの例をあげます。

定年退職時の挨拶としてのスピーチ例

私の座右の銘は「勤倹力行」です。仕事に励み、無駄を慎み、力を尽くして物事を行うという意味があります。

若い頃の私は、この言葉を「懸命に働き、お金を使わず、苦労に耐えること」だと思っていました。しかし、年齢を重ねた今は、少し違う受け止め方をしています。

長く仕事を続けてこられたのは、特別な才能があったからではありません。目の前の役割をおろそかにせず、一日一日の小さな務めを積み重ねてきたからだと思います。

また、暮らしの中では、何もかも切り詰めるのではなく、自分にとって本当に必要なものを見極めることを大切にしてきました。家族との時間や健康、学びに使うお金は惜しまず、見栄や惰性による出費はできるだけ控える。その選択が、現在の安心につながっています。

これからは、若い頃と同じような無理はできません。だからこそ、自分の体力や生活に合った方法で努力を続けたいと思います。毎日少し歩くこと、本を読むこと、人とのご縁を大切にすること。どれも目立つ行いではありませんが、続ければ人生を支える力になるはずです。

勤倹力行とは、苦しさを我慢するための言葉ではなく、限りある時間や力を大切に使うための言葉だと私は考えています。これからも背伸びをせず、しかし歩みを止めず、自分にできることを一つずつ積み重ねていきたいと思います。

最後に

「勤倹力行」は変化の激しい現代だからこそ、浮き足立つことなく、自分の軸をしっかりと持って生きるための力強い味方になってくれます。人生後半は、若い頃のように速く走ることだけが正解ではありません。必要なものを見極め、自分の力を注ぐ先を選び、できることを着実に続ける。そうした生き方もまた、豊かな努力の形です。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
9月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店