
日本酒を炭酸で割って飲む――そう聞くと、意外に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ところが近年は酒蔵自身が炭酸割りを提案する例も増えており、日本酒の楽しみ方のひとつとして珍しいものではなくなってきました。今回は日本酒の炭酸割りの呼び方から、基本の作り方、レモン果汁やコーラを合わせる楽しみ方、気になるカロリーの話まで、解説していきます。
文/山内祐治
日本酒の炭酸割りにはどんな名前がある?「酒ハイ」「サワー」と呼ばれるわけ
日本酒の炭酸割りは、“炭酸で割る”という意味では、ウイスキーの炭酸割り、いわゆるハイボールと同じ位置づけになります。焼酎をベースにしたものが「チューハイ(焼酎ハイボール)」と呼ばれるのと同じように、日本酒がベースの場合は「酒ハイ(SAKEハイ)」や「日本酒ハイボール」と呼ばれることがあります。さらに、レモンなどを入れて「サワー」という呼び方をされることも多いです。
たとえば新潟には、「麒麟山」という銘柄があります。この「麒麟山」を炭酸で割ってレモンを絞ったものは「麒麟山サワー」と呼ばれ、新潟県を中心に実際に親しまれています。直近のトレンドでは日本酒のアルコール度数が下がり、微発泡タイプのお酒も増えてきています。一方で、無濾過や原酒などのお酒を炭酸で割って楽しむという飲み方も、これからも大切にしていっていただきたいと思っています。
日本酒の炭酸割りは邪道か? 提供側の視点から答えます
日本酒には「炭酸割りはダメ」というイメージや、「水で割るのも炭酸で割るのもどこか邪道」だという感覚を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。
これについて、私はまったくそんなことはないと思っています。
理由はいくつかあります。そもそも日本酒の造り方において、「原酒」という規格のもの以外は(細かく言えば実は原酒も含めてなのですが)、加水(割水)を行っていると考えていただいて構いません。「少し水を足す」ということ自体は、一般的に行われていることなのです。
特に原酒として出荷されているものについては、好みに応じて水や炭酸水で割って楽しむのも、ひとつの飲み方です。その加水する水に炭酸が入っていたとしても、何ら問題はありません。
西多摩地区の酒蔵3社から「日本酒ソーダ」という名称で、ソーダ割り推奨日本酒も販売されています。そうした酒ハイは軽さがあって飲みやすく、これまで日本酒を飲んでいなかった方が日本酒に触れるきっかけにもなっています。もちろん炭酸割りに向く日本酒とそうでないものはありますが、そうしたお酒が存在すること自体が、割ることに心理的な壁を感じなくてよいという裏付けだと思っていただければと思います。
美味しい日本酒の炭酸割りの作り方、割合とコツ
日本酒の炭酸割りの作り方はとてもシンプルです。基本的には、日本酒と炭酸水を1対1くらいの割合で割っていただければよいでしょう。そうすると一般的な日本酒を使用していればアルコール度数はおおよそ10度以下まで下がりますので、比較的飲みやすくなります。ただし当然、味わいも薄まりますので、ベースとして選ぶお酒には少し気をつけていただくとよいと思います。
注ぐときは、優しく注いであげるとよいでしょう。炭酸を逃さないため、あまりかき混ぜないでください。よく冷えた炭酸水を使い、優しく注ぐのがポイントです。また、炭酸が強めのものを使っていただくのもおすすめです。よく冷えた、無糖・無香料の強炭酸水が、まずは一番楽しんでいただけるのではないかと思います。
合わせる日本酒については、後ほどおすすめ銘柄のところでお話ししますが、私自身は、度数がやや高く、味わいに厚みのある若い原酒系を合わせやすいと感じています。たとえば純米原酒や純米吟醸原酒といったタイプは、炭酸と合わせて楽しんでいただきやすいはずです。
レモンを効かせた日本酒の炭酸割りが人気な理由

日本酒の炭酸割りにレモンを加えると、爽やかさを引き出すことができます。まさに先ほどお話しした麒麟山サワーがその代表例です。新潟駅付近の居酒屋に行くと、麒麟山サワーは定番の一杯として置いてあり、ビールの代わりに、最初の一杯目からこれを飲まれる方も多くいらっしゃいます。
そこで使われているのが、「麒麟山」を代表する銘柄「伝統辛口(愛称・でんから)」です。これと炭酸水を1対1くらいで合わせ、氷を入れたければ氷も入れて、そこにレモンを絞るという作り方です。市販のレモン果汁と強炭酸水があれば手軽に作れますので、試していただければと思います。
その味わいが一度分かってしまえば、「伝統辛口」に似たタイプのお酒を選んでいただくのもよいでしょう。パック酒から探す場合は、アルコール度数が少し高めのものや「原酒」と書いてあるものを選んでいただくとよいと思います。

https://kirinzan.co.jp/lineup/denkara-genshu/
日本酒の炭酸割りにおすすめの銘柄はこれ
まず先ほどお伝えした通り、「麒麟山」は新潟の麒麟山サワー文化を支える大切な一本ですので、これはまずおすすめできる銘柄です。
少し変わったところでは、奈良のお酒である大倉本家の「大倉」もおすすめです。ここのお酒は個性的なものが多く、なかにはレモンのような爽やかな酸を感じるお酒もあります。柑橘系の酸を感じるお酒が多い蔵で、生酒のタイプは特に楽しめると思います。ラインナップの中には「陽の光」や「S.yedo」といったお酒もあり、こうした個性的な名前のお酒も面白く飲んでいただけると思います。
そのほか、広く考えていただくと「原酒」と書いてあるお酒であれば、割っても美味しく飲めるので、いろいろ試していただいてよいと思います。新潟の淡麗辛口系のお酒から始めていただくのも、取り組みやすい方法だと思います。
あとは、「菊水」の缶入り生原酒(ふなぐち)もおすすめです。柑橘やレモンを絞っていただくのも面白い飲み方です。その場合は、炭酸の量を少し多めにしていただいても構いません。
実は面白い! 日本酒のコーラ割りにも挑戦してみよう
コーラで割るというのも、私はありだと思っています。特におすすめしたいのは、熟成酒・古酒です。常温で熟成させた古酒をコーラで割ると、スパイスのようなニュアンスが加わり、面白くなります。
度数の高い熟成酒、熟成させた純米原酒のようなタイプは、コーラとの相性が特によいと思います。コーラ自体に甘さがあるので、合わせるお酒はあまり甘くないタイプがおすすめです。酸味のしっかりした山陰地方の純米原酒を常温熟成させたものなどは、面白さが出ると思います。例えば、「日置桜」「富玲」などはおすすめです。
また樽で寝かせたお酒もコーラ割りにおすすめです。兵庫県の江井ヶ島酒造が造る「日本魂 AGED BY THE SEASIDE」は水酛のお酒を樽で寝かせたお酒で、これはコーラ割りにするととても美味しく感じます。カロリーが気になる方は、ダイエットコークなどで試していただいてもよいと思います。
日本酒の炭酸割りは太る? 気をつけたいポイント
結論から言うと、太るかどうかはどれだけ飲んだかによるところが大きいです。炭酸割りは飲みやすくなるぶん、ついつい杯を重ねてしまい、糖分の観点からも焼酎の炭酸割りを飲むよりもカロリーをとり過ぎやすくなってしまう面はあります。前述のコーラ割りをすると、なおさらその傾向が強まるかもしれません。適量を守っていただくことに尽きますので、そこは気をつけていただければと思います。
もう一つ気に留めていただきたいのは、日本酒の炭酸割りを飲みながら、ついおつまみを食べすぎてしまう点です。炭酸で割ると、どうしてもお刺身よりも揚げ物という気分になりがちです。そのあたりも少し意識していただけるとよいと思います。
まとめ
日本酒を炭酸で割ることは、決して邪道ではないと私は思っています。酒屋さんに行って、「炭酸で割って美味しいお酒はありますか?」と聞いても、決して怒られません。特に日本酒を専門的に扱っている酒販店であれば、一緒になって考えてくれると思いますので、ぜひ気軽に聞いてみてください。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズプロフェッショナルの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史







